第22話 従わない者
「おらぁ!」
今度はゴウマからラズに対して攻撃を仕掛ける。
「やめて! 戦わないで!」
「そうは言うけどなぁ、コイツは本気だぜ!?」
「ラズ!」
「ヒメはそこで見てて。ガルダも取り巻きも全部倒すからさ」
「焼き鳥の取り巻きになった覚えはねぇ!」
ゴウマがはっきりと返す。そして剣を握る手により力を込める。
「ははっ、焼き鳥だって」
遠くで話を見守っていたムギンが笑う。それを不満に感じたガルダは、ムギンに対して激しい一撃を撃つが、やはり攻撃は当たらない。
「取り巻きじゃないならなんなのさ」
「ヒメの騎士だ! 守るって決めたんだよ! お前もヒメじゃなくガルダを狙いやがれ! 仮にも恋人だったんだろうが!」
「偉そうに!」
ゴウマとラズの戦いは激しさを増していく。誰も入り込めないような、入り込んではいけない空間になっていく。しかしその空気を壊すように、横から水を差す声が聞こえる。
「はーい! 頑張ってるけどぉ、そこまで! もー、何やってるの? せっかくムギン様が蘇らせたんだから、とっとと片付けてって言ってるでしょ!? 余計なものなんか放っておいて、早くガルダの巫女を倒して!」
声の主はリリィであった。甲高く遠くまで響く声で、ラズとブライにヒメを倒すように促す。
「あなたは!」
「また会っちゃったね、ガルダの巫女さん! あなたも聞いてたでしょ? あなたはここで終わりだから」
「どういうこと!? こうなってるのはあなたのせいなの!?」
「もー! どうしてそうなるかなー! もしかしてバカなんですかぁー? こうなってるのは仕方ないことでーす!」
「仕方ないことって......早くラズとブライを元に戻して!」
「それを私に言ってどうするの? 2人を蘇らせたのはムギン様なの。だからあれはムギン様の思い通りに動く使命があるの。分かった?」
「ならムギン! 早く2人を解放して!」
「あー! 不敬! そんな失礼な態度をムギン様にとるなんて絶対に許さないんだから! 2人とも、早くこのバカ巫女をやっつけちゃって!」
リリィがラズとブライに命令するが、2人とも全く動こうとはしない。
「するわけないだろう、そんなこと」
「はぁ!? あなたさっき真っ先に斬りに行ってたじゃない! もしかしてもう忘れたんですかぁ!?」
「お前の命令でするわけないと言ってるんだ。それにさっきは顔も見えてなかった。そもそもお前の命令には従う必要はないらしい」
そう言ってラズは、リリィに自分の意思で体が動くと、自由に腕を動かしてみせた。もしリリィの命令がラズとブライに有効ならば、命令にない行動は取れない。リリィの命令は無効になっているようだった。
「もう1人に言ってみたらどうだ。言うことを聞いてくれるかもしれないぞ」
「いやいや、君に効かないんだったら、俺にも効かないよ」
ラズに続き、ブライにもリリィの命令は届いていない。
リリィは悔しさに半泣きになり頬を膨らませながら、ムギンの方を見た。
「どういうことですか、ムギン様!? リリィにやらせてくれるんじゃなかったの!?」
「言ったかな、そんなこと。まぁせっかくなんだ。足止めぐらいはしてもらおうかな」
ムギンが言葉を放った瞬間、ラズとブライの身体は本人達のものではなくなった。肉体が本人達の意思とは関係なく動き始め、再びヒメ達に向かって攻撃しだした。
ラズの剣はゴウマに向かい、ブライの剣はシイトを襲う。
「クソッ! イヤイヤやってるんだったら少しは手加減しろよな!」
「出来るもんならしてるよ。だけどこの程度で、ヒメを守れるってのか!?」
「言うじゃねぇか!」
ゴウマとラズの戦いは再び激しさを増す。
一方でシイトとブライもまた、望まない戦いを強いられていた。
「向こうは激しいね」
「やる気ない感じ? じゃあ俺は帰ってもいいかな」
「帰る? どこに?」
「......さぁ」
気怠けなシイト。彼はそもそも関係のない戦いに巻き込まれただけの剣士である。たまたま聖剣を持っていたからといって、この戦場に引っ張り出されてしまった、いわば被害者だ。
そのため、全くといっていいほど身に力も入らず、ついには帰るとまで言い始めた。しかし彼はもともと、この世界樹にいたわけで、帰るべき家も故郷もありはしない。それを見破ったのかブライは冗談ぽく聞き返す。シイトはそれに戸惑うような表情を見せながら、はぐらかした。
「あのムギンって奴の命令、どうやら俺は逆らえないみたいなんだ。もし良ければ止めてくれないか」
「良くないんだけどなぁ」
「暇だろ?」
「......」
「ま、そういうわけだ。あの2人を見てると手加減が出来るか分からなくなってきたけど、お手柔らかに頼むよ」
「無茶言うじゃん。もしかして人間って皆こんな感じなの?」
そうしてシイトとブライの戦いも始まった。しかしゴウマとラズの戦いとは違い、どこか淡々とした、無機質というか冷たさを感じるような戦いだ。まるで命令者の意図を察して、違反にならない程度に手を抜いているようなものだ。ムギンはそれを時間稼ぎだと理解していたが、とくに気にすることもなかった。
騒いでいたのはリリィだ。せっかくの騎士が相殺されてしまい、納得がいかないらしい。それをムギンに訴える。
「貴重な聖剣をどうして無駄遣いしてしまうのですか!? リリィは理解できません!」
「貴重だからだよ。それよりもリリィにも役に立ってもらおうかな。君はハゲワシ達を従えるといい。何したっていいよ」
「本当ですか!? でも何をしてもいいと言われても何をしていいのかリリィは思い付きません......」
「やりたいことをやればいいんだよ。例えば、君が嫌いな、ガルダの巫女を襲わせるとかね」
「あ、そっかぁ! それならリリィやりたいかもぉ! さすがムギン様! じゃ、そういうことだから。とっととイッちゃって!」
リリィはムギンから言われた通り、ハゲワシの大群にガルダの巫女を襲うように命令をした。するとハゲワシは突如として一斉にヒメの方へと向かってきた。
「皆してがっついちゃって......。情熱的ね」
「大丈夫なんでしょうね!? ちゃんと避けてよ!?」
少しふざけた態度を取るオコナにヒメは焦る。
しかしオコナは迫りくるハゲワシ達の攻撃を次々と華麗に躱す。まるでハゲワシ達を弄ぶかのように飛び回る。
「安心して。男の扱いには慣れてるの」
「そ、そう......」
余裕な口ぶりで、なおも襲い来るハゲワシ達を当然の如く翻弄する。オコナは小回りを効かせながら限られた空域を飛び、翻弄されたハゲワシ達は仲間同士でぶつかったり攻撃してしまったりしながら次第に数を減らしていった。
「ま、こんなものね」
「す、すごい......」
オコナは自らの手を下すことなく、ヒメに襲いかかってきたハゲワシ達をついにはほぼ全滅させてしまった。その磨かれたテクニックにヒメは純粋に感嘆の声を漏らす。
「こういうのは慣れてるのよ。数を重ねれば自然と出来るようになるわ。コツは距離感を保つことよ。近くても遠くても駄目なの」
「アドバイス? それに、数を重ねるって、こういうことが前にも......まぁ、あったんでしょうね。想像がつくわ。ていうかオコナはいくつなのよ。結構いってるでしょ」
「フフッ。ナイショよ」




