第17話 息
離れ離れになってしまった一同。ナビとツナもまた、知らない場所へ流れ着いた。暗く、閉鎖的な空間。洞窟ではないが、空気が湿っている。雰囲気としては遺跡のような場所だ。辺りを見渡せば、誰かに作られたような人工物としか思えないものがあちこちに見て取れる。
「ここはどこだろう?」
「分からない、分からない!」
「だよねぇ。とにかくヒメ達と会わないと。どっちに行けばいいんだろう」
「上! 上!」
「上ぇ? でも上は天井だよ」
「うぅぅ......」
「落ち込まないでよぉ! あ、もしかして上って、天井のもっと上ってこと!?」
「! そう! 天井の上! もっと上! そこにガルダがいる! そこに行く!」
「えぇ、ガルダぁ? 僕、アイツ嫌いだなぁ。ワガママだし、たくさん人を殺すし......」
「そんなことない! ガルダ嫌な奴じゃない! ちょっと人見知りなだけ! 話せば分かる! 仲良くなれる!」
「人見知りぃ? にしたって人に火を吐くのは許されないよ」
「違う。お前たちはこの世界を理解してない」
「え、それってどういう......」
その瞬間、奥からビューッと風が吹く。この先がどこかに繋がっていて、そこから吹いたのか。それとも誰かがいるのか。はたまた違う何かか。興味、恐怖。どちらにしても、確かめた方がいいかもしれない。まるで誘われるかのように、引き込まれるかのように、奥の方から目が離せない。
この先は道になっている。鳥でも通れるような通路だ。通路の両側には火の灯った松明が掲げられ、暗い場所を最低限明るく照らしている。
ナビはこの奥に進みたいと強く思った。だが1人では心もとない。ナビはヒメやゴウマと違い、初めからトビをだいぶ受け入れている。なのでこういう時も、気軽に声をかけた。
「そういえばさぁ、君の名前ってなに? 僕ナビっていうんだけど」
「名前はない! もとからない!」
「じゃあ僕が付ける! えっとねぇ、そうだ、ツナ! ツナってどう!?」
「ツナ! ツナ! 名前! 嬉しい!」
名前を付けてもらったことに歓喜するツナ。羽を大きく広げて喜びを表現している。
「本当? よかったぁ! あ、それでさぁ......」
「分かってる。奥に行きたい、だろう? 言わなくても分かる」
「え、うん! そう! 凄いね!」
ナビから褒められ、誇ったような顔をするツナ。
「行こう。ツナも気になってた」
そうして遺跡の中を進みながら、ナビは気になっていた疑問をツナに投げかける。
「ねぇねぇ、さっき言ってた、世界を理解してないってどういうこと? 難しい話?」
「難しくない。むしろ難しく考えているのは人間達の方」
「えー。そうかなぁ」
「神様、この世界創った時、こう言った。「罪深き者たち、この空で魂の救いを求めよ。さすれば苦しみより解き放たれるであろう」って」
「聞いてたんだ」
「ううん。ツナは聞いてない。だけど、翼を持つ者なら、皆この言葉を知ってる。神様偉大だから、聞いてないことでも覚えてる!」
「えー、でも僕は知らないけどなぁ。皆は知ってるのかなぁ」
「翼を持つ者って言った。翼は神様の側に近づける大事なもの。だから翼を持たないナビは知らなくて当たり前。巫女も知らないはず」
「へぇ。よく分からないけど、そうなんだぁ」
ツナの話はナビにはあまり響かないまま、道を先に進む。まっすぐ、ずっとまっすぐに続く道を談笑しながら、ただひたすら歩き続けた。
そしてある程度歩いた先に、祭壇と思わしきものをナビとツナは見つけた。簡素なその祭壇だが、松明は明らかにこの祭壇を中心としており、これが何か特別で意味のあるものだと示している。
「あれ!? なにこれ! なにこれ! 何か凄そう! ツナも見てよ!」
「う、これ、もしかして」
「ん? どうしたの?」
驚きで興奮しているナビとは対称的に、若干引いてる様子のツナ。そんなツナが気に掛かるものの、ナビはさらに驚くものを見つける。
「うわぁ! 箱だ! なんだろう、棺桶っぽいなぁ。開けてみよ!」
棺桶は2つ。横に並んでいる。周囲を火を灯した松明で照らされている。大きさはちょうど人が入れるぐらいの大きさで、蓋がされてはいるものの持ち上げれる程度の大きさしかない。ナビはノリノリで棺桶の蓋を開ける。
「え!? これって」
そこに入っていたのは、ナビのよく知るブライともう1人の男だった。2人とも白い肌で棺桶の中に横になっている。
「ブライ? どうして? どうしてここにいるの?」
「ナビ、それはここが」
「嬉しい! ブライにまた会えたんだ! 寝てないで早く起きろよー!」
そう言いながら、ナビはブライの顔を何度も叩く。しかしブライは全く反応しない。
ナビは喜んでいる一方で、ツナは既に気付いていた。
そして棺桶が開けられてからしばらくして、何かの強い気配を感じた。
ツナはナビをクチバシで咥え、咄嗟に影になる場所へと隠れる。ナビはバタバタと暴れているが、ツナがそれを必死に抑える。
「シッ! 静かに! アイツが来る!」
「アイツ?」
棺桶から少し離れた場所。影になるそこからナビとツナは顔を覗かせた。
しばらくすると、そこに黒い翼を持った巨大な鳥がやってきた。漆黒の翼を雄々しく羽ばたかせる姿は、恐れるものが何一つない強者の風格を漂わせていた。
「あれって......」
「ムギン......!」
「ムギン?」
「ヤバい奴! ツナじゃどうしようもない」
「そんな......」
「だからここでじっとしてろ。多分気づかれてない」
「う、うん」
すぐそこにいるムギンは、ブライの肉体も納められている2つの棺桶に息を吹きかけた。そしてすぐに、棺桶に入っている肉体に異変が起こる。
「あ、ブライ......!」
「うぅ......。あれがムギン......!」
ナビとツナが目撃したもの、それは棺桶から起き上がる2人だった。ブライと、あともう1人。ナビには何が起こったのか理解できなかったが、ツナは分かってしまった。あの2人は生き返ったのである。先程まで全く動かない死体であったものに、神鳥であるムギンはその息を吹きかけただけで命を与えた。想像もつかない、覆しようのない差にツナは恐れおののいていた。
しかし自分にも使命がある。早くそれを果たさなければならない。
ツナはナビを再びクチバシで咥え、その場を気づかれないように、されど急いで後にする。一刻も早く合流しなければならない。ツナはその思いで飛んだ。
一方で、死者を蘇らせたムギンは、棺桶から起き上がった2人と対面していた。
「まだ頭の整理がついていないようだね。生き返った時は皆、そんなもんさ。すぐ慣れるから心配しなくていい。ただ、この神鳥ムギンが君達に命を再び与えた見返りとして、1つだけ頼み事をさせてもらうよ」
神鳥ムギンは蘇ったばかりの2人に言葉を放つ。それは神の代行が放ったもの。神の代行が放ったのだから、神の言葉といっても過言ではない。その言葉を受けた2人は、決して逆らうことは出来ないのだ。
「さて、先程までそこにいたけれど、もう行ってしまったのか。忙しない」
「どうします? ムギン様。この世界樹を穢す侵入者共を片付けますか?」
ムギンの傍らに立つ、目覚めた2人とは別の、もう1人の女性。リリィだ。
「侵入者か。どちらかといえば、客人かな? もてなしてやろう。せっかくだし、皆で一緒の方が盛り上がるだろうな」




