序
こびと
マテウス・フォン・コリン(訳・結城康世)
暗澹たる光の中にすでに山々は消え去った、
一隻の小舟が静かな海の上に浮かんで、
そこに王妃とこびとが乗っている。
彼女は高い天球を見上げる、
そこには光の織り込まれた青く遠い、
天のミルクが流れていた。
「まだそなたたちは私を欺いたことはない、星々よ、」
そう彼女は叫ぶ、「今私は消えてゆこうとしている、
そなたたちの予言通りに、でも私は喜んで死を受け入れましょう。」
そこへこびとが王妃に近付く、彼女の首を
紅い紐で絞めるために、
そして悲しみで目がつぶれんばかりに泣いていた。
彼はいう、「この苦しみはあなた自身の罪です、
王の為に私を捨てたのだから、
今やあなたの死だけがわが喜びなのです。」
「だが私は永遠に自らを呪うでしょう、
この手であなたに死を与えるのだから、
だがあなたは早くも墓に入らなければならないのです。」
彼女は若い生に満ち溢れた自らの胸に手を置いた、
その眼からは重い涙が流れていた、
そして祈るように天を仰いだ。
「我が死がそなたを苦しめませぬように!」
彼女は言う、そして小人は彼女の蒼ざめた頬に口づけする、
そうするとあっという間に彼女の意識は遠ざかる。
こびとは死に捕らわれたその女性を見る、
彼は自らの手で彼女を深い海へと沈める。
彼の胸は彼女への想いに激しく燃えていた。
もう彼がどこかの岸に着くことはない。