表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

第6話 仲直り

 なじみのない高校の校門前。僕は門にもたれかかってそのときを待っている。何を考えるでもなく。

「・・・・やっぱここだったんですね、先輩」

 見覚えのあるスニーカー。顔を上げると、塚本が目の前に立っていた。予想していなかったので、僕は少し驚いた顔になるのを感じた。

「塚ちゃん・・・なんで」

「つばめにあいつら(・・・・)の特徴を聞いたとき、俺も近くにいたじゃないですか」

 そうか・・・考えてみれば塚本がここにいてもおかしくない。

「奥さんの具合は大丈夫ですか?」

「うん。今日退院したんだ」

「傍にいなくていいんすか?」

「いるって言ったんだけど、授業は出とけって怒られた」

 今朝の会話を思い出して苦笑する。つい先日まではそんな会話もなかったのに、なんだかそれがおかしなことのように思える。それに、授業に出ろと言われてきたのに、こんな所にいる自分は絶対変だ。

 目覚めたときよりは美咲は元気そうだった。でも、誰もがそれがから元気だってことに気づいている。実家で静養するという選択肢もあったのだが、美咲は僕と一緒にいることを選んだ。僕は嬉しかったが、本当にそれでよかったのだろうか。

「こんな所にいていいんですか」

 もっともな質問だ。塚本は俺のしようとしていることを見抜いている。

「お前も好きな女が誰かに襲われたら、俺と同じことしてると思うよ」

「・・・たぶんするかも。でも、今の立場だから言えるんだけど、奥さんきっと今頃1人で心細いんじゃないんですか?もし先輩がケガしたり、なんかしたりしてたら、絶対悲しむと思うけどなー」

「俺は・・・・・ただ、あいつらを警察にたたき出せたらって思ってるだけで・・・」

 口ではそう言ったが、実際の話どうしたいかなんて考えていなかった。ただ、どう転んでも穏便(おんびん)に済ますつもりはなかっただろう。

 そのとき塚本が急に真面目な顔をして、

「先輩、本当のこと話します」


 塚本が江藤つばめの目的を知ったのは、2度目に彼女に会ったときだった。トンネルの中で偶然出会ったときは、正直運命的なものを感じた。

 しかし、やっぱり最初はなぜ殴ったのか、そのことを聞いた。すると、彼女はこう言った。

「邪魔をするようなら容赦はしません。だけど、あなたたちを殴ったのは謝ります・・・・・あの後、すぐにあいつらの仲間じゃないことに気づいて救急車を呼びました。そのとき、失礼だと思ったんですけど、あなたの免許証を見ちゃいました。それで、このへんに住んでるってわかって・・・・・今行こうとしてたんです」

「じゃぁ、君の探してる宝ってなんだよ?」

 それが、この話を聞いた者の持つ最も大きな疑問だろう。塚本がその返事を待っていると、彼女は静かにその言葉を告げた。

「―好きだった人の敵討ちです」

 話によると、江藤は別の高校に好きな人がいたらしい。しかし、その男は死んだ。高校でいじめに遭って自殺したのだ。彼の敵を討つために、その元凶を作った彼と同じ高校の男子生徒5人組に対して、江藤は夜に彼らが行きそうな場所を張っていたそうだ。

 塚本はそれが間違っていることに気づいた。だけど、何も言えなかった。彼女が本気だと気づいたからだ。

「すべて終わったら、私も警察に行きます。それまでは邪魔しないでください」

「いいよ。その代わり条件がある」

 それが、自分の彼女になることだった。

 その後、葉山のもとに江藤を連れて行った。彼女が葉山夫婦に冷たく当たってしまったのは、幸せそうだったから、だそうだ。彼らには邪魔されたくなかった。


 塚本の話を聞いて、江藤の矛盾した行動にまぁ納得がいかないわけでもなくなった。要は、敵討ちがしたいのだ。

「塚ちゃんはそれでいいのかよ。相手は違う人を好きだってのに」

「心変わりなんていつ起こるかわかんないって」

 他人事のように言い放つが、その顔が少し悲しく見えた。僕はこんなに塚本のことを大人だと思ったことはなかった。それに比べて、自分はなんなんだろう。今何かしてしまったら、悲しむのは僕じゃなくて、きっと美咲だ。

「ただ、俺は彼女が自首するまで傍にいたい。先輩はいつだって一緒にいられるんだから・・・・・」

 そこまで言いかけて、塚本の口が止まったことに気づいた。彼の視線の先を僕も追ってみる。そして気づいた。

 僕たちがトンネルで見たあの顔。それから、江藤の教えてくれた男たちの特徴とよく似た人物が3人。それも、明らかに奴らの仲間じゃないと思われる気弱そうな男が半ば押されるようにして正門から出てくる。

 周囲が遠巻きに彼らを見ているところで、大体の想像がついた。

 自然と僕の足が動いた。


「なんだ・・・こいつら!!」

 気づくと、僕は人のいない公園にいて、1人の高校生の太い腕をひねり上げていた。残りの2人は塚本ががっしりと捕まえている。

 その間に、気弱そうな男が逃げていく。

「お前ら・・・・・あいつの仲間か・・・?」

「はぁ?勘違いするなよ。俺はさっきの男と面識なんてない」

 ひねる力を強くする。高校生の腕からかみしみしと音がするような気もしたが気にしない。

「いっっ・・・・・」

「二度とこんなくだらないことするな。それから・・・」

 言葉はやわらかい。だが―

「それから、今度俺の女に手を出したら―・・・・・・・・・・」


「サンキューな」

 歩きながら塚本に礼を言う。本当はこんなに簡単に言うべきことではなくて、ちゃんと言いたかったんだけど、上手く言えない。

「先輩カッキー!俺の女だって!俺絶対言えねーし!」

「・・・それ忘れて・・美咲に知られたら人を所有物扱いするなって言われそう」

 なんだか顔が赤面してしまうのではないかと思うほどこっぱずかしい。僕は手で口元を覆ってなんとかやり過ごす。

 今回のことは解決したわけではないが、塚本には本当に感謝している。彼がいなかったら取り返しのつかないことになっていたかもしれない。これで心がすっきりしたわけではないが、今は帰ろう。自分の家へ。

 足取りは朝よりも軽かった。背中の重荷が少しだけ軽くなったからかもしれない。


 マンションに着いてから僕はその異変に気づく。

「・・・・・?」

 玄関の向こう、僕の家から妙にテンションの高い声が聞こえる。まさか美咲が1人でべらべら喋っているわけではないだろう。そうして、ある存在に思い至った。

 そして、案の定その存在の1人、清水裕太が突然玄関からひょっこりと顔を出した。

「あ、葉山さん!お邪魔してまーす。マミリン、帰ってきちゃったよ!」

 僕の部屋から顔を出して慌てて言う裕太。一体僕の家で何をやっているのだろうか。すると、家の中から真実の明るい声が聞こえてくる。

「オッケー!入ってきていいよー」

 よくわからないが、裕太に言われるまま僕は自分の家の敷地をまたぐ。そして、見た。

 美咲が顔を真っ赤にさせて、メイド服に、ネコ耳なんてつけて、すごく恥ずかしそうに立っているのが。別に美少女系アニメに萌え〜ときたことはなかったが、オタクの気持ちを瞬時に理解した気がした。やっべ。やばいっすよ。

 傍らに立つ真実が美咲の背中を押して、一歩前に押し出す。何かを言えとジェスチャーしているようだ。

 やがて美咲がぱっと顔を上げて、僕を正面から見つめた・・・・が、すぐにしゅんとなってしまった。

「真実さん、やっぱり無理だ」

「何言ってるの!ここは『おかえりなさいませ、ご主人様』だよ!葉山さんと仲直りしたいんでしょ?」

 そう言って、くるんと僕のほうを向いて、真実はにっこりと笑った。

「あとは若いお2人だけで〜」

 まるで見合いの席のように、清水夫妻は軽やかに帰っていく。彼らはこれで2人がちゃんと仲直りしたように思っているようだが、それ以上の効果を持ってきてくれた。知らない間に幸せを持ってくる人たちなんじゃないかと思う。

「孝介・・・あのさ」

「ちょっと待って」

 僕はポケットからケータイを取り出して、神業的な速さで写真を撮った。

「美咲のメイド姿なんて一生見られないかもしれないから記念に。やべ、超かわいいし」

 彼女はやっぱり頬を赤くして、慌ててネコ耳を取った。

「孝介、あのね・・・こないだは、ごめんなさい」

「こないだって、え?」

 何のことを言われているのかわからずに聞き返す。病院に運ばれた事件のことを言っているのかと思ったが、あれは美咲が謝るべきことではない。

「その・・賭けとか、そういうの。孝介に怒られて、あのときはびっくりして逃げたけど、冷静に考えてみて謝らなきゃなって・・・思って」

「あぁ・・・俺もあのときは強く言い過ぎた。それと、体育館で見たのは誤解だからね。何にもないから」

 こくんと頷いたのを見て、僕は安心した。っていうか、それを言うためにメイドの格好をしたのだろうか。


 嬉しかった。僕は二度と美咲を悲しませないと強く決心した。

とりあえずシリアス編終了です。


これから江藤が出てくるかはわかりませんが、

しばらくはライトな内容で行こうかと思っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ