第21話 信じ難いもの
そして現在。ガルダとムギンの激しい戦い。お互いに一歩も譲らない攻防が続いていた。合流したゴウマとシイトも、ハゲワシ達を次々と倒していく。
「キリがねぇな!」
ゴウマが愚痴をこぼす。倒しても倒しても供給されるハゲワシの大群相手では、今は優勢であってもそのうち体力が限界を迎えることは目に見えていた。このままではいけないことは誰もが分かっていたが、打開策も見えない現状であった。
「......あれが神鳥、そしてガルダ。さすがに強いね。見ただけで分かるよ」
「俺も初めて見たが、あれに挑むってのは相応の覚悟がいるな」
シイトの表情が少し曇る。一緒に戦っているゴウマは、彼のその変化を見逃さなかった。
「どうした。怖気づいたか?」
「別に......。ただ僕らがやってることって結局、雑魚狩りだなって。君はそれで良いの?」
「いいわけねぇだろぉが!」
ゴウマは叫び、乗っていたモロの背中を勢いよく蹴った。そしてそのまま、ムギンに向けて飛び込んだのである。
「オラァ!」
「おっ!」
急に剣を向けられ、攻撃されたムギンは驚きはしたものの、そこまでのダメージはムギンにはなかった。というよりも全くなかったと言った方がいい。
「クソッ。感触がねぇ。間違いなく奴のド真ん中ぶち抜いてやったってのに!」
「それがムギンの虚偽の力だ。気をつけろ」
「悪くない一撃だったよ。ただ、君達の相手は彼らに任せることにしよう」
「あ?」
ムギンの指す「彼ら」というのが分からなかったゴウマであったが、「彼ら」というものが誰なのかすぐに判明することとなる。
ゴウマは何かが真っ直ぐと勢いよく向かってくるのを察した。それは明確な殺意を持っており、ゴウマはすぐさま体勢を立て直し対処する。
剣で降り掛かってきた攻撃を受け止める。攻撃の主は、剣を持った男であった。
「不意打ちのつもりだったんだけど、まさか防がれるなんてね」
「誰だ、テメェは!」
新たな敵の登場に、そこにいる全員が注目する。とくにナビとヒメが。
「ブライー! どうしてそこにいるの!?」
「ナビ......。あれがあなたの見たっていう......」
「うん......」
「ナビ。それにヒメ。久しぶりなような、そうでもないような。元気だった?」
「元気だよ! ブライ! 一緒に戦って! ゴウマを助けてあげて!」
「ゴウマ?」
「俺のことだよ」
「あぁ、そうだったんだ」
先程ブライがしたゴウマへの攻撃。ゴウマは面白くなさそうだが、ナビはブライに助けを求める。しかしそれは出来ないようだった。
「ごめんね、ナビ。そうしたのは山々なんだけどさ、先にガルダを倒さないと。君だってそう思うだろ? あんな奴を野放しにしてちゃあ、いけないよ」
「ならどうしてゴウマなんか狙ったのよ。ガルダを狙いなさいよ」
「確かにそうだね。でも、剣がそいつを倒せって、訴えてくるんだ」
ブライの手にはゴウマやシイトの持っている剣とよく似た剣が握られている。つまり、あれも聖剣だということだ。革命隊にいた時には持っていなかった聖剣を今は持っている。あの時にはなかった、鳥を倒す力をブライは手に入れたのだ。
「でも1人だけでいいの? 分が悪いんじゃない?」
シイトが言う。ヒメ達の前に現れたのは、ブライだけ。しかし棺から目覚めた剣士はもう1人いる。
「誰も1人だけだなんて言ってないよ」
ブライがそう言葉を発した瞬間、何者かによってガルダの首が真っ二つに斬られた。
「うぅ!!?」
突然のことに驚く一同と、その場に倒れ込むヒメ。
「ヒメ!? 大丈夫!?」
ナビが心配そうに見つめる。鳥と巫女は一心同体。あらゆるものを共有している。そしてそれは痛みや傷にも適応される。ガルダの首が斬られたことによって、ヒメはまるで自分の首が斬られたかのような感覚に襲われたのだ。頭が体から切り離された人間が痛みを感じるかは定かではない。しかし、ヒメの首は切り離されたわけではないため、まるで首が斬られたかのような痛みがヒメを襲う。
あまりの痛みに、倒れ込んでそのまま立ち上がれない。その場で汗が全身からブワッと飛び出し、胸が張り裂けそうなほど心臓が鼓動する。頭に血が上り、破裂してしまいそうなほど、顔が赤い。
「ハァハァハァ......」
巫女は鳥と命を共有している。ガルダが死んだのなら、ヒメも死なないとおかしい。しかしヒメはまだ生きている。
次の瞬間、首を斬られたはずのガルダは、再び完全な姿でその場に姿を現した。
「どうやら2人揃って不意打ちが好きなようだな。いや、これも性格の悪いムギンの命令か?」
「おかしいな。僕はただ、騎士の足止めをしてくれとしか頼んでいないんだけど」
ブライと、もう1人。ムギンに仕える騎士としてムギンが復活させた。その口ぶりからしてコントロールしようとしたが、どうにも出来ていないらしい。しかしムギンには怒りどころか焦りすら感じない。神鳥としての余裕がある。
そして、ガルダの首を斬った騎士は、ブライの横に立つ。その姿を見て、ヒメは目を丸くした。
「ラズ......。どうして......」
「ヒメ? 何故ここに?」
「決まっている。この女が私の巫女だからだ」
「は?」
ラズはガルダの巫女が誰なのかを知らなかった。そして今この瞬間、その表情からはマグマのような怒りが吹き出してきた。
「君が? 何故? 巫女っていうのは、あれだろ? その身と魂を捧げるっていう......」
頭の中と心で処理しきれない事実と感情が、ラズの怒りとなって現れる。ラズは次の瞬間には、考えることをやめ、ヒメに向かって剣を突き立て飛び込んでいた。あまりの速さにヒメは避けることすら出来ない。
それを見て、咄嗟にゴウマはヒメの前に立ち、ラズの攻撃からヒメを守った。
「ヒメ! こいつとはどういう関係なんだ!?」
「その......恋人よ......」
「こ、恋人ぉ!?」
「巫女になる前に、ガルダに殺されたの」
「昔の恋人が自分を殺したやつの巫女になってるってことか! そら怒りも湧くだろうな! だけどよぉ! それで恋人の方を襲うってのは! 男としてどうなんだ!」
ゴウマは勢いよくラズの腹に蹴りを入れる。その衝撃でラズは後ろへと距離を取った。
「ラズ!」
「おい、ヒメ! 今は敵の心配なんかしてる場合じゃねぇぞ!」
「敵って......。でもラズは」
「お前を殺そうとした! さっきのはどう考えてもそうだろ!?」
「嘘よ、ラズがそんなこと......」
今の状況を飲み込めていないのは、ヒメも同様だった。死んだはずの恋人が何故か目の前にいる。そして自分に怒りをもって襲いかかってきた。信じられないことと信じたくないことがヒメの前には転がっている。しかし今はそれを考える時間も気にしている暇もない。
「1人は恋人。じゃあもう1人は!?」
「ブライは仲間だよ! 僕らの革命隊のリーダーなんだ!」
ナビが大きな声で言う。ナビにとってはまだその認識であった。しかしブライもガルダによって殺されている。そしてナビもそれを知っているが、目の前にいるブライのことを信じて疑わなかった。
「アイツもガルダにやられたってことか? 十中八九そんな気がするぜ。両方とも似たような感触の攻撃だったしな」
ゴウマには2人の共通点がなんとなく分かってしまった。それは同じ聖剣を持つ者としての優れた勘であった。
「それになんだか関係が複雑だな。やっぱ人間関係はシンプルなのに限るぜ!」




