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第9話 北海道だから



今回もいろいろとバカップルです。



 新千歳空港を降りて、バスに乗り換えて約1時間。着いたところは山奥の別荘だった。

 僕は一瞬来るべきところを間違えたのではないかと本気で疑った。

「ここが真実さんちですか・・・」

「・・はい。僕も久しぶりです」

 ちょうどそのとき、木骨(もっこつ)(あらわ)になっている扉が急に開いた。まるで僕たちが来るのを知っていたかのように。

「あれ・・・?どちら様ですか」

 現れたのは細身の女性だった。髪の毛を後ろで1つに束ねており、外見から見て20歳後半というところだろう。綺麗な人だった。

「あの、俺たちは・・・」

 しどろもどろになって僕が言うべき言葉を探していると、女性は僕を通り越して裕太のことを見て、そしてつぶやいた。

「裕太君?」

「あ・・・お久しぶりです。多恵(たえ)さん」

 多恵さん?僕は2人を見比べて状況を飲み込もうとする。だけど、そこには今まで考えてもいなかった大きな秘密があったのだ。


「社長令嬢と執事?」

 声を落とすのも忘れて僕は大声を出してしまった。

 別荘の中、リビングに案内された僕は、多恵の持ってくるコーヒーを待つ間に清水夫妻の真実を知った。

「最初にマミリンと出会ったのはトンネルだって言いましたよね?そのときに一目ぼれして、執事になったんです」

「へー・・・そうなんですか」

 まるでドラマの世界だと思った。お金持ちの娘とそこで働く執事の恋物語。それだけで1つの物語が書けそうだった。

「だから反対されるんですけどね」

 結局カケオチするという選択をしたわけだが・・・裕太は僕が言った言葉に心が動かされたらしくて、やっぱり真実に反対されるらしい。そのことで今回はケンカになってしまったのだ。

 しかし、真実や美咲は浮気がどーのこーの言っていなかっただろうか。ふと疑問に思ったが、それについては裕太もよくわからないそうだ。

 そのとき、コーヒーを淹れた多恵が戻ってきた。僕らはなんとなくへりくだってそれを受け取る。

「真実さんは今出かけてます。もうすぐお帰りになるんじゃないかと・・・」

 後で聞いた話だと、多恵はここのお手伝いさんらしかった。彼女はしばらく裕太と簡単なやり取りをした後、改めて僕のほうに向き直った。

「お名前を伺ってもよろしいでしょうか」

「葉山です。清水さんとはお隣同士なんです」

「葉山さん・・・美咲さんのお兄さん、とか」

「いえ。美咲は僕の妻なんです」

 なんとなく照れくさい言葉だったが、嘘偽りないことだ。

 美咲のいる場所に案内されたのはそれからすぐのことだった。


 庭で何をしているのかと思っていたら、美咲は庭の手入れをしている老人の手伝いをしていた。

「あ、孝介」

 まるで僕が来ることを予想していたような表情だった。首にタオルをかけ、後ろでポニーテールにしている美咲は、北海道という地に立っているからなのかいつもと違う印象を抱かせた。

「暇だったからお手伝いしてた」

 美咲は老人に礼を言われ、ちょうど仕事の区切りがついたところらしかった。

「来てくれてありがとう」

「そりゃぁ清水さんに航空賃出してもらっちゃったからね」

「帰りは私が出すよ。もう今日の最終便買っちゃったから」

「え!?今日帰るの?」

 僕の大きな荷物は明らかにここに何日か滞在するのを見込んでのものだった。しかし、美咲は苦笑して、

「関係のない私たちが何日も邪魔しちゃ悪いって思ったんだけど、真実さんがいいって言うから払い戻した」

 美咲の言葉を聞きながら、僕はいつになく彼女のテンションが高いことに気づいた。ひょっとして北海道のパワーか?

「美咲嬉しそうだな。北海道だから?」

「それもだけど、孝介が来てくれたから」

 そう言って極上の笑顔を見せる。こんな素直な彼女を初めて見た。老人がいなかったら抱きしめていたところだろうが、僕は美咲と一緒に室内に戻るだけに留めた。


「そういえば、真実さんはどう?行くときは怒ってたんだよな?」

「あぁ、真実さんか」

 美咲は急に思い出したかのような口ぶりだった。

「あの2人なら大丈夫だと思うよ。たぶん真実さんの勘違いだと思うから」

「・・・?どういう意味?」

「真実さんは清水さんが浮気したって思ってるんだよ。でも、あの清水さんが真実さん以外の女の人と浮気なんて考えられない。今頃誤解が解けていつものテンションに戻ってるんじゃない?」

「はは・・・そんなまさか」


 そのまさかだった。

 リビングに戻ると、いつのまにか戻ってきていた真実が多恵がいるにも関わらず、いつものラブっぷりを発揮していたのだった。

「やだーもう。私ったら勘違いしちゃったんだー」

「そうだよ。僕がマミリン以外の人なんて考えられないよ。たまたま掃除のおばさんと会話しているときを見ちゃったんだよ」

「ユウちゃん、だーいすき・・・」

 そのまま抱き合ってキスしそうな勢いだったので僕は慌てて咳払いをした。しかし、聞こえてないのか自分たちの世界に入っているのか、まるで無視して2人はキスをし始める。

 多恵が困ったように笑っていると、僕たちに気づいて笑顔を向けた。

「一件落着のようです」

「そのようですね・・・」

 一気に疲れた。僕らがここまで来ることに意味があったのだろうか。

 後は真実の両親を説得するだけのようだが、今の2人のテンションだったら清水の舞台から飛び降りても無傷でいそうだと思った。


 僕と美咲は真実の厚意に甘えて、部屋の1つを貸してもらえることにした。

「いい所でしょ、ここって。この先に夜景の綺麗な場所があるんだよー!お世話になったお礼に、そこの場所教えてあげる」

 教えられたのは、国道をちょっと脇にそれた林の中だった。そんなにうっそうとしていないので、夜でも月の明かりさえあればなんとか進めるくらいの林だ。その先に木が全く生えていない所があるそうだ。そこが穴場らしい。

「わ・・・ほんとだ。すごい・・・」

 僕もこんなに星がちりばめられている空を見たことがなかった。星が降ってきそうとはこのことを言うのだろう。

 ふと、隣にいる美咲を見た。彼女の横顔は星に負けないくらいきらきらしているように見えた。これも北海道パワーだろうか。

「世界は広かったんだ」

「なにそれ?」

 僕は尋ねる。

「こんなに綺麗な星、日本で見れると思わなかった」

「俺も」


 その後、どういう経緯で僕らがキスをしていたのかはわからない。くどいようだが、北海道パワーなんだ。っていうか、ただの思い付きだ。

 軽く唇を合わせるだけのものから少しディープなものまで、僕は美咲の表情の変化を見ていた。いつのまにか手が美咲の胸にあるところも星が綺麗だから・・・・・・か?

 そんなスケベなことをしていると、急に背中に悪寒を感じて振り返った。

 誰もいない。すごく嫌な感じがしたんだが・・・怖いくらいの・・・・

「こ、うすけ・・・?」

 緊張して縮こまっている美咲が不思議そうに尋ねてくる。

「や、なんでもない」

 そのとき、美咲の細い指が僕の前髪に触れた。なぜか僕の額は冷や汗をかいていた。

 僕は美咲の手を取ってもう1度振り返って・・・・・そして見つけた。

「誰ですか」

 そこには木に隠れるようにして立っている人影があった。

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