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第13話 新たな生活

 家に三田が遊びに来たのは、妊娠したとわかってからすぐのことだった。

「ここが愛の巣ねぇ・・・」

 まるで不倫でもしているかのような言い方で三田は室内を物色する。

「今日は美咲さんいないんだ?」

「ああ。友達んちに行くってさ」

 ふーんと興味なさそうに頷き、今度は僕の寝室を開けようとする。さすがにやばいと思って僕は三田の前に立ちふさがった。

「ここは!入るな!」

「へー・・・」

 どんな意味で捉えたのかは知らないが、あきらめてくれたようなのでひとまず良しとした。

 先日、子供ができたと三田に教えると、「よし!今度遊びに行く」という話になり、今に至る。三田が来るのは初めてだった。

「順調そうだな」

 ニヤっと笑って尋ねる三田。

「まぁね」

「彼女、昨日してくれたんだ」

「〜〜〜そうだよ。だから入んじゃねーぞ」

 やっぱり寝室に入ってほしくない理由に気づいているようだ。僕は決まり悪そうに冷蔵庫を開けた。

「いいねぇ。俺の彼女は完全受け身でマグロ状態だから、頼んでも絶対してくれないし」

「あれが好きな人なんていねーんじゃねーのー」

 男同士のスケベな会話が繰り広げられる。わかる人にしかわからないネタ。

 冷蔵庫に何もないとわかった僕は三田に向き直った。

「ごめん。今なんもないから、どっか食べ行こうぜ」

「おー」

 寒空の中、僕らは近所のラーメン屋に出かけた。


 たまには男同士で遊びに行くのも悪くないと思った。

 三田は就職の話とか、今つきあっている彼女の話をする。普段は聞けない情報だから、僕も興味深かった。

「孝介に子供ができたって知ったサークルの何も知らない女の子たちは、ショックがって最近顔出さないんだってよ」

「なんだそれ」

 僕は箸で麺を掴みながら笑う。

「1年の女子は知らないじゃん。密かにお前モテてたの知らんかったの?」

「ありえねー」

 三田がどこまで本気なのかはわからないが、それ以上この話題をしてくることはなかった。

「三田、今日バイトか?」

「ああ。もうすぐ。なぁ、今日は無理だけど今度飲みに行こうぜ。サークルの面々誘って」

「いいな、それ」

「よっしゃー決まり!じゃっ!バイトあっから」

 今思えば、三田は何しに来たのだろうか。まさかこれを言うためだけに来たわけじゃないだろう。

 ふと、テーブルの上に置いていった三田のお金を見た。

 2人分のラーメン代。まさかこれを懐妊祝いか出産祝いにするつもりじゃないだろうな・・・・・


 帰宅すると、マンションの下の郵便受けの近くで美咲を見かけた。

「あれ?もう戻ってたんだ」

 声をかけると、美咲がこっちを向いて笑顔になった。

 まだマタニティは着ていないが、意識してかワンピースを着ている。やっべ、かわいい・・と新婚どころか中学生の少年みたいな感想を抱いてしまった。

「うん。買い物行かなきゃなって思ってたから」

「じゃぁ、俺も行くよ」

 僕は美咲のバッグを持った。


 近所のスーパーへ行き、僕がカートを押して、美咲が商品をかごに入れていく。

 こういうのをやっていると、いつもより夫婦だと感じる。

 僕は生まれてくる赤ちゃんのことを考えた。美咲に似ればきっと端正な顔立ちの子になるだろう。僕に似たら・・・?

「美咲、俺ってブサイク?」

「はぁ?」

 いきなりなんだというような顔で美咲は振り返る。

「もし生まれてくる子供が俺に似たらどうなるかなぁって・・・」

「・・・・・孝介って自分がモテるって自覚がないんだな」

 それは美咲のほうなんじゃ・・・と思ったが、

「私に似たら、きっと性格ひねくれた子供になるよ」

「・・・・・・」

「そこ否定しろよ」

 むっと怒り出して1人で歩き出す美咲を追いかけた。

 ひねくれたというよりは・・・素直になれない人になるかもしれないと思いながら。




 そして、月日は流れていく。

 4月。僕は新入社員になっていた。

「葉山孝介です。よろしくお願いします」

 僕が入社したのは、保険会社だ。僕専用のデスクが与えられるのを見たときは正直感動した。

「さっそくだけど、これコピーしてきて」

 数枚の紙が束になった紙を渡されて、少し困った。まずコピー機の位置がわからない。目で必死になって探していると、

「コピー機はあれだよ」

 と、若そうな女の人が教えてくれた。

「ありがとうございます」

「やり方も教えてあげるね」

 優しそうな人だと感動した。何もわからない状態でいきなりコピーの役割を回されるなんて思ってもみなかったからだ。


「私、秋野知美っていうの。一応、葉山君より2年先輩だから、困ったことがあったらなんだって聞いてね」

「あ、ありがとうございます」

「これ、私のアドレスと番号」

 どこから取り出したのか、メモ帳に丁寧な字でアドレスと番号が書かれている。

「じゃぁ、後で送ってもいいですか」

「どうぞ」

 そのときは、ただ親切な人だなぁとしか考えなかった。


 コピーを終えてから席に戻ると、僕の隣に座っていた磯崎(いそざき)という30代くらいの男が、回転イスを移動させて僕のほうへ近づいてきた。

「今日から俺がお前の世話係りみたいなことをやるんでよろしく」

「はい!よろしくお願いします!」

「にしても、葉山、入社早々やっかいなのに気にいられたな」

「どういう意味ですか?」

 磯崎は内緒の話をするように手で口元を隠して囁く。

「さっきお前にコピー機の場所を教えた女にゃ気をつけろ。あいつはやべーぞ」

 意味深な言葉。僕は聞き返そうとしたが、すぐに磯崎は自分の席に戻ってしまったので結局聞くことができなかった。


 僕の社会人生活はこうして幕を開けた。

孝介と三田の会話なんですけど・・・

自由に考えてくれて大丈夫です。

本当にわかる人にしかわかりません。


そろそろ物語は終わります。

結末もぼんやりと考えています。うーん・・・・

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