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第7話 お茶の葉

 第7話 お茶の葉



 7日目の朝。

 ミアのご家族と別れた。

 ミアは行きがけに、かわいい小さな包みをくれた。

 中に入っていたのは、綺麗な刺繍がされたハンカチだった。

 魔女は、自分にもくれたことに驚いていた。


「ありがとう」


「ありがとうございます」


「いえ。こちらこそありがとうございました。お気をつけて」


「ああ」


 勇者と魔女は、手を振るミアの家族に手を振り返し、この町を去った。









 景色は歩くにつれ大分変わり、いつのまにか何もないところになった。

 太陽が傾きはじめる。


「昼食にしよ」


「おお、ちょうど腹が減ったなーと思っていたところ」


 大きな木の下にできた日陰に、2人は並んで座る。

 勇者の鞄から、さきほどの町で買った肉と、最初の町でもらった残りの果実を取り出した。


「すぐ火、つけるから」


「火傷しないでね」


「今までしなかったろ」


 しかし、猿も木から落ちると言うべきか。

 右手を軽く火傷した勇者。


「俺、そうとう格好悪いな」


 その言葉に魔女はクスクス笑う。


「ちょっと待ってね」


 魔女は鞄から、あの小箱を取り出した。

 中からビンと布を取り出す。


「魔法より、こっちの方が効果的ですから」


 そう言いながらビンを少し傾け、中身の透明な液体を火傷した勇者の手にかける。

 しみたのか、勇者の顔が少しだけ歪んだ。

 魔女はビンに封をし、今度はたたまれた布を開く。

 開いた布には何もない――ように見えたが、よく見れば塗布剤があった。

 魔女の細い人差し指がそれを少しだけすくい、丁寧に塗っていく。


「ありがとう」


「礼を言うぐらいだったら、気をつけてくださいね」


 笑顔を見せ、そんなことを言った。


「ほら、肉。焼けたみたいだよ」


「すげー。旨そう」


 2人は手を合わせ、食べていく。

 果実も魔女が器用に、食べやすいように切り分けた。

 風がふわりと吹き始めた。

 日差しはとてもあたたかく、とても静かだった。

 何度似たような体験をしたろうか。

 勇者がしみじみと空を見上げた。


「そうだ。お茶の葉を買ってみたんだけど。買う前に味見したから、味は私の保証付」


 そう言って、温めた水を葉が少し入った椀に注ぐ。

 少し口で冷まし、味を確かめるように飲んだ。


「おいしい」


 椀のわずかに残るお茶を見つめ、勇者が驚くように言った。

 もう温くなってしまったお茶を飲み干した。

 少し強めの風が、吹き付ける。


「なんか、あれだな」


「?」


「いや、何でもない」


「そう」


 魔女は小箱と椀をしまった。

 勇者は足で、もちろん火に気をつけ、消した。

 木にもたれ、短い休憩をとった。

 勇者の言葉で歩くのを再開し、闇が見下ろすまで進み続けた。









 8日目の朝も、広がる空に見つめられる形で迎えた。

 道端に元気に咲く花を時々目にしながら、昨日と変わらない1日を過ごした。

 少し変わったことといえば、5人を乗せた馬車とすれ違い、夕食を一緒にしたことだ。

 勇者の旅の話をお代に、たくさんのごちそうを大勢で食べた。

 少しだけ明るかった空は、話が進むにつれて暗くなり、そこで今日は終了することになった。

 その旅人さんと一緒に、星空を見上げ、眠りについた。


 9日目の朝食も、大勢で過ごした。

 魔女は、昨日お出しするのを忘れていました、と一言つけてお茶の葉をふるまう。

 とても好評で、あの町についたら購入すると馬を操縦する男が言った。

 その言葉に、魔女は買った店の名前と場所を丁寧に教える。

 勇者はふと思いつき、魔女の後ろからミアの店と泊まった宿を宣伝した。

 馬車に乗った旅人たちと別れ、また歩き出した。

 太陽が姿を見せているのに、雨が少し降った。

 大きな木の下で止むまで待った。

 通り雨ですぐに止み、歩くのを再開した。

 少し地面がぬかるんでいたが、太陽の日差しですぐに乾き、歩きにくさはすぐになくなった。

 今日も、のじゅくだった。

 夜が昨日より冷えたように感じ、火を焚いて寝た。

 もちろん、火との距離は十分にとった。


 10日目の朝。

 目を覚まし、最初に見たのは天に広がる灰色だった。

 雨が降らないかと心配したが、それでも歩き続けた。

 風がとても冷たく感じた。

 暗くなり始めた頃、雨が降ってきた。

 昨日の雨とは勢いが異なり、足が重たく感じた。

 幸運にも目が届く先に、少々狭いが屋根のついた小屋があった。

 扉にはご自由にとの張り紙がされていた。

 魔女がもうすぐ着くと言ったが、そのもうすぐが不明だったため、今日はこの小屋で終了になった。

 毛布がいくつかあり、それも使わせてもらうことにした。

 毛布を背中にかけ、夕食をとった。

 魔女に手渡されたお茶が熱かったが、それは冷えた体にとてもしみた。

 雨音を聞きながら、すぐ眠りについた。


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