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救炎のガルダ  作者: ドカン
2章 黒の翼
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第24話 幸せな夢

 「おやすみ」


 その言葉と共に放たれた、ムギンの風がヒメとタレスを襲う。

 ヒメとタレスはその場に倒れ込み、まるで死んだように眠ってしまった。


 「ヒメ!」

 「タレス!」


 ヒメにはナビが、タレスにはミュソスが身体を揺さぶりながら声をかけるが、全く反応がない。


 「ムギン、何をした!」


 ガルダが怒りの混じった声で問う。


 「見れば分かるだろう? 眠ってもらったんだよ。2人は今、向こうで楽しい夢を見ている。都合と心地の良い夢をね。起こそうとしても無駄だよ。それは他人には解けない。唯一方法があるとすれば、自分でこちらに戻ってくることだけだけど、そう簡単に出来ることじゃない。なんたって心地良いんだから。本人の選択次第では、一生夢の中、なんてこともあるかもね」

 「お前......!」

 「さ、続けよう。起きた時に代わり映えしてなかったら、つまらないだろ?」




 「ん......」


 ぼんやりとした頭。閉ざされた視界。そこに、少しずつ光が差し込んでくる。


 「ヒメ......ヒーメ」


 ヒメを呼ぶ声に、目を開ける。そこにいたのはラズだった。


 「ラズ?」

 「大丈夫? ぼーっとしてたけど」

 「あれ、ここ」

 「ん?」


 そこは人々の行き交う賑やかな市場。飛び交う声が、市場の活気を表している。


 「ここに来るのは初めてだもんな。人が多くて目が回っちゃたかな」


 ヒメがこの景色を見たのは初めてではない。ここはガルダと出会う前、ヒメがいた場所だ。

 どうしてこんなところに......。

 まるで時間が巻き戻ったかのような光景に、ヒメは戸惑いを隠せない。


 「おぉ! そこの綺麗なお嬢さん! ちょっとこのドレスを試着していかないかい? きっと良く似合うよ!」

 「え、でも」

 「いいのいいの! 試着するだけだからさ! 服も美人に着てもらった方が幸せだろ?」

 「ははは! 調子の良い店主だな! でも店主の言う通りヒメって綺麗だから、きっとあのドレスも似合うよ。プレゼント出来るほどお金は持ってないけど......」

 「言ってくれれば、それまで店で取り置きしてますよ。大事なお客さんですからね!」


 ラズと店主が会話を弾ませている。しかしヒメにはどうも引っかかる。さっきまでムギンと相対していたというのに、それはどこに行ってしまったのか。

 もしかして本当に、時間が戻ったのではないか。今までのは全て嘘で、今目の前にある光景こそが真実なのではないだろうか。そう思いたいし、そう思えた方が楽で幸せだ。

 そして仮に、これが繰り返しならば、やがてこの幸せも崩れ去るかもしれない。そうだ、まもなくガルダがやってきて、ここはあっという間に焼き払われてしまう。


 「ねぇ、ラズ」

 「ん、どうした? 試着する?」

 「そうじゃなくて、早くここから逃げないと! そうしないと」


 ヒメが必死な顔をしながら語りかけるも、ラズは何が何だか分からないといった顔をしている。

 そんな時、市場の奥の方で、人々が歓声をあげる。なにかおめでたいことでもあったのか、人々は奥の方へ集まり、騒ぎ立てる。そこに次から次へと人が加わり、さらに騒ぎは大きくなっていく。


 「なんだろう。何かあるのかな」

 「革命隊が帰ってきたんですよ! すいませんね、お客さん。私もちょっとあそこに行ってきます!」


 そう言って店主は店のことを投げ出し、観衆の中へと突っ込んでいってしまった。


 「革命隊......?」

 「ヒメは知らない? 最近、あちこちで鳥を倒して人々を解放してるっていう集団らしいよ」


 こんなものは記憶にはない。まもなくここはガルダに襲われ、焦土と化す。革命隊も、ガルダにやられ壊滅する。

 何かがおかしい。まるで、自分の都合が良い方に世界が向かっているような、そんな流れを感じる。

 人々の歓声の中、革命隊の列がヒメ達に近づいてくる。そこには見知った顔がいくつか並んでいた。


 「リーダーさん、近頃はこの辺りにも鳥が姿を見せるようになって不安なんだ。なんとかしてくれるかい?」

 「安心してください。さっきも何羽か倒してきました。これで少しは動きも治まると思いますよ」

 「おぉ、本当かい」

 「私の友人が鳥に攫われてしまったんです! 助けていただけませんか!?」

 「それなら詳しい情報を教えてください。あなたのご友人は必ず助けます」

 「あぁ、ありがとうございます」


 彼らの周囲には人々が集まり、助けを求める。そしてそれを嫌な顔をすることなく、一人ひとりと向き合って叶えてくれる。弱き人々にとっての希望なのだ。

 そしてその中心にいるのが、革命隊を率いるリーダーのブライだ。


 「ブライ!」


 ヒメが思わず叫ぶ。その声にブライは振り向き、ヒメの方を見る。


 「何か困りごとですか?」

 「あ、えっと」

 「ヒメ、知り合い?」


 後先考えずに出してしまった言葉を引っ込めることが出来ず、少し恥ずかしい思いをする。何を言うべきか迷ったが、大事なことを思い出した。


 「ガルダ、ガルダは!?」

 「ガルダ? 誰かの名前ですか?」

 「え......」


 ブライはガルダの名前を聞いて、知らないといった顔をしている。

 まだここが襲われていないからか、それとも他に理由があるのか。とにかく、ガルダについては何も反応がなかった。


 「ブライー。どうしたのー?」

 「あ、ナビ」

 「ナビ......」


 ヒメにとって聞き慣れた声がしたので、見ればブライの背後からナビがやってきていた。


 「ん? また名前......」

 「どうしたの?」

 「いや、この人が俺達の名前を言うもんだからさ、どこかで会ってたっけって」

 「うーん。知らないなぁ。あ、もしかして僕達有名になったんじゃない!?」

 「ははっ、そうかもな!」


 笑い合うブライとナビを尻目に、ヒメはその場から立ち去る。

 ここは自分の知っている世界とは違う。しかし見るからに、この世界は現実そのものだ。もしかして、今まで自分が生きてきた世界が夢で、本当の世界はこちらなのかもしれない。もしそうなら、そうであるべきだ。あんな不幸は起こるべきではないし、続くべきでもない。


 「ヒメ! 大丈夫? 急に歩き出したからびっくりしちゃったよ。あの人達に用があったんじゃないの?」

 「大丈夫。ちょっと知り合いに似てただけ」

 「そっか......。あ、そうだ! そういえば今日の夜に祭りがあるらしいよ。一緒に行こう!」


 ラズから祭りに誘われる。どうやらこの祭りは何かを祝うためのもので、各地から多くの人々が訪れるらしい。様々な催しが開かれるようで、既にそれに向けた準備があちこちで進んでいた。

 期待に胸を膨らませているラズの話を聞いているヒメの横を、通り過ぎていく者がいた。ヒメは反射的にすぐに振り向いてしまう。どこか見覚えのある銀色の髪。それを見て、強い衝撃とともに思い出すが、ヒメの視線の先には誰もいなかった。


 「どうしたの? また知り合い?」

 「が、いたような気がしたんだけど......」

 「本当に大丈夫? 今日のヒメはなんだかおかしい気がするな」

 「大丈夫。それにね、私、この時間を大切にしたいの。すごく、幸せだから」


 ガルダのいない世界。それは何も奪われることのない平和な日々を示している。このかけがえのない現実に包まれながら、ヒメは確かな幸せを感じていた。いつまでも、こうした日々が続くことを、ヒメは心の中で強く祈った。

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