第19話 ガルダ対ムギン
「ナビ、テメェ! なにやってんだ!」
「ごめーん! 何とかしてよゴウマー!」
ナビとツナを追ってやってきたハゲワシの大群に困惑するゴウマ。まさかこんなものがやってくるとは思ってもみなかった。ただでさえシイトと戦っている最中であるのにも関わらず、これ以上に相手取ることなどゴウマには出来ない。
「大変そうだね」
「あぁ、ヤベェぐらいにな。だから手伝え」
「は?」
「俺と決着付けんだろ? ならあの鳥共を全員ぶち落としてからだっつってんだよ!」
「はぁ.......。なにそれ。僕には関係ないよ。君の事情なんか知ったこっちゃないし。だからこのまま続けるけど?」
「あー、そうかよ。だったらこっちにも考えがあるぜ。おい、モロ! あの群れに突っ込め!」
「え! でもそんなことしたら......!」
「お前のことは俺が守る! だから迷わず行け!」
「うぅ......。ならモロはゴウマを信じる!」
「なにしてんのさ。いくら聖剣でもあんな大群に勝てっこないだろ」
「あぁそうだな。それぐらい俺でも分かる。だがそれは1人だったら、だ。さっきまでの戦いでお前が弱くないのは分かったからな。1人じゃ無理でも2人なら切り抜けられるかもしれないぜ?」
「......ッチ。君って面倒くさいね。まぁいいや。どうせすぐ終わるからね」
そう言ってシイトはゴウマに向けていた剣を納め、改めて、迫りくるハゲワシの群れに対して剣を抜いた。
モロも勢いよくハゲワシの群れの中へと突っ込み、2人の剣士を戦場へと送り込んだ。
次々に襲い来るハゲワシ達をゴウマとシイトは見事な剣捌きで、次から次へと切り倒していく。外から見れば、巨大な玉のようになっているハゲワシの群れが途切れることなく下へと落下しており、まさしく異様な光景であった。
一方で、このような事態を引き起こしてしまったナビとツナは、戦いの様子を少し離れたところから見ていた。戦う力のないナビが戦場にいたところで何の役にも立たない。ならば少しでも迷惑でない場所でジッとしている方がいい。
「はぁ......」
「ん、どうしたナビ」
「僕って役に立たないなって。皆は自分に出来ることをしてるのに、僕だけ何もしてないんだ」
「なんだ、そんなことか!」
「そんなことってなんだよ! 僕だって役に立ちたいんだ!」
「大丈夫! ナビはきっといつか役に立つ! ツナが約束する!
「どうしてそんなことが言えるのさ! 今役に立てないなら、いつかだってこないよ」
今まさに戦っているゴウマ達と違い、役に立てていないと落ちこむナビ。ツナはそんなナビを励まそうとするが、割と本気で落ちこんでいるナビは、根拠のない楽観視をしたくはなかった。
「いいや、来る! ツナには分かる! 絶対来る! 色んなことには意味があるから、ナビにも絶対にその意味を知る時が来る! 神様もそう言う!」
「......そっか」
ナビが思っていたよりもツナが熱く言ってきたので、ナビはそれに押される形で納得することにした。しかしナビは、ツナがそこまで熱く言ってくれたことを嬉しく思い、顔には少しの笑みが溢れていた。
「おいナビ! このままヒメ達のもとへ行くぞ! 案内しろ!」
「え!? このまま!?」
「ゴウマ、戦ってる! モロもそれ支えてる! 手が空いてるの、お前達しかいない!」
「えぇ......。でもぉ......」
「行こう、ナビ! 早速役に立つ時が来た! ツナもついてる!」
「うぅ、分かったよ!」
ナビとツナはハゲワシの群れと戦うゴウマ達を率いながら、ヒメ達との合流を目指すために動き出した。自信はなかったが、自らを奮い立たせ、行動する。
「あんなちっこいのが役に立つの?」
シイトがゴウマに聞く。
「アイツは自分でも気づいちゃいねぇかもしれねぇが、何か特別な力がある。そうでなきゃ、俺とここで会えはしなかっただろうな」
「......なにそれ。意味分かんないこと言うんだね」
納得できないという顔をしながら、襲い来るハゲワシ達を倒していく。
ただ、ナビは迷いなく先を進む。ゴウマが言ったことをシイトもなんとなく感じていた。もしかして本当に......。そう思いはするが、ナビはそのことに気付いてはいないようでもあった。
そしてヒメ達もまた、ハゲワシの群れに襲われていた。
「もぉぉぉぉ! なんなのよぉぉぉ!」
「振り切るわよ! しっかり捕まって!」
戦う力を持たないヒメ達はひたすらハゲワシの群れから逃げることしか出来なかった。
「多勢に無勢。このままではどうすることもできませんな」
「ガルダがいれば何とかなる......。でも探しても見つからない......」
「世界樹のどこかにはいるんじゃないのか?」
「一体どこにいるのかしらね」
「いるなら出てきなさいよ!」
ヒメが叫ぶ。そしてそれと同時に、一瞬にして巨大な炎が辺りを包み込む。ハゲワシの大群は、突如として現れた炎に飲み込まれ、瞬く間に焼かれた。
「ヒメ。私を呼んだな?」
「......ガルダ」
ハゲワシを飲み込んだ炎の正体、それはガルダであった。煌めく紅い翼を羽ばたかせ、他の誰でもないヒメを見る。ヒメが呼んだから来たのか、それとも単なる偶然か。
ただ、ガルダはすぐに上を見た。
「あら、いいとこだったかしら?」
「......別に」
ガルダの見つめる先には、神鳥ムギンがいた。麗しい漆黒の翼を広げ、まるでこちらを見下しているかのようだ。
「仲間にはもっと優しくしなきゃ駄目だよ、ガルダ。思ってるだけじゃ何も伝わらないんだ。知ってた?」
煽るような、余裕な言葉を発するムギン。しかしガルダはその言葉に応えようとすらせず、一瞬で炎となりムギンに近付く。背後を取り、自らの炎で焼き尽くそうとするが、それをそのまま受ける神鳥ではない。次の瞬間にはムギンの姿はその場から消えており、すぐにまたその場に現れる。ガルダの炎はムギンの体をすり抜け、攻撃として当たることはなかった。ムギンはその間に自身の体を反対に向け、鋭く巨大な爪でガルダの首を掴む。身動きを封じられたガルダだが、再び体を炎に変え、その場から抜け出す。
炎となればムギンは掴むことも触ることも出来ない。しかしだからといってガルダが攻撃に回れるかというとそうではなかった。ムギンも不思議な力を用いてガルダの炎を寄せ付けない。触れるだけで身を焼く炎も、ムギンには何の意味も成さなかった。
彼らの戦いは一瞬の内に何手も繰り出し、それを防ぐということばかりしている。既に普通の戦いの領域など遥かに超え、誰も手を出せないものになっていた。
「困ったわね。これじゃあ付け入る隙が全くないわ」
「ガルダ、助けられない! ムウ達、力になれない!」
「別に助ける必要なんかないわ! このままやられちゃえばいいのよ!」
「あら、そうなったらあなたもお終いよ?」
「......」
「しかし神鳥と呼ばれる鳥がここまで強いとは。我々は今まで圧倒的なガルダ様しか見てこなかったので.......。これでは驚くしかありませんな」
ヒメ達は今まで、ガルダがその圧倒的な力で勝利するところしか見る機会がなかった。そのガルダが、神鳥とはいえここまで余裕のない場面は初めて見る。
ガルダとムギンは互角、いやよく見れば少々ガルダが押されているといった方が正しい。しかし打開出来る手がここにはない。




