第12話 惚れた男
「大丈夫か?」
男がヒメの手を取る。
「え、えぇ。ありがとう......」
砂埃が落ち着き、お互いの顔が見えたところで男は固まった。
「名前は......?」
「え? 私は、ヒメ、だけど......」
「ヒメ! いい名前だ! 俺様はゴウマ! 幸運だぜ! この荒野で、こんなにも美しく咲く華に会えるなんてな! この出会いは運命だ! ヒメ! 俺は今日からお前のために生きる!」
自らをゴウマと名乗る男は、出会ったその場でヒメの手を取り、告白とも受け取れる宣言をした。急なことに、戸惑うしかない。
「そ、そう......。ははは......」
ヒメはゴウマに苦笑いを返し、どうすればいいのか困惑していた。ナビとタレスに助けを求めるような視線を配るが、ナビは呆然とし、タレスにいたっては「これが若さか......」と何故だか関心していた。
「てかさっきの! あれどういうこと!?」
ゴウマの印象に気を取られ、そのまま流されてしまうところだったが、彼は間違いなく鳥を倒した。今もその場に死体が転がっている。一刀両断というに相応しい見事な斬りっぷりに思わず息を呑んでしまうが、それよりも人間であるはずの、人間の姿をしているゴウマが鳥を打ち倒したことの方が何よりも大事だ。
「どうしてあなたに鳥が倒せたの!?」
「聞きたいか? いいぜ。ヒメ、お前のためなら何でも教えてやる」
「いいから早く言いなさいよ」
「ははっ、せっかちだな! そんなとこも好きだぜ! 俺が鳥を倒せたのはな、この剣のおかげだ」
そう言いながらゴウマは3人に自らの持っている剣を見せた。鳥を斬った剣はパッと見ても普通の長剣だ。
「剣......? もしかすると、それは聖剣かもしれませんな」
タレスが言う。ヒメ達にとって聞き慣れない言葉だ。しかし名前から、何か特別なものであるということがなんとなく分かる。
「タレス......」
「はい」
「あなたいつもそれよね」
「それ、とは」
「いつも大事なことを後出しで言うじゃない」
「......そうですな」
「知ってるなら早くいいなさい! ほら、どうせ他にもあるんでしょ!? さっさと白状なさいな!」
ヒメがタレスの胸ぐらをつかみ、激しく揺さぶりをかける。女性の力とはいえ、老人にはキツいだろう。
「お、おぉぉぉぉ......! ヒメ様、私もこのことに関しては人づてに聞いたことがあるのみで、これ以上はなにも......詳しいことは何も知らないのです!」
「ほーら、またそれ! ちょーっと触りの部分を言うだけで何も核心に迫らないんだから! 知ってることがあるならとっとと言いなさいよ!」
「こ、これ以上は本当に何も知らないのです! 聖剣という代物があるかもしれないという噂を聞いたことがあるというだけで、それがどういったものなのかも......。今そこの男が持っている剣がただそれかもしれないというだけで......」
「......本当でしょうね」
「え、えぇ」
鼻息荒くしながらヒメがタレスの胸元から手を離す。完全には納得いっていないという顔だが、受け入れざるを得ない。
今までなかったヒメのタレスへの怒りに、タレスは肝を冷やした。ホッと胸を撫で下ろす。
「ゴウマ、って言ったっけ? あんたは何か知らないの?」
「俺はさっきみたく、この剣であの鳥共を何羽も斬ってきた。だがそれだけだ。これ以上のことは俺自身知らねぇ。自分でも無知なことは承知でこの剣を振るってるのさ。それよりもヒメ、もう俺の名前を覚えてくれたのか? それは俺のことを好いてるってことでいいのか!? 俺に惚れたか!?」
「......そう、知らないのね」
「しかし知らないとは言っても今持っているということはゴウマ殿はどこかでその剣をどこかで手に入れたということ。どこで入手したのですかな?」
「残念だが爺さん。それは俺にも分からねぇ。俺が目覚めて気付いた時にはもう、俺の手元にあったのよ」
「目覚めた? じゃあゴウマは寝てたの?」
ナビが聞いた。
「寝てた、か。それもどうなんだろうな。俺が最初に見たもの、それはどこまでも広がる空と、何もない荒野だ。俺は荒野の上で野ざらしになったままだったんだ。そして隣にはこの剣があった、っつーわけよ。この剣には相性を感じてよ。気に入ってんだ」
「うーん。よく分かんないなぁ」
「ハハッ、ケダモノには理解出来ねぇか」
「私もあんたの言ってることがよく分かんないわ」
「確かに俺の話はよく分かんねぇよなぁ」
ゴウマが気付いた時には、剣は既に隣にあった。彼は剣との相性を感じて、そのまま使うことにしたのだ。つまり、彼自身も剣をどのように手に入れたかという具体的なことは何一つとして知らない。しかし使うことは出来る。
「ふむ、ではどのようにして、ここまで来たのか。正直、遠くからここは見つけづらいと思うのですが」
「あぁ、それはな、この剣が教えてくれたんだよ」
「剣に導かれた、ということか?」
「導かれた、か......。面白い事言うじゃねぇか、じいさん。それが1番しっくりくるぜ。これを見ろ」
ゴウマが3人に自らの持っている剣を見せる。そこからは、一筋の光が放たれていた。
「俺はこの光の先を目指して来た。そしてここに辿り着いたってわけよ」
「へぇ。でもこの光、本当にここを指してたのかなぁ」
ナビがそんなことを言う。その場にいる者は全員、剣から放たれる光の先を見つめた。その先にはヒメが。ヒメもそのことに気付き、少し横にずれる。すると光も、ヒメに合わせて横にずれた。光は彼女の胸元を指している。ヒメは何度も繰り返し横にずれるが、光もその度にヒメを指す。
「つまりこの光は、この縄張りを指していたのではなく、どうやらヒメ様を指していたようですな」
「ヒメ! やはり俺とお前が出会ったのは運命のようだ!」
ゴウマは今までにないテンションでヒメの肩を掴む。剣は間違いなくゴウマをヒメのもとへと導いていたのだ。
「まだ決まったわけじゃないわよ! 第一、私とあなたが会って何するってのよ!」
「何するかって? 決まってんだろ、そんなの! あいしあ」
「タレスはどう思う!?」
「そうですなぁ......。なぜ剣はヒメ様を指しているのでしょうか。それが分からない限りは......」
「んなもん運命だからに決まってんだろうが!」
「違うわよ!」
「仮に運命だったとしても、その運命に理由が欲しいところですな。言い換えと言ってもいいかもしれません。説明が出来なければ、なんとも言えませんなぁ」
剣の光は何故ヒメだけを指すのか。タレスでもナビでも、他の人物でも良かったはずだ。光がヒメを指すのには何かしら理由があり、それはゴウマという強大な力がやってきた意味にもなる。
「ヒメって、巫女だよね? だからじゃない?」
「ふむ。確かにそれしか考えられん。鳥によって選ばれし巫女を聖剣も選んだということか......」
「でも私は剣なんて使ったことないわよ。使える気もしないし」
「だから俺がいるのさ。ヒメ、この俺はお前の剣だ!」
「何でもいいけど、世界樹に行くってのはどうなったのよ。ここでジッとしてるつもりなんてないんだからね」
ヒメがそう言った瞬間、剣の光が指す方向が変わった。ヒメの胸元ではなく、どこか遠くを指している。まるで導くかのように。




