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第11話 帰路

 全身の苦痛に耐えて目を開けると、美咲と真実の姿があった。

「孝介君、大丈夫!?」

 僕は上半身を起こしてみて、まだ全身が痛むが大丈夫だと伝えた。

「や、大丈夫・・・そういえば、多恵さんは?」

「大丈夫みたいだよ。今救急箱取りに行ってる」

 そのとき、美咲が何か難しいことを考えるような、そんな顔をして僕を見ているのがわかった。

「美咲、どうした?」

「なんでもない」

 たったそれだけ。美咲は僕を見ることなく、顔を背けてそう言った。


 結局右手首をひねっただけの軽症で済んだ。

 僕は部屋に戻り、腕を動かしながらその違和感に首を傾げた。ひねらなくても痛い。

 それから・・・あのとき、誰かにキスされたような・・・・・・

 がちゃっ

 ドアが開く音と共に僕は現実に引っ張り出された。驚いてそちらを見ると、美咲が仏頂面で入ってきた。僕は唐突に美咲が香水をつけていたことを思い出した。

「孝介・・・大丈夫?」

「うん。なんか最近こんなんばっかだな」

 美咲が僕の傍にすとんと座る。いい香りがした。

「なんで今日香水つけてんの?」

「真実さんにもらった。少しおしゃれしたほうが女らしくなるのかなって」

「そんなんしなくても・・・十分・・」

 かわいいと言いかけてやめた。さすがにそれは恥ずかしい。

 なんとなく照れくさくなって、慌てて言葉を探した。そうだ、昨日の男とのことについて聞いてみたいんだけど・・・束縛が強いって怒られるだろうか。そういや、さっき・・・・・

「・・・!」

 驚いた。

 唇に何かが当たったと考えたら、美咲がキスをしてきたからだ。突然のことに固まってボーゼンとしてしまった。

 それも一瞬で、美咲は顔の角度を変えてもう1度キスをしてきた。

 そして、我に返った僕は唇を離した美咲に自分からキスをしようと思ったとき、なぜか、この場面で、頭突きをしてきた。

 ごーーーん

 例えて言うならこんな音。何が響いたのか知らないが、涙が出そうになるくらい痛かった。

「なにすん・・・!」

「別れないからな」

「はぁ?」

「あんな理不尽な理由で別れないから!そりゃぁ大人の女のほうがいいだろうけど、私たち結婚してんだよ!?あれじゃぁ浮気だって言われてもおかしくないんだからな!」

 いや、待って。全く意味がわかんないんですけど。

 美咲は乱暴にドアを開けて、部屋から去っていった。


 僕らが北海道を後にしたのは翌日の午後だった。

 昨日の美咲の様子を不審に思ったが、あれから彼女は何も言ってこなかったので結局そのままになってしまった。

 空港まで真実と裕太の2人が見送りに来てくれた。

「またすぐに遊びに行くからね!」

「たまには遊びに来てくださいね!」

 2人して同じことを言っているような逆のことを言っているような微妙だったが、僕らは笑顔で見送られた。なんだかんだ言って、この2人には世話になったのだ。


 そして、僕にとって気になるのは、美咲が久しぶりに再会したと思われるあの男の存在だった。

「あの宮本って人には挨拶しなくてよかったの?」

 結構意地悪な質問だったが、何を怒っているのかわからず、逆にこっちもいい気分ではいられないのだ。

 しかし、美咲は少し困った顔をしてこくんと頷いただけだ。

「あの人、お前のこと好きだったと思う」

 お前と言ったのは初めてかもしれないと思った。意味不明だったが、今目の前にあの男(・・・)が見えてから、僕のテンションは下がり始めていた。


「昨日はごめん。でも後悔はしてないから」

 最初の一言はそれだった。宮本は本当に申し訳なさそうな顔をしていたが、後悔はないという話も本当だろう。その内容が気になるところだが。

「なんかあったの?」

 隣にいる美咲に尋ねたつもりだったが、答えたのは宮本だった。

「キスしようとしたんです」

 それを聞いた瞬間、僕は殴りかかろうとしてしまった。相手の胸倉を掴んで・・・・・美咲が僕の右腕をしっかりと掴んでいたからやめた。

 僕は乱暴に宮本を放した。

「殴られることを期待したんです・・・結婚相手のあなたに殴られたら諦めがつくかなって。昨日、美咲さんにはしっかりと拒絶されました。右ストレート1発です。それに、あなたが好きで好きでたまらないとも言われました。悔しいです・・・・・」

 宮本は少し微笑む。

「美咲さんを泣かせたら許しませんから」

「ハイ・・・・・」

 僕は目を丸くしながら答えた。とりあえず、美咲を泣かせないようにしようと誓った。


 宮本が去った後、僕は隣に座る美咲をちらりと見た。彼女は俯いていて、僕に顔を見せないようにしていることがわかった。

 僕は少し考えてから、彼女の髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でた。

「美咲が昨日言ってたのは、俺が多恵さんとキスしたことだろ?」

 その言葉に驚いて美咲が顔を上げる。

「ま、まさか・・・わざと知らないフリしてたのか!?」

「なわけないって。あのときは俺も体中痛くてやばかったから、全然考える余裕がなかったんだよ。後で考えて、なんかいつもと感触が違うよなって思った。で、あの場にいたのは多恵さんだけだった」

「そうだよ・・・・・多恵さんとどういう関係なんだよ・・・」

「なんもない。美人で優しい人だとは思うけど、なんであんなことしてきたのか正直わかんない」

 そこまで言って、僕は昨日美咲が別れないと言ったことを思い出した。

 そうか、理不尽な理由ってこれのことだったんだ。

「ごめん。美咲以外の人とキスしないって約束破っちゃったな」

「いいよ、もう。不可抗力だったし。だーけーど」

 そう言って、突然右手を振り上げたかと思うと、思いっきりデコピンをされた。ばちんといい音がしてほどほどに痛くなる。

「浮気だったら許さないから」

 僕は苦笑してこくんと頷いた。


 そういえば、家に帰ってきてからやることがいっぱいあることに気づいて急に現実に引き戻されてしまった。

 まずはたまった洗濯物。清水夫妻が来た日のままになっていて、部屋の片付けもしなければならない。

 そのときふと思った。あのうるさい夫妻がもう隣にはいないということに。

 まるで台風のような人たちだったが、僕らは彼らのことが好きだった。

「ちょっと静かになるかもな」

「そうだね」

 美咲の声も少し寂しそうだった。


 だが、静かな生活はそう長くは続かなかった。

 隣の部屋にはすぐに誰かが越してきたのだ。正確には、真実の知り合いの外国人らしく、家を引き払うことなくそのまま住みついていた。

 いかつい顔の外国人とその奥さんである日本人。典型的なカカア天下だ。

「ハニーちょっと待ってくれよ!愛してるよ」

「わかったから、ごみ捨ててきてよ!あぁぁ・・・またプラスチックと一緒にしてるー!今日は可燃ごみの日なのよ!分別の意味わかってるの?ジャック!!」

「もちろんだよ、ハニー」

 丸聞こえの会話。うるさい日常はまだ終わりそうにない。


 変わらずうるさい日常。少しずつ変わっていく日常。

 僕たちにも変化が訪れた。

あいかわらずありえないです。


もう少しだけ2人のバカっぷりにお付き合いください。

次回、ついに美咲に・・・・・?

さぁどうなるんでしょうか?笑

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