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第3話 ゼウスさん率いる騎士団

「お、エデン。今までどこに行ってたんだ?」


 ぼくは、イヴちゃんに連れられて城の前に来ていた。

 そこには十人くらいの人だかりがあり、みんながみんな同じような甲冑を着ている。

 この人たちが『騎士団』の人たちなのだろう。


「まさかプレッシャーに負けたなんてことはないよな? ははっ」


 快活に笑い飛ばしたのは、ハゲたオッサンだった。

 身長が高くて、体格がいい。肌の色も褐色である。

 なんだか妙に馴れ馴れしい。

 ここに来るなりいきなり話しかけてきたし。


「え、ええと」

「うん? どうした?」

「あなた誰ですっけ?」

「は?」


 とりあえずハゲたオッサンの名前を訊こう……というかここにいる人たちの名前を知るところからはじめよう、とぼくは思った。

 かなり不自然に思われるかもしれないが、記憶喪失したという設定でも装っておこうか。


「え、エデン様! あなたなんてことを!?」

「へ? どうしたの?」


 後ろに控えているイヴちゃんが慌てていた。

 ぼくがオッサンの名前を訊いたからだろうか?

 ……どうして?

 そんなふうに慌てられると、ぼくまで不安になってくるのだが。


「いやいや。いいよ――はは、噂には聞いてたがほんとうにこういう奴なんだな、エデン」

「は、はぁ……」


 オッサンは陽気に笑い飛ばした。

 噂。

 確か、寝ぼすけキャラで通ってるんだっけ……?


「俺の名はゼウスだ。まったく人の名前を忘れるなんて、勘弁してくれよ」

「ああ。そうでしたゼウスさんでした。すみません」

「もう、エデン様は……」

「それで、えっと、ゼウスさんはどういう立場の人なんですっけ? ぼくより上司なんですか?」

「え、エデン様!?」


 話しぶりからすると、このゼウスさんは上司だと思う。

 なんとなくだけど、そんな気がする。

 というわけで訊いてみたわけだが、後ろのイヴちゃんがまたも慌てていた。

 ……なんだか可愛い。こうして慌てさせてみるのも面白いかもしれないな。

 ゼウスさんは、今度は一瞬言葉を失ったように驚いて、それからまた快活に笑いだした。


「ふ、ふ……はははははははっ! エデン! お前ってやつはほんとうに面白いやつだなっ!」

「?」

「団長だよ! 団・長! リーダーのことくらい覚えてろよっ!」

「ああ。そうでした。団長でした」


 団長か。

 ということはここにいる人の中でもっとも偉い人のわけだ。

 ふーむ。偉い人――なるほど、偉い人に不遜な態度をとっているから、イヴちゃんが慌てていたわけだ。

 まあ、でもイヴちゃんの思っているほど慌てる事態ってわけでもないだろう。話しているうちにわかったけど、このゼウスさんはきっといい人だ。年下の失礼を許してくれるタイプの人だ。


「期待のルーキーさんよぉ。そんなことじゃあこの先の戦いで命を落としちまうかもしれないぜ?」

「へ?」


 この先の戦い?

 え? ぼく、戦うの?

 えー。

 ちょっと……。嫌だなぁ、っていうか、実戦経験がないからすっごい不安なんだけど。

 というかぜったい死ぬって。

 やばい。やばいよ。


「そうですね。この先に戦いがあるんですから、気を引き締めないと」

「おう! その意気だ!」


 しかしぼくは不安を口に出さず、ゼウスさんを喜ばせるためにやる気をアピールした。

 たぶん嫌だといって引き下がれる状況でもないんだろう。わからないけど、そんな雰囲気がする。


 しかし戦い? 戦いか。

 十人くらいの人だかり――数えてみて、十一人。ぼくとイヴちゃんを含めると十三人だ。

 十三人で戦うっていうと……まさか戦争ってわけじゃないよね。戦争ならこんな少人数なわけがない。

 じゃあ、なんだろう?

 知ろう。


「で、えっと、戦いってなんですっけ?」

「…………」


 ゼウスさんは、突然うんざりしたような顔をした。

 あ、やば。

 もしかして怒らせたのかな。

 怒られるのは嫌だ。怖い。


「まあ、今からそこに行くわけだから、ついてこいよ」

「え? はい」


 今から行くのか。

 ああ。みんなが待っていたってイヴちゃんが言っていたっけ。つまりぼくが来たらもう行くってことだったのか。


「そうですね。だからそこがどこかを教えてほしいんですけど」

「……あ?」

「えっと、だから、今からいく場所がどこかっていうのを教えてほしいんです」

「…………」


 ゼウスさんは固まった。

 あれ? どうしてだろう。

 どこへ行くのかを教えてくれる話の流れのはずなんだけど。

 ぼくは、ゼウスさんの次の言葉を待つ。

 ゼウスさんは、しばしの沈黙ののちやがて口を開いた。


「……ほんっとに覚えてないのか?」

「ああ。はい。実はちょっと記憶喪失ぎみでして」

「記憶喪失ぅ?」


 ぼくはここで記憶喪失という嘘設定を出した。


「記憶喪失って、お前なぁ……」


 はぁー、とゼウスさんは大きく溜息を吐いた。

 うーん。もしかして嘘っぽすぎたのだろうか。でもじっさい記憶喪失みたいなものだし、まったくの嘘ということにはならないだろう。

 ゼウスさんは、背中を向けた。


「まあ、もう話してる暇はない。とにかくついてこい」

「え?」


 強引に話を打ち切ろうとしたゼウスさんに、ぼくは食いつく。


「え? いやいや。待ってくださいよ。教えてくださいって」

「ちょ……え、エデン様ってば……」

「今からどこへ行くのかを教えてくれないと、ぼくとしても不安なんですけど」

「あのなぁ……」


 ゼウスさんは首だけ振り向かせる。


「お前もうちょっと危機感をもて」


 それだけ言うと、ゼウスさんは歩いて、騎士団の輪の中に入っていった。

 ぼくは。

 ぼくは……なんというか、怖い気持ちがした。

 むき出しの傷口を引っかかれたかのような、そんな怖い感覚がした。

 あ。顔が熱い。赤面してるのか、ぼく。


「んん……」


 ぼくは、すっかりテンションが下がってしまった。いや元からそんな高くなかったけど、ゼウスさんに冷たくされてひどく落ち込んだ。

 戦いかぁ……。どこへいくのかは教えてもらえなかったけど(なぜ?)、すっごく行きたくないなぁ……。不安だ。


 後ろからイヴちゃんが回り込んできて、ぼくの顔を覗き込む。


「エデン様……。頼みますから、ほんとうにもうちょっと危機感を持ってください」

「ごめん」

「あの方に対する口の利き方ももうちょっと気をつけたほうがいいですよ……」

「え? けっこう優しそうだったけど」

「…………」


 あ。

 イヴちゃんの目が、バカを見る目になった。


「エデン様。もうわたしの傍にいといてください。怖くて怖くてほっとけません」

「うーん、そうだね。ぼくもわからないことだらけで不安だし」


 イヴちゃんはどうやらかなりぼくの味方をしてくれるらしい。

 ああ。そうか。この子、ぼくに惚れてるっぽいんだっけ? だから味方をしてくれるんだ。

 なんだ、いい子じゃないか。キツそうとか思ってごめん。

 感謝しとかないと。


「ありがとうイヴちゃん。頼りにするよ。ぼくはイヴちゃんがいないと何もできない男だ。もう一生イヴちゃんについていくことにするよ」

「は、はぁ?」


 イヴちゃんは慌てた。ただし先程までの慌てと違って、今回のはちょっと嬉し混じりだ。


「そんな頼りないこといっちゃダメですよ? 男の人なんだからもっとシャキっとしないと」

「えぇ。でもイヴちゃんがいないとほんとうにぼくダメだし」


 いろいろと情報量が少なすぎる……というか情報量が0で始まっているのだ。イヴちゃんにはぜひともぼくの表に立って、秘書的な役割をしてもらいたい。

 でないと誰を怒らせるかわかったもんじゃない。

 怒らせるのは、嫌だ。

 怒られるのは、怖い。


「もう、しょうがないですね……」


 イヴちゃんは腕を組んで、照れくさそうにする。


「じゃあ今回の件でだけ、わたしが先導をさせてもらいます。いいですね」

「うん。お願い」

「しょうがないですねぇ……///」


 やたら嬉しそうだった。

 完全にぼくに惚れてるな、こりゃ。

 チョロそうだ。


「で、イヴちゃん。ぼくたちはこれからどこへ行くの?」

「ヴァルハラですよ」

「ヴァルハラって?」

「もう、そんなことも知らないなんてダメですねぇ。ヴァルハラっていったら、この町にある闘技場のことじゃないですか」

「闘技場……。ああ、戦いって、それのことか」


 なるほど。

 じゃあこの騎士団は、今から闘技場にいって戦いに行くわけだ。


「でも、どうして闘技場なんかにいくの? 騎士団ってそういうことをするものなの?」

「ふだんはしないんですけど……。今回はちょっと大変な事態が起きましたから」

「大変な事態?」

「ルシファーですよ」

「え? ルシファー?」


 なんだろう。人の名前かな。


「ルシファーが国王に宣戦布告をしまして……そこで話がこじれて、というか揉め事があって、わたし達が矢面に立つことになったんです」

「えー。そうなの?」

「騎士団ですからね。国王の下にある立場ですから、こういうこともあります」

「そっかぁ」


 政治家みたいなもんなんだな。


「じゃあこの戦いで勝たないと、ちょっと国王に怒られちゃうんだ?」

「いやちょっとでは済まないと思いますよ」

「そっかぁ……」


 怒られるのかぁ。

 しかも国王から……うわぁ、考えただけでお腹が痛くなってきた。

 どうにかしてぼくだけ休めないかな。

 もう帰りたい。

 どこへ帰ればいいのかわからないけど。


「まあ、しょうがないか」


 ここで逃げてもどうせ怒られちゃうだろうし。

 それに戦うっていったって、闘技場での話なら命の危機はないだろう――ゼウスさんの言っていた「命を落としちまうかもしれない」というのは、冗談の類だったようだ。

 やれやれ。冗談とわからない冗談は言わないでほしいものだ。

 あの人はちょっと笑いのセンスがない人だな、とぼくは思った。


「みんな! 行くぞぉ!」

「「おー!」」


「ん?」


 ぼくとイヴちゃんが話し込んでいる前方で、ゼウスさんとその仲間たち(騎士団の人たち)がにぎやかになっていた。

 どうやらそろそろヴァルハラというというところに行くらしい。


「そろそろ行くみたいだね」

「そうですね――エデン様、くれぐれもわたしから離れないでくださいね?」

「わかってるって。あ、そうだ。じゃあ、手を繋ぐ?」

「へ……?」

「そういえばさっきは手を繋げなかったよね。でもはぐれるの嫌だし、手を繋いでてくれない?」

「は、は……///」


 は?


「はぁぁぁ……/// もぉぉ、しょうがないですねぇぇぇ……///」

「うん。よろしく」


 デレッデレだな。

 どんだけぼくのことを好きなんだろう。

 しよ、って言ったら、股を開いてくれるのかな?


 そんなこんながあったところで、ぼくはゼウスさんについていき、闘技場・ヴァルハラへ向かっていった。みんなの名前を訊くのはもう少し後にしてからにしよう。

 ヴァルハラへ向かう途中、イヴちゃんとは手を繋ぎっぱなしだった。他の団員からの目はちょっと痛かったけど、イヴちゃんが嬉しそうだったから気にしないことにした。

 イヴちゃんは終始嬉しそうだった。


 ――ゼウスさんがぼくのことを「期待のルーキーさん」と呼んでいたことを思い出したのは、ヴァルハラについたころのことだった。

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