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第8話 北海道へ

 なぜか僕は今空港で北海道行きの航空券を握り締めているのだが、これには訳がある。


 今から1日ほど前。

 新婚のくせに何をやっているんだと言われるかもしれないが、バイトで休みをもらって美咲と一緒に1週間くらいぶらぶらと過ごしたり、旅行にでも出かけたりしようかと思っていたら、突然清水夫妻がやって来た。

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!!」

 今さらだが、呼んでもいないのに来るのはいつものことである。まるで自分の家のように近所のスーパーで買ってきたと思われる寿司を目の前で広げ始めた。

「これ、今日の広告の品だったんだー!私たちのおごりだからジャンジャン食べてね!」

 そうして、立派な寿司がテーブルに乗せられていった。しかし、僕も美咲も簡単に手を出そうとはしなかった。短い付き合いだが、彼らが気前のいいときは、絶対に裏に何かある。

「どうぞ!遠慮しないで食べてください」

 清水裕太がにっこりと笑って寿司を勧めてくる。

 このときにはすでに事が始まっていたのだ。


「孝介君、ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど」

 僕のことを裕太が名前で呼ぶようになったのは最近だ。結局勧められるがまま、ウニを食べてしまった。テーブルを挟んでキッチン側に美咲と真実が座り、窓側に僕らが座る形になっているが、後で考えるとこの形もおかしい気がしてきた。

「そういうのは聞かずに心の中に留めておいたほうがいいですよ」

「いや。聞かなきゃすっきりしないでずっとモヤモヤすると思うんだ」

 仕方なく耳を傾けておくことにする。

「男には勇気が必要だと思いませんか?」

「・・・?そりゃぁ・・」

 想定外の質問だったので、少し拍子抜けしてしまった。きょとんとしていると、裕太は嬉しそうな顔になって真実と美咲のほうを向いて、

「マミリン!孝介君も僕に賛成してくれたよ!」

「えぇっ!うそー・・・サイッテーだよ孝介君!」

 へ?少しくらいの勇気は必要なんじゃないですか?・・・と言いそうになったところで、なぜか美咲がそれを遮った。

「孝介・・・本当に最低だよ」

「なにが!?」

「今のは浮気を肯定するようなもんだろ!」

「はいぃっ!?」

 話が全く見えない。勇気が必要→浮気オッケー・・・話が飛躍しすぎていないだろうか?

「孝介君って元カノとか引きずりそうだよね」

 さりげなく言った真実の一言が美咲に火をつけた。

「引きずってないです!今は美咲と結婚したんだし!」

「じゃぁ私と結婚しなかったら引きずってたってことかー!」

 そうとも取れる。いや、そうじゃないし。

「ってか、なに言ってんだよ!話が違うだろ!」

「この際だ・・・今まで何人いたのか聞いてやろうか・・・・・」

 僕は何も言えずに口をぱくぱくとしていると、あーと声を出してたぶん助け舟を出してくれるであろう裕太が口を開いた。

「確か2人でしたよね?」

 助け舟どころか、僕をどん底に沈めるような一言だった。

「清水さん・・!」

「あれ?違いましたっけ?こないだ酔ったときにそんなことを話していたような気が・・・いや、それよりも僕が言いたいのは・・・・・・」

 ピンポーン

 このややこしいときに玄関のベルが鳴った。


「お父さん!」

 なぜか開けたのは真実で、なぜか来訪者は真実のお父さんだったようだ。みんな部屋を間違えているんじゃないだろうか。

 しかも、日本人というより・・・クォーターくらいの美形の男の人だった。一見すると、かっこいい俳優さんにも思える。

「ここにいたのか・・・真実、帰るぞ」

 突然の申し出にさすがに驚いてしまった。僕は慌てて隣の裕太を見たが、何かに怯えるようにうつむいてしまっている。そういえば、以前彼らはカケオチしたと言ってたような・・・

 当の真実は下唇を噛んで何かを我慢しているように見える。僕と美咲は自体が飲み込めずに顔を見合わせた。

「・・・・・・・・わかった。帰る」

 たっぷり時間をかけて真実はぽつりとつぶやいた。

 誰もが驚く中、特に裕太がその反応を見せた。

「でも、帰るのは明日にする。今日は・・・準備とかしたいし」

 いつものようなハイテンションではなく、淡々と語る真実の様子がなんだか現実味を帯びていた。


 話がこじれてしまい、結局その日は僕の家に裕太が泊まり、美咲が真実の家に泊まることになった。ついでに僕たちの関係もこじれたままだったのだが、裕太が一言も喋ろうとしなかったので僕は何も言うことができなかった。

 午後9時頃、僕は外に出て美咲のケータイに電話した。無視されるかと思ったが、案外あっさりと電話に出てくれて、しかも外にまで出てきてくれた。

 ただし、その顔は不機嫌そのものだったが。

「怒ってないよ。過去のこと掘り返すつもりはないし」

 僕は意味もなくケータイを開けたり閉めたりをしながら言葉に詰まっていた。明らかに怒ってる人が怒ってないと言っても全く説得力がない。

「でも、テレビとかマンガで、女の子が彼氏の元カノに嫉妬するとか正直そんなのありえないって思ってた、けど・・・」

「けど?」

 顔をうつむける美咲。僕はその先が気になって先を促す。

「もーいいよ!」

 部屋に戻ろうとする彼女を僕は手で扉をふさいで押しとめる。そのまま後ろから抱きしめた。

 友達で嫉妬する女の子は苦手だと言う人がいたが、美咲のようなタイプの人が嫉妬してくれると嬉しく思うのはなぜだろう。

「引きずってないから大丈夫だよ。今の俺は美咲しか見えないし」

 そのクサいセリフが恥ずかしかったが、美咲の顔を赤くして背けようとしている様子を見て、たまには言ってみるものだと思った。だから、調子に乗って、

「美咲の初恋の相手に嫉妬するくらい」

 そのときの僕の言葉が美咲の悩みのタネになるなんて思ってもみなかった。

「孝介・・・今度迎えに来てよ」

 そうして、その言葉が俺を悩ませることになる。


 てっきり明日部屋に迎えに来いって言っているものだと思っていた。

 しかし、翌朝裕太と隣の部屋に行ってみると、そこに2人の姿はなかった。買い物にでも行っているのかと思って美咲のケータイにかけてみたが、電源が切られていた。

「孝介君・・・!」

 慌てた声で裕太に呼ばれる。彼は部屋の中央にある丸テーブルの傍で2枚の紙を見ていた。僕が駆け寄ると、片方の紙を渡された。

『孝介へ      真実さんと一緒に北海道に行ってきます。たぶんすぐに戻るよ』

 昨日、美咲の言っていたことはこのことだったらしい。

 僕が事の成り行きについていけないでいると、隣の裕太の様子がおかしいことに気づいた。

「清水さん・・・?」

 失礼かもしれなかったが、僕は彼の持っている紙を覗いてみた。それは、真実の手紙らしい。

『実家に帰ります』

 ただ一言それだけ。さすがにやばいと思った。

「清水さん!真実さんを迎えに行きましょう!」

「でも・・・僕がマミリンの家に行きたいって言おうとしても取り合ってくれなくて・・・こんな形で行けない」

「このままだと真実さんと離婚ってことになっちゃいますよ!それでもいいんですか!?」

 その言葉は裕太に重くのしかかったらしい。今まで情けない顔をしていた彼が、ぶんぶんと首を振って気合を入れなおす仕草をした。僕もようやく安心した。

「俺も行きます。美咲も一緒に行ったみたいなんで」

「孝介君、ごめん。いろいろ迷惑をかけて」

「ほんとですよ。でも、清水さんたちにはすごくお世話になりましたから」

 前に美咲とケンカしてしまったことを思い出していた。あのときは2人のおかげで仲直りできたんだ。今度は僕が協力しよう。


 そうして今、真実の実家がある北海道への航空券を握り締めているわけだが・・・・・・裕太と真実の夫婦間の仲をとりもつつもりでいったのに、なぜか僕たち夫婦の関係もまたややこしくなるなんてこのときは思っていなかった。

お久しぶりです!

少し更新に時間がかかりましたがなんとかできました・・・・・


今回は話の分岐点のつもりで書きました。

小説だから思う存分暴れさせてやろうと、ありえない設定を考えています。

うわー・・・どうなるのかなー

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