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最終話 やっぱりおしどり夫婦へ

「なに?愛のメール?」

「そうかも。秋野さんとかいうやばい女の人に目ぇつけられたらしいよ」

 およそ夫婦の会話らしくない会話。夕食を食べ終わった直後のことだった。

 秋野知美とアドレスを交換してから2週間。彼女はまめに僕にメールを送ってきた。その内容が男慣れしていそうな文章で、僕も独身だったらぐらっときたかもしれない。

「やばいってなにが?」

 僕が他の女の人とメールをしているということよりも、美咲は相手の女に興味があるらしい。ソファにもたれかかって不思議そうな表情をしている。

 僕はさっさとメールに返信してから、ケータイをぱしんとたたむ。

「わかんない。同じ課の人がそう言ってただけだから・・・・・なにそれ?」

 気づくと美咲が届いた郵便物の封筒を見ているのが見えた。少し興味を持って僕は近づく。

「んー・・同窓会もどきのお知らせだって」

「もどき?」

「そう。友達とか恋人とか連れてきてもオッケー!みたいな?そんなカンジの集まりだって」

「へー、おもしろそうじゃん。行ってきなよ」

 僕の高校では度々同窓会が行われるが、そんな誰でもオッケー的なものではない。

 だが、美咲は乗り気ではないらしい。

「こんな体だよ?行ったらいろいろ言われそうでやだな」

「あー・・・そうかぁ」

 僕はその手紙をしげしげと眺める。むしろ友達・恋人を連れて来いという書き方をしていて驚いた。ふとそのとき思った。

「恋人オッケーなら俺も行ってもいいってことだよね?」

 別に行きたいわけではなかったが、そう言った後の美咲の反応を見て行くことを決めた。


 同窓会もどきは美咲の高校3年生のときのクラスの集まりらしく、クラスメートの1人の両親が経営する旅館の大広間を貸し切って行われた。

 予定よりも何分か遅れて到着し、僕らは目立たないように中に入った、つもりだったが、ふすまを開けると中にいた100人くらいの人間が一気にこっちを向いた。

 女の1人が声をあげた。

「美咲!」

 数人の女の人が走ってくる。その中の1人は僕も見たことがある、結婚式に来ていた人だ。

「よかった!来ないかと思ったんだよ〜。みんなー!美咲来たよー!!」

「武藤さんか!久しぶりー!って子供?」

 美咲は女の集団に連れて行かれる。僕はなぜか男の集団の輪の中に引っ張り込まれた。

「もしかして、武藤さんの彼氏!?」

「えっと・・・一応結婚しました」

「結婚!?」

 やっぱり意外なんだろう。っていうよりも相手が僕だったことに驚いているのだろうか。


 しばらく彼らと話しているうちに、美咲の高校時代の姿が明らかになってきた。

 美咲は心を許した人にはとことん許すのだが、そうじゃない人にはあまり懐かない猫みたいだったそうだ。美咲に気に入られようと男子の何人かが必死にアプローチをかけたみたいだが、逆にうっとうしがられたとか。確かにそんな気がする。

「ここだけの話、武藤さんってかなりモテたよ。なにより顔がかわいかったし」

 美咲の少し荒れていたときは、ひょっとしたら岸本と婚約が決まってからじゃないだろうかとふと考えた。

 今、美咲は友達に囲まれてすごく楽しそうにしている。その笑顔を見ているだけで今日は来てよかったと思う。

 しかし、そのとき、美咲のすぐ隣に見知った顔を見た気がした。もう1度よく見てみると、今度ははっきりとわかった。

「秋野さん・・・?」


「ここまでの感想から言わせてもらいますと、確かに葉山さんはいい人です」

「え?なにがですか?」

 みんなから離れて秋野と2人きりになる。彼女は開口一番、そんなことを言い出した。

「美咲からよく旦那さんの話を聞いてて、まぁ結婚式で見ただけだったからへーとしか思わなかったけど、こないだウチの姉が葉山さんに会ってタイプだったって騒いでたから気になったんです。そうしたら、ウチの会社に入ってくるんだもん、もう日本って狭いなー」

 それだけのことを一気に話し終えると、秋野は僕をにらむように見てきた。

「メールでのやり取りで、私明らかに気があるように書いてたでしょ?でも、葉山さんは私を傷つけないようにやわらかい文章で返してきました。メールって人柄が出やすいんだよね。あっ、勘違いしないでね。私には好きな人がいるんだから。不倫だけど」

 磯崎が言っていたのはこのことだったのかと今さらになって考える。

「秋野さんの姉って・・・?」

「北海道で会わなかった?多恵っていうの。私の姉」

「あぁぁぁそっか・・・・・」

 急に力が抜けてきた。いろいろと考えた自分がバカみたいに思えてきた。

 秋野はくすくすと笑って僕を見る。ここで会わなかったらずっと僕のことをからかっていたことになるのだ。

 それにしても本当に偶然だ。多恵の妹が秋野に当たるのか。確かに顔立ちが整っているところは似ているかもしれない。


「やっぱり秋野のことだったんだ。会社の女との愛のメールって」

 いつのまに傍にいたのか、美咲が背後に立っていた。

「あったりー!旦那さん美咲のことしか見えてないみたいだけどね。浮気の心配ナッシング」

「浮気なんてしたらぶっ飛ばしてるよ」

「え・・・えぇ・・・美咲、知ってたの?」

 1人だけ話が見えなくて僕は混乱してしまう。しかし、美咲はあっさりとしていた。

「うん。秋野は短大出てすぐ孝介が今いる会社に入ったんだから。それに少し前に『旦那試していい?』って言ってたしね」

「ばれたか」

 秋野はおかしそうに笑った。僕は頭が痛くなってきた、が・・・

「今日一緒に来てくれてありがと。久しぶりにみんなに会えて嬉しかった」

 美咲の笑顔を見てつられて笑った。

「俺は美咲の恥ずかしい高校時代の話を聞けておもしろかったよ」

「はぁ?なに聞いたんだよ!?」

「教えない」

「孝介!!」

 はたから見るとただののろけたカップルのようだった。僕は美咲のパンチをかわしてるだけなのだが、逆にそれがそんなふうに見えたらしい。

「いいなぁ、美咲。あんなに優しい旦那さんに出会えて。私も幸せな結婚生活を送りたいなー・・・」

 そんな声は聞こえなかった。



 そして、今日もいつもの日常が始まる。

「やっべ!遅刻しそうだ!」

「昨日飲みすぎだっつーの!」

 同窓会の翌朝、寝坊して僕は会社に遅れそうになった。慌ててスーツを着て朝ごはんのパンを牛乳と一緒に飲み込む。ちなみに、美咲は僕のために弁当を作ってくれたが、まだ起こすには時間があるからと思って2度寝したら寝過ごしたらしい。

「あっ!弁当!せっかく作ったんだから持ってってよ!」

「サンキュ」

 弁当箱を受けって家を飛び出す。だけど、あることを忘れてまた玄関まで戻ってきた。

「忘れ物だ!」

「なにを!?」

 美咲も慌てる。

 僕はしゃがみこんで美咲の大きなお腹に話しかける。

「お父さん、今日もがんばって仕事してくるぞ!」

 もうすぐ会える我が子に話しかける。こういうふうに話しかけたほうがいいそうだ。

 それから立ち上がって美咲にキスをする。不意打ちだったから、美咲はそのまま固まってしまう。時間にして約3秒。僕は唇を離した。

「・・・いってきます」

「いってらっしゃい・・・・」

 美咲は少し恥ずかしそうに顔をそらして言う。僕がじっと見つめているのに気づいたらしくて、顔を真っ赤にさせて僕を追い出そうとする。あいかわらずウブだ。

「早く行けー!」

「照れるなって。続きは家に帰ってからな」

「うるさい!っていうか、早く行け!マジで遅れるぞ!」

「やっべ!」

 いつもの日常。それが僕は好きだった。

これにておしどり夫婦へ2は終了です。


ここまでおつきあいしてくださってありがとうございました!


あと番外編を書いてこの話は終了です。


そういえば、文中におしどり夫婦という言葉が一言も

出てきませんでした。

あくまでそれを目指すという意味でとってください。

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