第8話 赤
第8話 赤
騒がしい音で、目が覚めた。
それに混じって、悲鳴に聞こえる音も聞こえた。
それは、外れではなかった。
「やっと起きましたか」
魔女の声。
穏やかな声ではなく、鋭く真剣そのものの声だった。
勇者が尋ねる。
返ってきた答えは、勇者の顔色を変えるものだった。
「実は、今から行く町が何者に襲われているようで」
「何!?」
「爆発音が聞こえますね? それにつぶれて聞き取りづらいけど、悲鳴も……」
「爆発音……ってまさか」
その言葉に魔女がうなずく。
「おそらく、悪たちの仕業」
「……ちくしょう!」
「助けに――」
「当たり前だ!」
勇者が毛布を放る。
魔女がそれを見て少し迷うも、そのまま勇者の後につづいた。
全力で走る勇者を、やや遅れて魔女が追っていた。
進むにつれ、爆音が聞こえた。
悲鳴もかすかに。
しかし、多くは聞こえなかった。
小さな町だから人口が少ないだけなのか。
それとも……。
勇者は走りながら、首を左右に思いっきりふる。
町の姿が遠くに見えた。
黒に近い灰色の煙。
それがいくつもいくつも天にのぼる。
勇者の握られたこぶしが、さらに強くなる。
魔女の表情が、しかめたものになる。
勇者が一足先に町へとついた。
見たもの。
それは、倒れている人々だった。
散らばる赤。
変色した赤は、いたるところに広がっていた。
勇者は、わずかな冷静さを保ちつつ剣を握り、ゆっくりと心を落ち着けながらぬいた。
銀が姿をあらわす。
息をしている者を探すが、見つからない。
泣きそうな顔を、無理やり元にもどす。
呼吸があらく、千切れそうな理性。
あまり足音を立てず、やみくもに歩いていた。
爆音が突然止んだ。
一気に無音が耳へと叩くように侵入する。
小さな小さな短い悲鳴が、ひどく目立った。
すぐ近くだと頭がはじきだし、そちらへと向かった。
道を曲がった先に見たもの。
それは、自分の腰あたりまでしか身長がない、ずいぶん幼い子だった。
目の前で死体と変わった。
ぶち切れた。
勇者は目を見開き、のどをつぶしそうな叫び声を撒き散らした。
相手も剣を構える。
が、突然相手の顔がゆがんだ。
光。
剣から光を発していた。
勇者の、綺麗な銀の剣から、美しく美しく。
その光は相手を飲み込み、なぎはらった。
その広がる異常な光を見て、仲間がやってきた。
誰もが、血をすった剣を握っていた。
勇者は止まらない。
光の纏った剣を振るう。
あまりにも無謀に、そして無様に。
それでも、圧倒だった。
一方的な虐殺と形容されてもおかしくない光景が、そこではくりひろげられていた。
血が、舞い散る。
光は広がり、止まることを知らない。
声ひとつあげ、崩れ転がる死体。
勇者はそれに目もくれない。
光が塊となり、襲い続ける。
血走った目に、一瞬ひるんだ相手を容赦なく切り裂く。
光に飲み込まれ、白めを向き、口から涎を垂らした姿を晒す死体の山々。
蛾のように、光の塊に集まった死体と仲間らしき影。
次々とあちらこちらから、湧き出る。
しかし、何十人と集まったこの状況に顔色変えず、勇者は剣を振るう。
うめき声をあげ、転がる。
それにとどめをさすかのように、降り注ぐ奇麗な光。
綺麗な銀は、醜く変わり果てていた。
上書きされていく、赤。
転がる肉壊。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も――。
光は溢れ、舞い、散り、注がれる。
それに混じり、赤は散り、地へと降り注がれた。
汗が額から、とめどなく溢れ髪をぬらす。
奇声をあげ、勇者は剣を振り回す。
周りの建物は、元の形を保ってはいなかった。
奇怪な光。
増える肉片。
荒い息をはきつづける勇者。
声をあげる存在は、もういなかった。
遠くの方から、耳障りな音があがった。
その音で、我に返る勇者。
理性がわずかに戻る。
もう一度鳴った。
耳につく、高い音。
笛だろうか。
勇者はそんなことを思った瞬間、耳に入ってきた雑音。
微かな足音。
勇者は剣を握り直し、そちらへ向かおうと足をあげた。
しかし、思うように体は動いてくれず、意識はそのままぶち切れた。
足から崩れ、そのまま死体の上で目を閉じた。




