第一話:始まり
「お兄ちゃん……」
「なんだ」
「どこにもいかない」
「ああ。いかない」
頬に涙を伝わせながら俺を見ないでくれよ。
「お兄ちゃん」
「なんだ」
「手を握って」
「分かかった」
茜、お前の手はこんなに冷たくなってしまって。
「お兄ちゃん」
「なんだ」
「一緒にいて」
「ああ、いるさ」
お前がどうなっても俺はお前といるさ。
「お兄ちゃん」
「なんだ」
「ありがとう」
「ああ」
こちらこそありがとう。
「つうっ……!」
頭部に走る痛み。右手で撫でてはみるが血は出ていないようだ。確かに殴られた痛みというよりはひどい頭痛のような痛みだ。
「なんなんだ……」
ここは――俺の部屋か。乱雑に積まれた本に壁に立てかけたベース。
どうして俺はここにいる? いや、俺の部屋なのだからいて当たり前なのだが、どうしてここにいるのかが分からない。
「…………」
思い出せない。
昨日のことだけじゃない。今までのこと全部が分からない。
――自分の名前さえ分からない。
「それは契約時の際に起きた禁忌症状よ」
「誰だ」
声のほうを向くとそこには薄い青色の肌色の少女がいた。ベッドの上に植わっており、背は壁に寄り掛かるようにしている。
「おはよう主」
「誰なんだ」
「誰って。本当はあなたは分かっているはずよ」
「わから分からないから聞いているんだ」
「私はあなたの分身であり、そしてあなたと契約した者。
とりあえず私の話を聞いて。
今頭痛や耳鳴りは?」
「ああ。する」
「記憶は? 昨日のころや今までのこと」
「……分からない」
「でもここがどこかは?」
「……分かる」
確かに不思議だ。なぜ俺は自分の名前さえろくにわかっていない状況なのにここが俺の部屋だとわかっている?
「恐らくアムネシアね。契約した際に起きる禁忌症状の一種よ。記憶が恐らく全部喪失しているのだけれども、この部屋の風景を見て局所的に戻ってきているのね。だからあなたはこの部屋のことだけは記憶があるはずよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「ということはもしかしたら他にもあなたにかかわりのある場所に行けば記憶が戻るかもしれないわね」
「待ってくれ」
「なに?」
「だから君は誰なんだ」
「あら、まだとぼけるの?」
「とぼけるもなにも俺は君を知らない」
少女は少ししかめっ面をした後に呟いた。
「もしかして私を見ても私の記憶は戻ってないのかしら。
私はの名はベルカーダ。貴方が契約を交わした者」
「何の契約?」
「ネクリスよ。主」
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