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For the Honor  作者: 阿藤
第一章
7/12

6話

 ここはダントーレにある宿の一室。

 そこで、一人の獣人の少年が目を覚ます。


 「ん・・・」


目を開けると、一人の少年の顔が飛び込んでくる。肌は浅黒く、短く切られた銀髪に赤い瞳を持った少年だ。

 目が合うと少年は、


 「師匠!目を覚ましましたよ!」


 と叫んだ。すると少年の後ろからエルフの老人と少女が近付いてくる。

 老人の顔には大きな裂傷があり、顎は砕かれてしまったのか歪な形をしている。

 その隣の少女は、中性的な顔立ちをしており、エルフには珍しい黒髪を後ろで一つに纏めている。


 そう、ここはダントーレにある宿の一室、メイズ一行が借り入れた部屋だ。


--------------------------------------------------------------



 「お主も落ち着いてきた頃じゃろう。少し話を聞くぞ。」


 そうしゃがれた声で少年に語りかけるのは仮面を外したメイズだ。

 出合った時は地の底から響くような低い声であったが、どうやらあの仮面には変声機能があるようだ。

 そう。私は今日始めてメイズの素顔を見たのである。

 メイズの顔には数々の傷があり、見てくれはかなり酷い事になっている。これなら仮面を被るのも納得だ。


 「まずは名前からじゃ。お主、名はなんと言う?」

 「・・・サミュエル」

 「そうか、サミュエルか。家族はいるか?」

 「・・・いない」

 「そうか。しかしまぁ、お主を見ていると・・・」


 そういうとメイズはグレゴを見て


 「一昔前のグレゴを思い出すな!」


 そう言ってメイズはワッハッハ、と愉快げに笑った。


 「し、師匠!?どういう意味ですか!?」

 「いやぁ、だってお主も儂に弟子入りした時はこんな感じじゃっただろう?」


 メイズは再びサミュエルに向き直り、


 「サミュエルよ、このグレゴという少年もな、昔はここの路地裏でスリを働いていたんじゃよ。その時儂はこいつに財布を盗られてしまってなぁ・・・」


 メイズは懐かしむように遠い目をした。

 

 「まぁ何はともあれ、どうせ行く当てなど無いのだろう?ならお主は今日から儂の弟子じゃ。付いて来るがいいさ。」


 そう言い残してメイズは部屋から出て行ってしまった。グレゴもその後を付いて行く。

 ・・・どうやらこの老人には身寄りの無い子供を見つけるとすぐ自分の弟子にする悪癖があるらしい。サミュエルという少年もあまりにもの急展開っぷりに完全に思考がフリーズしてしまっているのだろう。

 ここは一つ、私がフォローしてやらねば。


 「・・・まぁ、なんだ。彼は相当な物好きではあるが腕は立つし、学もある。付いて行って損は無いと思うぞ。」

 「・・・え?あぁ、う、うん・・・」


 あまりフォローになっている気がしないがまぁ、仕方無いだろう。

 

 「さて、食事の時間だ。下に下りるぞ」


 そう言って私はこの話題から逃げるように、サミュエルを連れ食事をすべくメイズ達の後を追った。


--------------------------------------------------------------


「・・・とまぁ、弟子も増えたし、稽古もつけてやりたい。旅を中断して家に帰るぞ。」

 

 私たちメイズ一行は宿の一室で今後の方針についてメイズからの話を聞いていた。

 どうやら本格的に師弟生活を始めるべく、環境の整ったメイズ宅へと戻るらしい。

 話によるとメイズ宅は山奥にあるらしく、ここから約二ヶ月ほどの距離があるそうだ。

 二ヶ月ほどの距離、か。一体どれほどの距離があるのだろうか。自動車も飛行機も無いこの世界では、長距離の移動は馬を使うのが一般的だ。

 生活は魔法のおかげで不自由は無かったが、移動に関しては少々不便である。前世では、たとえ地球の裏側へ行こうとも二日かからなかったものだ。


 今後の方針が決まり明日にも出発しよう、となり私とグレゴは部屋を出た。

 そう、この部屋は二人部屋なのだ。部屋割りはメイズとサミュエル、私とグレゴ、となっている。

 メイズもサミュエルからいろいろと話したい事があるのだろう。まぁ、私も少しグレゴと話がしたいし、好都合ではあるか。

 私達は割り当てられた部屋に入り、早速ベッドに身を投げた。

 あぁ、ふかふかのベッドなんて、何年ぶりだろうか。


 「なぁ、グレゴ。今日のアレ、凄かったな。師匠に教わったのか?」


 私は人を投げるようなジェスチャーをしながらそう言った。


 「あぁ、そうだ。師匠の戦い方は少し変わってるんだ。師匠は武器を必要な時だけマナを使って作り出し、格闘術を織り交ぜながら戦うんだ。」


 そう言ってグレゴはマナを使って輪郭のぼやけた、半透明な短剣を作り出した。

 なるほど、これは便利だ。武器を持ち歩く必要も無いし、手入れもいらない。

戦闘中に邪魔になればすぐにでも投げ出せるし、再び必要になれば作り直せばよい。


 「それよりお前だって凄いじゃないか。回復魔法、使えたんだな。」

 「あ、あぁ。昔、いろいろとあって、な・・・」


 そう、回復魔法。全身に打撲と擦り傷があったサミュエルを治療したのは私だったのだ。

 私は村人に殺されかけた時や、狩りの際にたびたび怪我を負うことがあった。その傷を癒すために回復魔法を多用していたため、軽症であれば簡単に癒す事ができるほどの実力を私は身につけていた。したがって、あの程度の傷であれば癒す事は造作も無い。

 しかしまぁ、なんだ。自分のことについて聞かれると少し言葉に詰まる。自分で話題を振っておいてなんだが、とっとと切り上げてしまおう。


 「・・・明日は早い。 私はもう寝る。」


 そう言って、私は瞼を閉じた。

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