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第4話 のじゅく

 第4話 のじゅく



 2人の目には太陽が沈んでいく様子が映った。


「明日には向こうの町に着く。焦らず、完全に暗くなったら足を止めて休もう」


 魔女の言葉に、同意する勇者。

 ずっと歩きつづけているが、彼らの疲れはあまり感じられない。

 しっかりとした足取りで、平坦な道を歩いていく。

 商人が使うため、ずいぶんと昔に整備されたこの道は歩きやすかった。

 一度だけすれ違った人と昼食を取り、度々休憩をとりつつ確実に前へと進んでいった2人。

 最初、魔女の重そうな荷物も持とうかと手を出したが、丁重にお断りされたので2人の背中には鞄が背負われていた。

 そして腰には剣。

 勇者のは大きくしっかりとした剣で、魔女のはどちらかといえば小さめの剣だった。

 歩きながらの話で勇者が、魔女が剣を使うのは普通なのかと聞いたが、他の魔女を知らないらしく、わからないとのこと。また、剣は自分の身を守るために城に仕えるようになってから覚えたそうだ。

 ふーん、と声をもらす勇者に、魔女がどうして勇者になったかと問うた。

 勇者は自分で名乗り始めたのではなく、気付いたらそう呼ばれていたので名乗るようになったそうだ。

 勇者の武勇伝の中には、王の住まう町とは別の大きな町を救ったりというのがあった。きっかけはそれらしい。それから傭兵みたいなことをやり始めるようになり、いつの間にか勇者ということになった。

 剣は知り合いに教えてもらったそうだ。最初はそこまでだったらしいが、傭兵をやりだし、だんだんと腕をあげたそうだ。

 いよいよ天が藍色から黒へと染まりだした。

 鋭い表情で勇者は上を見上げていた。

 そして魔女は、そんな彼の肩に手を触れほほえみながら、


「ご飯にしよう」


 言った。


「ああ」


 勇者も短く応えた。

 あまり荷物になるのは良くないと判断し、2日で隣町へと着くことが分かっていた魔女は、今日の分の食べ物とわずかな携帯食料のみを鞄の中に入れていた。

 しっかりとした生地で作られた鞄から、焼かれた肉と栄養のある果実を取り出す。


「温めた方がおいしいけど、どうする?」


「ん? じゃあ、火は俺がつけるよ」


 落ちていた枝を使い、火をつけようとする勇者。

 けっこう手馴れたもので、すぐに赤い炎が2人の間にできあがった。

 焦がさないように、肉を焼いていく。

 勇者が果実も焼こうと言い出したが、魔女が冷たい目で見てきたので、冗談ですと目線をそらして、魔女の冷たい目を見なかったことにした。

 熱くなった肉に、息を吹きかけ冷まそうとする。まあ一息2息かけた程度で冷める熱さではなかったので、その行為はあんまり効果がなかった。

 結果、勇者の舌が軽く火傷した。

 肉を口に入れて叫ぶなんて、なんとなさけない勇者だ。

 あんまり火に肉を近づけなかった魔女は、おいしそうに平らげた。

 ひりひりする舌なんぞ無視し、手にずいぶんと残る肉にかぶりつく勇者。

 が、突然心配そうな顔をして、肉を見つめだす。

 魔女が水を飲みながら、目を瞬きさせながら勇者を見ていた。

 勇者がぽつり。


「あのさ。昼のときも思ったんだけど、こんなに食っていいのかな?」


 おいしそうな肉が目の前で手をふるのを目でながめながら、勇者がそんなことを言った。

 魔女はその言葉にカラカラと笑った。


「明日、町に着くって言ったでしょ? そこで買うから大丈夫」


「そうか。そうだよな。なら――」


 手にまだずいぶんと残った肉をがぶりと一気に口へと入れた。

 案の定、苦しそうに胸を叩く勇者。

 本当に大丈夫かこいつ。

 またもそんな勇者に、楽しそうな笑い声をあげ、手に持っていた水筒からコップへと水を注いで渡した。

 音の鳴る飲み方で水を飲み干す。


「ありがとう!」


 大きく息を吐きながら勇者はその言葉を口にした。

 魔女は笑った。









「あの……何度も言うけど、いいの? 魔女って女の子じゃん。いいの?」


 落ち着かない手を胸の辺りでうろうろさせる勇者。

 のじゅくをするも、荷物になるからと布団代わりにしている大きな布を置いてきてしまった勇者。

 寒くないこの時期、必要ないと思っていた。

 それは魔女も同じのようで、重そうな鞄の中にはそのようなものはなかった。

 寒くなくとも下にひくなど、必要とは思わなかったのか。それとも気にしなかったのか。

 大丈夫です、といきなり地べたに寝っ転がる魔女。

 勇者は額に手をあて、ため息。


「絵本の勇者のように、マントをつけてたらそれを布団代わりにできたのに……」


 小さくつぶやいたが、静寂そのもののこの場には、そのつぶやきも届いてしまう。


「マントなんて邪魔だと思うよ」


 ハハハと乾いた笑いをあげ、勇者も魔女と同じように横になった。

 疲れているつもりはなかったが、目を閉じたらいつのまにか意識は落ちており、2人はすやすやと気持ちよさそうに眠った。

 それを邪魔するのは、何時間後に姿を現す輝く太陽だけ――。









 朝日が昇り、そのまぶしさで勇者と魔女は起きた。

 朝食をとり、少し休憩してからまた2人は歩き出す。

 わずかに赤みがかった空色の頃には、町へと着いていた2人。

 明日の早朝に出かけるのでと、先に買い物を済ませる。

 日持ちし、(資金はたくさんあるのだが、いかなる時のため)安いものを求め続けた結果、空は暗くなっていた。

 買い物最中に、いい宿を見つけたので今夜はそこに泊まることになった。

 さすがに男女同部屋はどうかと思ったが、なんと1つしか部屋が開いてなかったので、こうなってしまった。

 とても安い料金で、ベッドと(浴槽はないが)シャワーもついている。

 他に行くにはもったいない物件だったし、今から探すにも時間が遅かった。


「勇者、次どうぞ」


 考え事をしていた勇者に、突然真上から声がかかる。

 反射的に顔をあげた先には、湯気をあげ髪をぬらした魔女がそこに。

 顔も近く、勇者の頬が染め上がる。

 しかし、魔女は勇者のそんな様子には気付かず、ニコリと微笑みどうしたんですかと言葉を続けた。

 つまった声をあげ、顔をそらした。

 魔女が一歩下がり、なんでもないように尋ねた。


「考え事?」


 その言葉に迷いながらもうなずいてしまう勇者。


「旅はしたことあるし、今までいろんな相手をぶった切ってきたけどさ。今回はちょと違うなって。自分で言うのもあれだけど、俺強いよ。でも、大丈夫かなって」


 目を細め、床を見ながらそんなことを言った。

 それを聞いた魔女がとった行動。

 両手の平を勢いよく合わせ、鳴らした。そんな突然の意味の分からない行動。

 鳴った音は意外にも大きく、勇者どころか、鳴らした張本人さえも驚いた表情をつくった。

 なんともいえない空気につつまれたこの現状をかき消すように、控えめに笑う魔女。

 そして、魔女は優しい目をして勇者に言葉をかけた。


「その通り、あなたはお強い方。自信もお持ちください。何を不安に思うことがあるのです。自分を信じ、剣を迷い無く振るいなさい。大丈夫」


 ほほえみ。

 勇者の中でその言葉とともに広がった。

 勇者はさきほどのことを打ち消すかのように、晴れた表情つくった。


「ああ、情けないことを言った。俺を信じてくれる人を裏切るようなことを言った。もうこんなこと二度と思わない。大丈夫。絶対大丈夫」


 最後は自分に唱えるかのように、どこか遠くを見るかのように言った。

 そして魔女に、


「ありがとう」


 前とは違う、たくさんの心が篭ったそれを勇者は口にした。


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