第11話 導き
まるで救いを求めるような目をしていた。
「どうすれば、ミオもブライも、誰も死なずにすんだの? 私が馬鹿だったから死んだの?」
「いいえ、そのようなことはございません。誰にもどうすることは出来ませんでした」
ヒメの嘆きにタレスが答える。鳥同士の戦いに巻き込まれるとはそういうことだ。誰も運命からは逃げることも抗うことも出来ない。ミオとブライは去るべくして去り、ヒメは残るべくして残ったのだ。
「うぅぅぅ......うぅぅぅ......」
ヒメの目から涙が再びこぼれる。タレスはただ見ていることしか出来なかった。
そんな静まり返った空気を壊すように、慌てた様子のナビが叫びながら走ってきた。
「わ、ぁぁぁぁぁ! ブライ! ブライィィ!」
今はもういないブライのことを呼んでいるようだった。しかし彼は、もうどこにもいない。
「おぉ、おぉ。落ち着きなされ。どうしたのだ。そんなに叫びまわって」
「ぶ、ブライに会ったんだ! おーい、ブライー!」
「彼はもうどこにもいないわ」
「本当に会ったんだ!」
「夢だったのでは?」
「違う! この目にはっきりと写ったんだ! 本当なんだ!」
そう言い放つナビ。いつもはこんな様子ではないが、どうにもおかしい。そう思ったタレスがナビの左目に気付く。ナビの左目が光っているのだ。太陽の光を反射したものではない。目から光が放たれている。その目を見て、タレスはある推察を立てた。
「その目、もしや千里眼では!?」
「なにそれ」
「世界のあらゆるものを見ることが出来る神の眼でございます! もしそれが本当に千里眼ならば、おぉ、こんなことが......!」
「なに、あなたは見たことがあるの?」
「いえ、ありません。今、初めて見ました。言い伝えとして聞いてはいたが、まさか本当だったとは......」
「じゃあやっぱり本物!? ブライは今も生きてるんだ! ねぇねぇ、どこにいるの!? もっと教えて!」
「そこまでは分かりません。その目に何が写っているのかは、その目の持ち主にしか分からぬこと。それが今を写しているのかすら、我々には分からないのです」
「今を写しているのかすらって、どういうことよ。まさか未来を見ているとでも言うの?」
「えぇ。その通りでございます。千里眼は世界のありとあらゆる空間を見るだけでなく、過去現在未来すべての時間を見ることすら可能なのです。なのでナビ様が今見ているものも」
「過去のものかもしれないってことね......」
「え、えぇ! 困るよそんなの! きっとブライは今も生きてるんだ!」
「しかし確かめる術がございません。それよりも私が気になっているのは、どのようにしてその目を手に入れたか、です」
「それが僕にも分からないんだ。気づいてたらこうなっていて......」
「うぅむ、そうでしたか......」
仮にナビの左目が千里眼であったとしても、これ以上の情報がないかぎりは手がかりすらない。タレスも千里眼についての知識が十分にあるわけではないので、どうすることも出来ないが、ここで1つだけ彼は思い至ったことがあった。
「あの御方なら、何か知っているかもしれません」
タレスのその言葉に、ヒメとナビはピクッと反応した。
「それって、アイツのこと......?」
「えぇ」
「えー! 嫌だよ、僕。もうアイツとは何があっても関わりたくないんだ」
タレスの言う「あの御方」、ヒメとナビの言う「アイツ」とは、ガルダのことだ。確かにガルダなら、何か知っているかもしれないという予感はする。しかし、多くの命を奪ったガルダの力を借りるというのは、感情的にどうしても納得がいかない。
「しかし......」
「いいえ。あんな奴に頼るぐらいなら、自分達でなんとかしてみせるわ。その千里眼についても、私達が調べるの!」
ヒメはその場で立ち上がり、声を大きくしてはっきりと言った。勇ましく立派な姿。それが憎しみによるものなのかは分からないが、ナビとタレスはその姿に感銘を受けた。
「うん、うん! そうだよ! そうでなきゃ! 僕もやる! 僕の目だしね!」
「私も協力いたしましょう。手掛かりになるかは分かりませんが、あの御方は世界樹へ向かうと言っておられました。もしかするとそこに、何かヒントがあるかもしれません」
「世界樹?」
「えぇ。この世界に古くから根付く、いえ、この世界そのものを支える天にも届く大樹、それが世界樹でございます。その頂きには神がいるとも、いないとも言われております」
「どっちよ」
「さぁ? 私には分かりかねます。なんせ、頂きに至った者は未だかつておりませんからな」
雲を掴むような話だ。いくらガルダがそのように言っていたからと言って、本当に世界樹に向かったのか、そもそも世界樹が存在するのかさえ怪しい。しかし、今はそんな怪しい話ですら希望なのだ。雲を掴むしかない、ということだ。
「とにかく、その世界樹ってのを目指せばいいんだね?」
「で、どこにあるのよ。それ」
「分かりませぬ」
「はぁ!?」
「えぇ!?」
「私も実際には見たこともなく、詳しい者から少し話を聞いただけなのです」
「それじゃあ、どうしようもないじゃないの......」
ヒメはその場に座り込み、頭を抱えた。千里眼の手掛かりを得るために世界樹へ行く手掛かりが必要なのに、それが分からない。スタートラインにも立てていないような状況。手当り次第に探すには、この世界は広すぎるというもの。
どうすればいいのか、3人で考えていた時だった。
強い風が吹いた。それも波状的に風はやってくる。自然な風じゃない。風が吹く方を見た。
「ハーハッハッハッ! おいおいおい。こんなところに人間がいるぜぇ?」
鳥だ。ガルダよりは小さいが、それでも人と比べれば十分に脅威になり得るほどに大きい。鋭いクチバシに鋭い爪。茶色と褐色の混じった翼と体をしている。
「なによ、何しにきたわけ!?」
「ハッハッハッ! 威勢のいい女じゃねぇか。だけどよぉ、人間共だけでいるのはちょーっと威勢がよすぎやしねぇか。ま、これだけ聞きゃ、俺が何しにきたかなんて分かるだろ?」
「ではあなたは何者だというのか! 名は!?」
「......そうだよなぁ。名乗らねぇなんて神の使いがやることじゃねぇ。ただ俺に名前はねぇ。だが俺たちはトビって呼ばれてんだ。よろしくなぁ!」
高らかに叫ぶと同時に、トビはクチバシを大きく開け、3人を飲み込もうとする。その場で躱す3人だが、ガルダがいない今、この危機をどうすることも出来ない。
そこにだ。彼がやってきたのは。
「ハァァァァァァ!」
大きな叫び声。若々しくも猛々しい男の声だった。
トビの背後に人の影が見える。きっと声の主たる男だろうが、その姿は太陽が照り付け、黒い影だけが見える。鍛えられた身体が剣を振りかざし、まっすぐトビの首を切り落とした。トビは声を上げることもなく、その場に頭と身体が切り離されたまま地に墜ちる。
周囲には衝撃と共に砂埃が舞った。
「なに? 何が起きたのよ!?」
「フッ。危ねぇとこだったな。大丈夫だったか?」
だんだんと男の姿が見えてくる。筋肉質な体。胸元だけをはだけさせたヨレヨレのシャツ。シュッとした顔に、アップバングの黒髪。無骨。そしてトビを斬った体の半分はある長剣。不敵に笑う、その男の名は。




