最終話 終幕
最終話 終幕
どれほどの時間が経ったのだろう。
傍らには、ボロボロでくすんだ剣。
目の前には倒れた死体。
赤色の海と赤黒い大きな斑点。
勇者は呆然と眺めるだけだった。
荒い呼吸。
地面へと手をついた。
ぐちゃぐちゃの頭。
最後の光景がただ繰り返されていた。
最後に見せた を。
「ど、どういうことだ……」
気がつけば言葉を口にしていた。
「光」
背中を丸め、ぐしゃぐしゃと意味もなく髪を荒らす。
そんな勇者の背中に音がひとつ。
走る音。
頭にあったぐしゃぐしゃに重ねられた言葉が綺麗に消し去る。
「魔女!」
叫んでいた。
さきほどまでの表情も雰囲気もない。
自分以上に汚れた剣と衣類。
「よかった……無事で」
笑った。
どくりと心臓がなった気がした。
魔女の剣が鞘へと吸い込まれる。
勇者は落とした腰を持ち上げようとする。
だが、思うようにいかなかった。
今までまったく気付いていなかったが、そうとう体に無理をさせていたせいで、鋭い痛みが全身へとかけぬけた。
「ぎゃあ」
なさけない声をあげ、浮かせた腰をすぐに落とした。
魔女の顔色が変わる。
「勇者!」
「だ、だいじょーぶ」
少し恥ずかしそうに、笑う勇者。
魔女はほっと息をはき、勇者の前へと手を出した。
勇者は暖かいその手を握り、傍らに眠る役目を終えた剣を支えとし、痛む体を動かし立たせる。
ふらつくも、剣を杖とし足をしっかりと地面につけた。
ありがとう、と一言。
魔女がやわらかく笑った。
ボロボロの剣を使い、少しずつ少しずつ歩き、出口を求める。
一番近くの、勇者が進んだ穴へと。
魔女が肩を貸そうかと提案を出すが、魔女も疲れているのは一目瞭然だったので断った。
魔女は、勇者の速度に合わせる。
何か話そうかと、魔女はあれこれ考え、口を開こうとするが、それよりも先に勇者が足を止め口を開いた。
勇者は上手く上がらない腕で、魔王が出てきた穴を指す。
「あれ、俺らが見てない道。もしかしたら、まだいるかもしれない……」
「では、私が見てきます。勇者はここで」
「いや、魔女だって疲れてるだろ」
「今の勇者よりは強いかと」
「そ、そりゃ……。でも」
「休んでいてください。お願いします」
魔女の顔を見ていたら、剣を杖代わりにしている自分が無理やり行くのは、逆に足手まといだと感じた。
まだ戦える。
気持ちはそうだが、実際自分の体は上手く動かない。
おとなしく、勇者はひきさがる。
魔女は無言でうなずき、向きを変え走った。
ふらりと腰をおとした。
「無理をするなよ!」
できるかぎりの大声で叫んだ。
魔女が走りながら、右手をあげた。
それを見て、肩の力をぬく。
痛む体をどうにか和らげようと、壁に目を向ける。
剣を掴み、足を引きずりながら壁へと目指そうとする。
だが、剣を掴むときに視界に入った死体。
魔王。
勇者はまたも思い出していた。
魔女の姿を見て、無理やり消したはずの記憶。
だが、そんなにも簡単に記憶は消えるわけがない。
またもきれいにくっきりとその光景が、流れた。
最後に見せた笑みを。
どんな意味で笑ったのだろうか。
そんなことを考えた。
あの戦いの最後を思い出す。
あの時。
魔王の剣が光ったとき。
自分の同じように、魔王の剣が光る。
勇者の目が大きく開かれる。
だが、心を落ち着かせ、剣を両手で握りなおす。
魔王の光る剣が動いた。
来る――。
さらに強く握られる剣。
だが、1秒後の光景は、勇者の予想を遥か斜め上へといった。
光、もしくは魔王の体が自分へと向かってくるかと思っていた。
だが、見たモノは赤だった。
思わず綺麗と見とれてしまうほど、光の中に散った赤。
それが血だということが、勇者はすぐに理解することができなかった。
光の剣は腹へと。
魔王の腹へと飲み込まれていた。
「なっ――」
勢いよく倒れる魔王。
大きな音を立て、静かに転がるまま。
赤だけが、血だけが、すさまじい速さで流れ広がり、奇妙な絵をつくる。
輝く光は、徐々に消えて、そしてただの剣だけが現れた。
腹へと深く刺さったままの剣。
どういうことかと理解する前に、勇者の足が崩れ、手をつく。
すさまじいほど、何かが頭へと流れる。
どういうことか――。
そんなもの、時間が経ち、落ち着いた今の頭は理解できていた。
自害。
なぜ――。
それが残った。
光の剣を腹に刺したとき、一瞬だけ薄まった光の間から見えた、なんとも言いがたいほどの笑み。
そして、今もやや崩れて残る笑みという表情。
勇者は魔王へと近づく。
自分は今どんな顔をしているのだろうか。
そんなことを考えながら、足をひきづり、痛む体に耐え、魔王へと。
遠くから見えていた通り、死に顔は当てはめるのならば、笑みだった。
白くなった顔。
自分は何をしているのだろうと、勇者は思い、壁へと向きを変えようとしたとき、視界のほんの隅でなにかが光った。
あわてて首をもどしたため、背中が悲鳴をあげる。
口からも声をひとつ零してしまう。
光った何かを目で探す。
そして見つけた首にかけられた小さな鎖。
鈍く光るそれを、痛みで震える腕で触れる。
指で手繰り、それがロケットペンダントと呼ばれる物だと分かった。
なぜ、ここで中身を見ようと思ったのだろうか。
ほんのすこしの好奇心で開けたペンダント。
そこには写真があった。
何が写っているのかは分かる程度のとても小さな写真。
写っていた者に、言葉を失った。
目を近づけるも、何ひとつ変わらなかった。
視界が少し暗くなった。
目をいっぱいに開かれた勇者の目に映る、写真。
そこには、淡い桃色のドレスを着た綺麗な若い女性と、その女性に抱かれた生後間もないであろうと思われる赤子。
そしてその右隣にいる、煌びやかな服を着た自分とよく似た若い男性。
――自分とよく似た……。
細部から、別人なのは明らかだったが、それでも自分とあまりにも似すぎていた。
「どういう――」
最後まで言葉は出なかった。
体に感じていた痛みを上回る痛みが全身へと、2周も3周もかけめぐる。
意味不明な言葉が勇者の口から壊れた機械のように零れだす。
自分の影に重なる、気付かれなかった影。
少し前からあった影が誰なんて、わかっていた。
だが、振り返らずにいられなかった。
結果、傷をさらにえぐることになった。
気が狂いそうになるほどの痛みがまたも走る。
痛みで零れ続ける声は言葉に変化する。
「アネット……?」
どさりと転がる。
「もう少し生き長らえたものを」
勇者は目を閉じず眠った。
城の存在するこの町は、お祭り騒ぎであった。
いや、お祭りそのものだった。
まだほんの一時間もみたない時しか流れていない。
朝日が不安を広げるほど静かな町を、勢いよく照らすこの日。
広場で少年が、マイクを用いて、叫んだ。
「号外! みんな良く聞けえええ! 悪は滅んだぞー」
すぐに静かすぎた町がざわめきで包まれた。
足音は一直線に少年へと向かった。
コインが、大量のコインが舞う広場。
そして、大量の記事もむちゃくちゃに舞った。
中にはコインではなく、紙幣を渡す手が。
その手は少なくなかった。
少年が這いながらコインや紙片を拾い続ける。
そして他の人間たちもまた、這い記事を掴む。
どんどんと消える記事。
大量にあった記事は消える。
だが、差し出す手は増えるばかり。
少年は、台にしていた箱から、新たな記事をばらまく。
少年は確実に足りないだろうと予想し、大事な自分の金でさらに大量に作ってもらったのだ。
もちろんそのとおりで、新たにばら撒いた記事を欲しがる手は減らない。
そして、音を立ててコインもばらまかれた。
圧倒的に紙幣の方が多かったのを付け足しておこう。
記事には分かりやすいほどの見出しが短く載っていた。
悪、滅びる
と書かれた下には、勇者が倒したこと、そして――その勇者は死んだことが書かれていた。
そのことに、嘆く人、天へと感謝の言葉を述べる者。
この瞬間、英雄となった。
勇者は、その後、国中で永遠に語り継がれた。
英雄は、その後、国中で永遠に語り継がれた。
命を懸け、勇敢に魔王と戦い死んだ存在として。
魔王と自身の命と引き換えに死んだ存在として。
魔王と刺し違え、命を落とした歴史的存在として。
魔王と刺し違えて――。
「終わった! 終わったのだ! ハハハッ――。はっはははは――」
国中を襲った悪は滅び、皆安心して暮らし続けました。
さて、13話すべてが投稿し終えて、
作者はほっとしています。
この場所に書こうか迷い、書かずに投稿したので
あとがきを読めずにこの物語から離れた人はいますよね。
えっと、なんで更新が途絶えたとかあると思いますが
ここで語るほどつまるようなものじゃありません。
今4月ですねとヒントを出しておきます。
桜、こちらではもう緑が相当目立ってます。はい。
さて、内容につきましては、すべて秘密とさせていただきます。
いろいろ考えて、
自分の中での答えを見つけてくださるとうれしいです。
私はもうひとつのお話とかそういうの
作るのは好きなんですが、
結構読むのは苦手です。
自分でこうかな?って思ったことが
公式がばっさりと切ってしまうからです。
私はこうかな?って思ったままのほうが好きなんです。
あまりにも謎だらけなのも好きじゃないのですが。
なので私と同じく
裏の話、作らないで欲しかった!って
思う人が出るかもしれないので
書きません。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
アクセス数で、あ、来てる人はいるんだ
と、増えるたびにニヤニヤしているのですが
ニヤニヤするのは終わりですね。
ちゃんと終われたことで、ほっとしてる自分と
終わっちまったよ・・・と思ってる自分がいます。
でも、今、現実が思った以上に忙しいので
4月中に終われてよかったと本当に思ってます。
宣伝になるかもしれなくて
書くか書かないか迷っていますが、書きます。
もうひとつ書いてる物語があります。
(放置してるのもあるんですが)
天使に取り付かれて。という物語で
自分が一番最初に長編を真面目に書いたものの
リメイク作品を今更新しています。
ビリーバーで更新を一時停止していましたが
4月までにできれば一つあげようと思っています。
もし、見てくださる方、
たぶんそうとう亀更新ですが
根気よく待って頂けたらと思います。
では、今までお付き合い、本当にありがとうございました。
いや、たぶん確実に1日からずっと読み続けてた人なんて
いないでしょうが・・・。
本当に読んでいただきありがとうございました。
更新できるかぎりがんばります。
これからも、飽きるまででいいので
よろしくお願いいたします。