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第12話 光

 第12話 



「ここに辿り着いたということは、俺の仲間は殺されたということか。どうだ。人を殺した気分は――」


 男は笑っているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか。

 まるで機械のように、感情を見せず男は言った。

 勇者の顔が険しくなる。

 するどく細めた目で前の男をにらみ、言い放つ。


「なにもしてない人間を無差別に殺しまくった気分はどうなんだ?」


 男の表情が少し変わる。

 しかしそれでも感情は伝わらない。

 男は何も言わず、止まった足を進めさせた。

 男の動きに、剣を握りなおした。

 地面を蹴らず、ただ叩くように歩く男。

 まったくと縮まらない距離。

 勇者は唐突に自分へと疑問を感じた。

 なぜ、さっさと殺さない。

 なぜ、剣を光らせない。

 ふと視線をはずし、剣が小刻みに揺れているのに気付く。

 いや、腕が、体中が、震えているのだ。

 そこで勇者はこの男に対し、怯えているのに気付いた。

 どこに怯えるところがある、と自分に吼える。

 今の今まで、あの騎士団をあれほどまでにした悪を、たった1人でこうも圧倒的に勝ってきたではないか。

 どこに、どこに怯えなければならない。

 自分の世界へと入り込み、ひたすら自分へと問いかけ奮わせる。

 しかし、震えは大きくなっていくばかり。

 汗が鼻へと垂れる。

 嫌な汗が、乾き始めた汗で汚れた皮膚を上書きしていく。

 カツン、と大きくなり、視線を慌てて男へと戻した。

 あれほどまで遠くにいた男が、ほんの近くに来ていた。

 男の輪郭がはっきりする。

 自分より頭ひとつでかいだろうと思われる男は、そこで初めて分かりやすい表情を見せた。

 笑ったのだ。

 どんな意味で笑ったのか、判断はつかないが、きっと震える自分に笑ったのだろう。

 きっとそうだ。

 しかし勇者は怒りなんぞ湧いて出なかった。


「どうして攻撃しない? 余裕というやつか?」


 違う。

 なんだ、これは。

 男の足が止まる。

 自分との距離は、ほんの数十歩程度。

 今にでも切りかかれるほど距離。

 それでも勇者は剣をただ握り締めることしかしなかった。


「自己紹介でもしておこうか」


 男がぽつりと言った。

 勇者は男の意図がわからなかった。

 自分が油断した隙に殺るつもりなのか。

 構えの体勢。

 しかし男は剣先を地面に向けたまま。

 隙だらけなのは、向こうの方だ。

 光らない剣。

 心臓の音が耳元でなっているかのようだった。


「お前らが我々のことを『悪』と呼んでいるそうだが、その悪のてっぺんにいる。そうだな、格好良く『魔王』とで名乗っておこうか」


 低い声がつらつらと並ぶ。

 魔王と自分を称した。

 てっぺんだと。

 つまりこいつは――。


「悪の親玉ってやつだ」


 震えが止まった。

 なぜかなんて、考えなかった。

 頭に浮かぶ言葉。

 それは『勇者』という存在だからなのか、それとも見てきたモノがモノだったのか。

 それはらしくもないものだった。

 殺してやる。殺さなければいけない。

 剣は淡く光る。

 薄い色。

 剣だけにまとう。

 広がらない光。

 勇者が振るう。

 距離があるなか、ただ殺意をむけて、魔王へと。

 ぶっ飛んだ。

 光の塊が。

 足は地面を踏みつけるだけで、一歩も動かさなかった。

 魔王はさりとて驚かず、そして勇者と同じく一歩も動かず、首だけを動かしソレをよけた。

 一瞬遅れての爆音。

 ぶっ飛んだ塊が、遠すぎる壁へと当たる。

 耳へとすさまじい音が叩きつける。

 しかし、勇者は頭の中で叩きつける音が聞こえてないとでも言うかのように、剣を振るった。

 まさしく勇者の名にふさわしく優雅に。

 いくつもの光の塊が飛ぶ。

 次は避けさせない。

 感情を吹き込んだ塊は、魔王をめがけた。

 だが、魔王はただ、ただ、剣を掲げるだけだった。

 そして、塊はかき消された。

 勇者の腕が止まった。

 残りの固まりも、ただ消えた。

 なにが――。何が起こっている。

 魔王は何もしていない。

 ただ、剣を掲げただけだ。

 なにも。

 自分の中で何かが崩れるのが分かった。

 それでも――。

 停止させた腕を振るう。

 またもかき消されてしまう。

 それでも止めない。

 また別の形で光が襲う。

 魔王は剣を少し振るっただけで、届く前に輝きを失う。

 なんどもなんども繰り返された。

 それでも、勇者の攻撃が魔王に届くことはない。

 魔王は悠々と立ち構えるだけ。

 荒い呼吸を整える勇者。

 差なんて見えていた。

 それでも挫けるわけにはいかない。

 ちらりと、魔王が出てきた穴でもなく、自分が出てきた穴でもない、もう一つの穴へと視線を飛ばした。

 おそらく、いや確実に魔女が進んだ道の出口だろう。

 まだ姿も音も届いていない。

 相当入り組んでいるか、それとも――。

 頭に浮かんだものを、かき消す。

 自分へと言い聞かす。

 なにをやっていると。

 こんな相手に苦戦をするな。

 震えていた自分はもういない。

 両手でぎりりと握られた剣。

 初めて勇者が地面蹴り、切りかかった。

 魔王が勇者の突進に、驚いた顔をつくった。

 今までただ棒立ちであった魔王の体勢が変わる。

 数瞬後、カチンと響きのいい音が生まれた。

 勇者が力ずくで、右へと流す。

 魔王は少し足を浮かせるも、すぐに整える。

 だがそのわずかな時間の間に、勇者は剣を振るった。

 魔王は表情を崩さす、剣で止める。

 勇者は浮いた足を後ろへと飛び、地面へとつけた。

 笑ったのは勇者。

 光をまたも剣にまとわらせる。

 だが、塊は飛ばさない。

 体勢をかがめ飛び込み、下から剣を振るう。

 光の剣とただの剣。

 魔王の体勢が崩れる。

 ただの力ずく勝負にも見えるこの光景。

 勇者の剣がさらに輝きを増す。

 ゆがませた魔王の目。

 一瞬、一瞬だ。

 それでも勇者はそこを衝いた。

 肩からななめへと。

 深く刻まれる。

 血が舞った。

 うめきの声が消えるまでに2度、血色の剣を往復させる。

 魔王の足元がくずれる。

 だが、まだ剣を落とさなかった。

 立て直す魔王。

 勇者の剣がわき腹へと迫る。

 だがその前に、光った。

 光った( ・ ・ ・ )

 すでに光り続けていた剣を上塗りするほど、圧倒的な輝き。

 魔王の剣がやや血走った勇者の目を眩ます。

 突然のことに剣の軌道を変えて止め、飛び去る。

 勇者が見た光景。

 魔王の持つ剣が光ったのだ。

 自分と( ・ ・ ・)同じように( ・ ・ ・ ・ ・)

 そして――。

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