第20話 刺客
ムギンの力に押されつつあるガルダ。ここで何とかして、この状況を打破したいところだが、事態はさらに悪い方へと移っていく。先程倒したハゲワシ達の後ろに、第二陣が控えていたのだ。
「まだいたの!?」
「チッ」
ガルダ対してはムギンとハゲワシの群れ、両方の相手を迫られることとなった。さらにハゲワシ達は、ガルダではなくヒメ達の方を狙う。こうなってしまうと、ガルダはヒメ達を守らなければならない。オコナとムウが何とか逃げ回るが、それでもガルダにとってヒメ達が足手まといになっている事実は疑いようがなかった。
「ハッハッハ。随分と辛そうじゃないか。どうだい、楽にしてあげようか」
「馬鹿なことを言うな。遊んでやってるだけなのが分からないのか?」
「言うじゃないか。強がりは嫌いじゃないが、今の君はどう見たって崖っぷちだ。僕の相手をしながら、あの大群から巫女を守らなければならない。恵まれた仲間がいることが救いかな?」
「強がっているのはお前の方だ。大事なのは結果であり、最終的に敗けるようならどんな言葉も強がりにしかならない。精々今を楽しむといい」
「......全く、隠し事はもっと上手くやるものだよ。君が騎士を待っているのはこちらも分かっているんだ。それに頼るつもりなんだろう? だけどそうはいかないよ。こっちも、君のところの騎士と同じ数の騎士を用意したからね。来てもイーブン。この状況は変わらない」
ガルダとムギンが会話していると、どこからか音が聞こえてくる。大きな音だ。何かがぶつかり合っているような、激しい音。
「オ、オコナ! あれ! またハゲワシが!」
「なぁに? またなの? 全く、嫌になっちゃうわね」
「どーすんのよ!?」
「ん? 前に何か見えますが、あれはなんでしょうか?」
ミュソスが言ったのは、新たにやってきたハゲワシの群れの前にいる者たちのことだ。どうやらハゲワシとは違うと分かり、全員でよく見る。
「おーい!」
ヒメ達に向かって、ハゲワシの群れの前方にいる誰かが手を振る。
「あ、あれって!」
「おぉ! 無事だったようですな!」
「ヒメー!」
「ナビ! 無事だったのね!」
「ようヒメ! 相変わらず綺麗だな! お前が無事でなによりだぜ!」
ハゲワシの群れの前方にいたのは、ナビやゴウマ達であった。ツナとモロに乗り、ここまでやってきた。シイトも一緒だ。
「......無視されてんじゃん。嫌われてんじゃないの?」
「馬鹿野郎。照れ隠しだよ。素直になれてねぇんだ。だがそういうところも愛おしいぜ!」
ナビは乗っていたツナの背中から、ヒメのもとへと飛び移った。
ヒメはナビの方へ注目していたので、シイトの言う無視されているというのは、あながち間違いではなかった。
「ヒメ! 大変なんだ! すごいものを見たんだ!」
「どうしたの?」
「えっと、それはね」
ナビはヒメに、自分達が見たものを伝えようとする。不思議な祭壇のようなものと2つの棺。そしてその中にいた、ブライ。だがどう伝えればいいのか、ナビには分からなかった。見たままのことを伝えようとしても、言葉に出来ない。伝えなければならないことのはずなのに、言おうとした途端に頭の中から言葉が消える。忘れたかのように言葉が出てこないのだ。
「噂をすれば、だね」
ナビ達が来た一連の流れを見ていたムギンが呟く。
「しかしお前の言う騎士は来ていないようだな。こちらは既に2人揃っている。まさか私の騎士達が倒してしまったかな。ハッハッハ」
「さて、どうかな」
少し時間は戻る。ナビとツナがいた祭壇。そしてムギンが蘇らせた、棺の中の死者。2人。1人はブライで、もう1人も同じくらいの年の男だった。お互いに初対面であり、顔を見合わせながら戸惑っている。
その場には女性が1人、シュッとした足を交差させ、妖艶なポーズで2人の男の前に現れた。
「はぁーい! はじめまして、そしておはようございます、騎士さん。急にこんなことになっててびっくり! って、言わなくても顔に書いてあるからぁ、特別に! この神鳥ムギンの巫女のリリィちゃんが説明しちゃいます! ちゃーんと聞いてね!」
自らをリリィと名乗る女性は、甲高い声と身体をくねらせた、あざとく誘惑的な話し方をしていた。騎士と呼ばれた男達は、やはり戸惑いながらも理解出来ないこの状況を把握するために、とくに文句や横槍を入れずに黙って聞く。
「まず1番大事なこと! あなた達は1度死んでいます! それをムギン様が蘇らせてくれたの! ちゃーんと感謝してね! もちろん、それだけの恩があるんだから、ムギン様の言うことはちゃんと聞くこと! 裏切ったらぁ......って、裏切れないか。だってそうなってるもんね!」
「......」
「......」
「ではここで問題です! ムギン様はどうしてあなた達を復活させたのでしょーか!? 正解はー、優しいから! じゃ、なくて。あなた達に騎士としての役割を果たしてもらうためでーす! と、いうわけで......はいこれ」
リリィは2人に剣をそれぞれ渡した。2人は差し出された剣を怪しがりながらも、手に取る。その瞬間、剣は眩い光を放った。
「すごーい! やっぱりそうなるんだぁ! これでたった今から、あなた達は聖剣に選ばれた騎士になりましたぁ! 強くてかっこいいなんてリリィちゃん、惚れちゃーう!」
わざとらしい演技だ。絶対にそんなこと思ってないだろうと心の中では思いつつも、わざわざそれを言うのもバカらしいというか、癪に障るような気がしたので、2人は何も言わなかった。しかし2人のそんな気持ちを知ってか知らずか、とにかく無視してリリィは喋り続ける。
「その聖剣で倒してほしいやつがいるの。2人共知ってるはずよ。そいつはガルダっていうの」
聖剣を手にした2人の目の色が急に変わった。
「アハッ! 面白ーい! ねぇねぇ何があったの? 教えて教えて!」
「そいつは今どこにいる」
「もー、焦らないでよー! 人の話は最後まで聞いてほしいなー。でもそんなに乗り気なら、これ以上話さなきゃいけないことはないみたいね! 物わかりが良くて助かるー! それじゃ、肝心のガルダの場所だけど......剣から光の線が伸びてるでしょ? その先にガルダが大事にしてる巫女がいるわ」
「巫女? ガルダの場所を聞いてるんだ。巫女とかいうやつの場所じゃない」
「はい、人の話を最後まで聞くパートツー! あのね、巫女が死ねば、そのまま契約してる鳥も死ぬの! そっちの方が手っ取り早いでしょ!」
「......それを早く言えばいいものを」
「いー! リリィちゃん、あなた大ッ嫌い! とっとと戦いに行っちゃえ!」
「そのつもりだ」
「ンー!!」
リリィは頬を赤く膨らませ、怒りを露わにする。しかし2人の騎士はそれを意に介さず、剣から放たれる光の方へと歩み始めた。
その場に1人になった後、リリィは2人が入っていた棺の他に、もう1つの棺を見つける。
「あれ、こんなのあったっけ? それに開いてる? ......ま、いっか! 小さいことを気にするリリィちゃんではないのでしたー!」
一方の2人。あの場ではリリィがずっと喋っていたせいで、お互いに自己紹介も出来ていない。このままというのも気が乗らないブライの方から話を切り出した。
「そういえばはじめましてだよね。俺の名前はブライ。君は?」
「......僕は、ラズ。よろしく」




