7章
自分で言うのもなんだが、私は天才に分類されるであろう。
あぁ、別にマナ運用に限った話をしているわけではない。
前世では私は性格にこそ難があったが頭脳明晰、スポーツ万能、となかなかのものであった。
私がこうなれたのは単純に、飲み込みが早く要領が良いからであろう。
一日も同じことを学習すればもうそれだけで、流石にその道の人間に敵うわけではないが人並以上の結果を残す事ができる。
正確に一癖も二癖もあった私が曲がりなりにも社会に出られたことは偏にこの才能のおかげであろう。
もちろん、その才能は健在であって。
醜い緑色の巨体の首に目掛けて、私はマナで作り出した剣を振りぬいた。
すると巨体から首がコロリと転げ落ち、途端に噴水のように血が飛び出す。
その噴出した血を横に飛び退くことによって回避する。返り血をもろに被るとどうなってしまうかは痛いほど知っている。
やがて、その巨体が地に伏すと同時にぱち、ぱち、ぱちと拍手が鳴る。
「おぉ、見事じゃ。たった三ヶ月稽古をつけてやっただけでもうオークを倒せる程になるとはのぉ。」
三ヶ月。
私たちメイズ一行がメイズ宅に到着してから、三ヶ月が経った。
メイズ宅へ向かう二ヶ月間の旅は、途中賊に襲われる、魔物と遭遇するなどの多少のトラブルはあったが、特に損害も無く全員無事にシセロ宅へ辿り着くことが出来た。
そして、この三ヶ月間私たちメイズの弟子は宣言通り、メイズによる戦闘の手ほどきを受けていた。
「ありがとうございます、師匠。」
「ほっほっほ。お主の才能には驚かされるばかりじゃ。お主には魔法しか教えるつもりはなかったのじゃがのぅ。面白いくらいの上達っぷりに思わず詰め込みたくなってしまうわい。」
オークという魔物は、正規兵の前衛でも三対一で勝てるかどうか、といったものだ。
なにせ人間の三倍ほどの筋力を持ち、爆発的な瞬発力と耐久力を備えている。前衛にとっては悪夢のような存在であろう。しかし、知性はあまり高くはなく簡単な打撃武器しか扱えないため、弓兵や魔術師からするとただ突っ込んでくるだけの的である。
「では、今日の稽古は終わりじゃ。グレゴ達も待ちくたびれているじゃろう。帰るぞ。」
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トントントン、と食材を切る小気味よい音が部屋に響く。
台所に立つ少女の包丁捌きは手馴れた物で、様々な具材を手際よく切り分けている。
具材を切り終われば今度は切った肉炒めて火を通す。
肉を炒めた後は他の具材ごとまとめて鍋に入れ、様々な調味料やミルクを入れて火にか煮込む。
煮込んでいる最中にもあくを取る事をわすれず、数十分は経っただろうか。少女は鍋の中のソレをを小皿に少し掬い取り、味見をする。
少女はそのブルーバイオレットの瞳を閉じ、ふむ、と満足げに頷いた。
そうだ。台所の少女とは私、シセロの事だ。
何故私が料理をしているのか?その理由は三ヶ月前に遡る。
ここメイズ宅で集団生活を送るにあたってまず問題になったこととは、家事である。
てっきり私は何人も弟子をとっていると思っていたのだが、驚くことにメイズが弟子をとったのはこれが初めてであるらしく、師弟生活を送るための設備こそ備わってはいるが役割分担がまるでできてなかったのである。
挙句の果てにはメイズ自ら儂が全部やる、などと言いだしたのだ。
流石に師匠にそんな事をさせるわけにはいかないためその場は私が仕切り、私が料理、サミュエルが洗濯、グレゴが掃除、といった分担になったのである。
しかしながら彼らは家事能力が壊滅的であり、、洗濯物は畳み終わる頃にはすでに汚れている、掃除をしているのに物を壊し余計に散らかす等、気が付いたら耐え切れなくなった私が家事すべてやっていたのである。
おかげで女子力絶賛うなぎ登り中だ。
「シセロ姉、晩ご飯出来た?」
そう尻尾を振りながら催促してきたのはサミュエルだ。
私は彼ともかなり打ち明けただろう。最初はこちらを怯えていたのかまともに話せる状態ではなかったが、今ではまるで姉のように慕われている。
「あぁ。ちょうど今出来たぞ。今日は鶏肉のシチューだ。」
シチュー。前世ではスーパーへ行けば固形の物が販売されており誰でも簡単に作れるようなものであったが、こちらではそうはいかない。
おそらく一番手間がかかるのはブイヨンで、ブイヨンを抽出するには丸一日と煮込む必要があり、なかなか時間がかかる。
しかし手間はかかったが納得のいく味が出せて私は満足だ
「さて、食事にするぞ。運ぶのを手伝ってくれ。」
私はサミュエルと共に料理を持ち、台所を出た。