第13話 世界樹と味方
剣の光はヒメが発言をした瞬間に変わった。まるで彼女の意思や言葉に呼応しているかのようだ。
そして剣の光が指す方角を変えたことをその場にいた全員が見ていた。誰もが驚いた。
「こんなこと、今までなかったぜ......!」
「剣がヒメ様に答えたのか......。巫女と聖剣、これは知る必要がありそうですな」
「ねぇこれどこに向かってるの?」
「もし聖剣が巫女であるヒメ様の意思に応えたのならば、この光は世界樹を指しているのやもしれぬ」
「本当!?」
「確証はありませんが、考えられるのはそれしかないかと」
「ヒメが世界樹に行くって言ったからな。もちろん俺も行くぜ! どこまでもお前を守ってやる!」
誰もが不安を抱えつつも、胸を高鳴らせていた。道が切り拓かれる瞬間というものは、いつもそうである。既に選択肢は行くか行かないかではなく、覚悟が出来たかどうかになっていた。
「もしこの光が本当に世界樹を指しているなら、行くしかないってことなのね。いいわ、すぐに行きましょう。ここで待ってるなんて、もう出来っこないもの」
覚悟を決めたヒメ。そして、それと照らし合わせたかのように、上空から声が聞こえてきた。
「やっと決心なされたようですね。ガルダとの約束に則って、あなた達の力になりましょう」
「いいね、いいね!」
「行こう、行こう!」
「連れていくよ、連れていくよ!」
先程ゴウマが倒した鳥と似た姿の鳥が4羽、ヒメ達の前に舞い降りてきた。彼らが繰り返す言葉を聞くと、どうやらヒメ達に害をなすつもりではないらしい。しかし今までの経験からして、簡単には信用できない。
「と、鳥!?」
「さっきと似たような奴らばかりだが、お前らもトビっていう奴らなのか!?」
ゴウマがヒメの前に背中を向けて立ち、剣を構える。いつ戦いになってもおかしくはない状況だ。緊張を張り巡らせる4人だが、鳥達はそのようなことなど笑い飛ばしながら、自分達についての説明を始めた。
「ふふっ、かわいい方々。私は確かにトビと呼ばれているわ。だけど彼、ガルダの味方でもあるのよ」
「ガルダ、ガルダ!」
「紅い、紅い!」
「アイツ、アイツ!」
「ガルダ......?」
「えぇ、そうよ。あら、ご存知でなかったかしら。そこの巫女さんが契約してる真赤な彼のことよ。まぁ、名前を知らなくても仕方がないわよね。彼、シャイだもの」
4羽のリーダー格のような、妖艶な雰囲気を纏ったトビが放った言葉にヒメ達は衝撃を受ける。ヒメ達はガルダのことを何も知らなかった。知ろうともしなかったが、考えてみればガルダにもそれなりの背景はあって当たり前だ。まるで深い関係性にあるかのような発言もガルダの知らない一面についても、自分達は知らないことばかりであると痛感させられた。
「ショックだったかしら。傷つけちゃってたらごめんなさいね。それよりも世界樹を目指すんでしょう? 私達が連れて行ってあげる」
「いいのか......?」
「もちろん、もちろん!」
「世界樹、世界樹!」
「遠い、遠い!」
「フフッ。自分の足で歩きたい気持ちもあるでしょうけど、私達の翼のほうが何倍も早く辿り着けるわ。ほら、速く乗って。彼はせっかちよ?」
妖艶なトビの言う通りに4人はそれぞれ鳥達の背中に乗る。
そして4羽のトビは、巨大な翼をはためかせ大空の風に乗った。
「気持ちぃー!」
今までに味わったことのない爽快感にナビは叫んだ。地面からは遠く、白い雲と勢いよく吹く風を全身で感じる。鳥はこれを味わっていたのかと、人である4人はどこか羨ましく、されど今まさに心地よく体験していた。
「いいでしょ、風って」
「あなた達にとっては普通でしょ。自慢にしか聞こえないわ」
「普通じゃないわ。私達にとっても風と空は特別なものよ。神様との繋がりですもの」
「神? なんだそいつは」
「あらあら。神様に向かってアイツなんて言っちゃだめよ。失礼なんだから。でもそうね、神様っていうのは、皆にとって特別で当たり前の存在なのよ」
「偉大、偉大!」
「そう、神様って偉大なのよ」
「どうして偉いの?」
「それはね、神様がこの世界をお造りになった、この世界そのものだからよ。今こうして風を感じるのも、生きているのだって神様のおかげ。どう? 凄いと思えた?」
「神という方はどこにいらっしゃるのか。ぜひ一度お会いしたいのですが......」
「あははッ! 面白いこと言うのね! 神様は会おうと思って会える方ではないわ。言ったでしょ、この世界そのものだって。私達の感じる全ては神様なのよ」
妖艶なトビが4人に神の存在について説く。しかし4人は、その神という存在についてイマイチ理解することが出来ていない。途方もなく矮小で巨大、身近で遠い存在であり、どこか概念的なものだからだ。それをいきなり理解しろと言われても、分かろうとして分かるものではないのだから、理解することは中々に難しいのである。
「神様がいて、どうして私達は苦しむハメになってんのよ。偉いんでしょ? それとも神様はそう望んでいるのかしら」
ヒメ達が今までガルダや他の鳥達にされてきたこと、そして厳しい世界で味わってきた苦しみは、神様が本当にいるのならば無かったはずだ。それとも、神様は別に人を救う存在ではないから、ヒメ達は苦しみに喘ぐことになってしまったのだろうか。
「分からないわ。だって私は神様じゃないもの。私達は飽くまでも神様に仕える存在でしかないわ。神様が何を考えていようとも、何を思っていようとも、それは私達には量れないし、分かりっこないの」
「そう......。随分と、いじわるなのね」
風にかき消されそうなヒメの声。それを4羽の鳥は聞くことしか出来ない。苦しみを抱える魂を、神は未だに放っている。
そうこうしているうちに、目的の場所が見えてきた。
「見て、あれが世界樹よ!」
天と大地を繋ぐ巨大な樹。高さは果てしなく、山が2、3個ほど入ってしまいそうなほど幹は太い。
「これほどまでの大木とは......」
「すっごーい!」
「ん? おい、枯れてるんじゃねぇのか、世界樹」
ゴウマが指摘したように、世界樹の枝には葉や実がついていなかった。幹に比べて細い枝が寂しく雲を貫き、伸びているのみである。
「世界樹は役目を終えたの。だから今は少しだけ、そう見えているだけよ」
「役目?」
「えぇ、そう。世界樹っていうのはね」
世界樹についての説明がされようとした瞬間、何者かがこちらに近づいてきた。
「大変、大変!」
「奴ら、奴ら!」
「そうみたいね」
「なに!? 急にどうしたのよ!?」
突如として目の前に、ヒメ達を乗せたトビ達とは別の鳥が出現した。巨大な翼、茶色い身体、鋭利なクチバシと鉤爪、そして毛のない頭。
「ハゲワシ!」
「ギャーハッハッハッ! 久しぶりだなぁ! トォビィ! 人間なんか背中に乗せちまってよぉ、いつから乗り物になったんだ!? 俺も使わせてくれよぉ!」
「行儀の悪い人は嫌いなの。邪魔しないでくれないかしら?」
「それは出来ないぜ。なんせお前らのやろうとしていることはムギンから聞いてるからなぁ!」
「面倒ね。それじゃあ、ここからは別行動! あなた達、後で合流するわよ!」
「了解、了解!」
「無事に、無事に!」
「後で、後で!」
4人をそれぞれ乗せたトビ達は世界樹を前にして別れた。4羽を同時に追うことを1羽のハゲワシに出来るはずもなく、しかし4人はそれぞれ別々の場所から世界樹へと向かうこととなった。




