1話
魂というモノは本当に存在するのだろう。
私は人気の無い、静かな道を歩きながらそう思った。
自ら生涯を閉じる前にもしも来世があったらなどと思いはしたが、所詮人間の意識は脳の電気信号であり、それが止まればもうそこで終わりなのだろうと私は思っていた。
しかし、魂という概念が存在しなければ、今の状況に説明がつかないのだ。
なぜなら”私”は再びこの世に生を受けたからだ。
・・・そう、”私”なのだ。
どういうわけか、私は前世の記憶を持ったまま”エルフの女性”としてこの世界に生を受けたのだ。
とはいえ、性別に関してはそこまで不満はない。前世の”俺”は死に、いまここにいるのは”私”なのだ。
容姿が違うほうが割り切りやすい。
エルフであることについては、むしろ好都合だと思っている。
長寿であり、五感が優れ、前世では無かった”マナ”というエネルギーの運用に長けている。
マナ運用の適正は先天性が強く、才能による差が大きい。
まさに人類の理想的な種族ではないか。
問題は前世の記憶がある、ということだ。
輪廻転生が存在するとしても、前世の記憶が残る事はないだろう。
もしそうでないとしたら、世の中は大いに混乱するだろう。いや、もしかしたらただ単純に皆気付いていないだけか?
まぁ、真相がどうであれ、生活に支障はないだろう。問題を起こさないために、この事は墓まで持っていくとしよう。
そうとなれば私のするべきことは一つ。
前世ではできなかった恩人に恩を返すということだ。まずは私を産んでくれた母に親孝行をしようとでも思ったのだが・・・
古ぼけた小屋の前で、私の足が止まる。
村はずれの森にあるこの小屋は村の中心から歩いて二時間といった距離があり、周りに他の建造物は一切無い。この村から隔離されているような場所が私の家である。
・・・なぜ、こんな場所に住んでいるかって?
それはずばり、私が村人から化け物として恐れられる忌み子だからである。
どうやら私はマナの適正が群を抜いて異常に高いらしく、生まれた直後はその異常性に多少危険視はされたが、大多数からは神童として好意的な印象を持たれていた。
しかし、前世の記憶を持っていたがために生まれた頃から完成した人格を持っていた私は両親から読み書きを教わった後に、自宅にあったマナ運用についての書物を読み漁った。
そう、「魔法」という物を試してみたかったのである。
前世では空想の中でしか実現されなかった、何も無い空間から炎や電気を作り出すテクノロジー。私の興味はその未知のテクノロジーに釘付けであった。
はやく試してみたいという一心で、私は魔法を発動するだけの大まかな内容を把握しただけでマナの制御には一切触れずに実践に移してしまった。
するとどうだろう。風の刃を作り出すために捻出した調整もなにもされなかったマナはどんどん流れ出し、暴走を始めてしまった。私のマナ適正は少なくとも少数の村人から危険視されるほどの物である。
村の人間が総出で流し込んでもまだ足りない程のマナは今にも破裂し爆発してしまいそうになり、このままでは私どころか村ごと消し飛んでしまうと悟った私はそのマナを近くに見えた山へと放った。
その結果・・・まぁ、なんだ。山一つ吹き飛ばしてしまったよ。
私を危険視していた村人たちは、これを機に他の村人たちを説得し、私を排除しようとした。
排除といっても追放などではなく、殺害だ。生かしておくだけでも害、と見たのだろう。
もちろん私には大人しく殺される気も無く、ひたすら襲い掛かる村人から逃げていた。
しかし他人に殺意を向けらることに慣れていなかった私は冷静さを失っており、脚を浅く切られた拍子にとうとう、村人を一人殺めてしまう。
それを皮切りに私は攻撃に転じ、一人、また一人と村人を殺めていった。
とうとう逃亡を始める者も出始め、村の長である長老が私に「もうやめてくれ、二度とお前に危害を加えはしない。だから頼む、儂らには関わらないでくれ。」と懇願されてしまったのである。
こうして私は村を追い出され、たまたま見つけたこの古ぼけた小屋に住み着いたのである。
こうなってしまえば隣人であろうが家族であろうが、私を殺しにかかった者に返す恩など無い。目的を失ってしまった私はどうしたものか、と唸りながらも数年間この古ぼけた小屋で独り、暮らしたのであった。