3話
エルフとは、優秀な種族である。
長寿であり、五感に優れ、マナ運用の適正が高く、自然との共存性が高い。
デメリットとしてはやや非力であることだが、身体能力など魔法でどうにでもなる。
それほどに、優遇された種族なのだ。
故に、人材としての価値が高いが、コストもかかる。
そう、人材としてのコストが高いのだ。プライドの高い種族であるが故に、他種族の下で働きたいという者が少ないため希少価値が高く、雇うには莫大な費用がかかる。
正直、費用対効果は微妙な所であろう。
ならば、”生き物”としてならどうだろうか。
値は張るが、一度購入してしまえば絶対服従させられる上に、数千年使える。
まぁ、奴隷になる側としては数千年の生き地獄を味わうことになるが。
そういった発想から、エルフの奴隷は大人気である。
では、そのエルフ奴隷はどうやって調達するのか。
交配によって繁殖させるにも、エルフの繁殖能力は低い。ストレスの影響もあり、出産率は絶望的であろう。
貧しいエルフから買い取ることもほぼ不可能だろう。彼らだってエルフだ、プライドが高いのは変わらない。なにより、貧しいエルフは多種族の前には出れない。
村を出られるほどの経済力が無いのだから。
ならばあとは消去法で、攫って行くのが残る。
いくらマナ運用の適正が高いとはいえ、数人の戦士に囲まれればなにもできないだろう。
エルフという種族は国を持たず、小規模なコミュニティで完結しているため外交に配慮する必要も無く、国家主体で人攫いをするパターンが多い。
やりすぎて同胞の怒りを買い、滅ぼされた国もいくつかあるが。
そして今、まさにその現場があった。
村は焼かれ、そこらじゅうから怒声や悲鳴が聞こえる。
村の者も抵抗したのであろう、他種族の死体はいくつか転がっているが、エルフの死体は見えない。
また、人攫い達はマナを封じる為の枷のような物を携行していたり、統率も取れていたりと、やはりその道のプロなのであろう。
そんな中、一人の人攫いがこちらに気付き、
「おい、あそこにまだ一匹ガキが残ってるぞ!三班、てめぇらの担当範囲だろ!索敵もできねぇのかぁ!?」
同僚を叱責しながら何人かを率いてこちらに向かってくる人攫い。
そこで私は自分の置かれている状況を思い出した。
ここで捕まってしまったらどうなってしまうのか。考えたくも無い。
私には戦える力があるが、戦闘経験に関してはほぼゼロだ。戦慣れしている人間には通用しない可能性もあるだろう。ならば、ここは逃げるが得策。私は森へと走りだした。
私にとって有利な場所である森であれば逃げ切ることができるだろう、と考えたからだ。
しかし、それは間違いであった。彼らはエルフ狩りのプロである。森での戦闘も想定していたのであろう。
どれだけ深い茂みを抜けようと追手の足は止まらず、ついには腕を取られてしまった。
「はぁ・・・ったく、ガキが・・・手こずらせやがってぇ・・・!」
人攫いは息を乱しながら私の腕に拘束具を取り付けようとしてくる。
「やめっ・・・!離せ!はなせぇっ!」
そう言って私は風の刃を飛ばして人攫いの首を刎ねた。
瞬間、残りの人攫い達の表情がガラリと変わり、武器に手をかけた。
私は首を刎ねた人攫いの返り血で視界が埋め尽くされ、バランスを崩し倒れてしまった。
武器に手をかけたということは私に戦闘能力があることを知り、最悪の場合は殺害する事を視野に入れたのだろう。下手に抵抗すれば殺される。
しかし、逃げようとも返り血を顔に浴びたせいで周りは見えず、倒れこんできた人攫いの体の重量のせいで身動きはとれず。
あぁ、なんてことだ。選択を間違えた。近付かれる前に殺しておけばよかった。
ここで戦闘経験の少なさが仇となった。熟練の戦士であれば相手の首を刎ねようとも返り血を浴びることは無いが、そんな体捌きを私が持っているはずがない。
どう転んでも私は助からない。捕まり生き地獄を味わせられるか殺されるかの二択だろう。
そんな中、人攫いのものではない、新しい足音が聞こえた。
途端に人攫い達の怒声や悲鳴が聞こえ、やがてはドタリ、ドタリと人が倒れる音が聞こえた。
私は何が起きたのかと思い身を起こし、目を擦り視界を確保した。
そして私の視界に入ったものは、人攫い達の死体と、そこに佇む仮面の男であった。
それが、私と師の出会いであった。