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第11話 足音

 第11話 足音



「なんで一人で行かせたんだろ」


 まだ、勇者は別れ道でバラバラになったことを後悔していた。

 確かに、逃がしたらどこにいるのか把握できずやりたい放題される可能性はある。でも、だからといって、魔女を1人で行かすのとは別の話だ。

 勇者は、早足で進みつつも時々立ち止まり後ろを見ていた。

 入ってきた大きな穴は見えず、明かりもない。

 慣れてきた目と耳と感覚で、敵がいつきてもいいよう心理的に準備し、音をできるだけ立てず歩いていた。

 中で合流できるなら……。

 さらに足が速く動く。

 自分が先に行って敵を倒してしまえばいい。

 その考えが頭に流れ込んだ瞬間、早足で歩いていた足を止め、息を思いっきり吐いた。

 そして――。

 走り出す。全力疾走ではないが、歩くよりはるか早く。

 音をできるだけ立てないように走っているつもりだが、音は響く。

 そしてそれは重なった。

 勇者がそれを聞き逃さず、剣を強く握る。

 走る速度をやや落とす。

 曲がった道。

 勇者はそこにいると分かっていた。

 分かっていたからこその先手必勝。

 剣をさらにぐっと強く握る。

 溢れる光。

 しかし、勇者はきちんと自我を保っていた。

 息を整える。

 足が一瞬ふらつくも、踏ん張る。

 地にしっかりと足裏をつけた。

 光に驚いた敵。

 待ち伏せし、先に襲い掛かるつもりのはずが、逆に先手を取られてしまった悪。

 光は広がる。

 ゆっくりとゆっくりと。

 じわじわと攻めるかのように。

 勇者はゆっくり足を進め、いつでも振るえるように剣を握りなおした。

 最初に目に入ったものは、恐怖感を与える、とても立派で大きな剣だった。

 豪華にも、柄の部分に装飾がされた美しき剣。

 磨かれ、くもりひとつない銀。

 光の粒にあたり、剣がさらに輝く。

 それは勇者のも、悪のも。

 光は、待ち伏せしていた悪、10人ほどの人間を容赦なく包み込む。

 大きな音を立てて落ちた剣。

 それはいくつも続いた。

 落ちる、落ちる、落ちる。

 ほんの数瞬で、武器を握る悪はいなくなった。

 それどころか全員、地にひざをついていた。

 うめき声が重なる。

 10人ほどのうめき声は大きく響いた。

 だがそれもすぐに小さくなり、やがて途絶えた。

 だれもが、倒れ転がり、死んだ。

 勇者は大きく息をはいた。

 それと一緒に光はすーっと消えていく。

 勇者の額には大量の汗。

 袖で雑に拭く。

 血を一滴も垂らさずの死闘。

 肩をおろし、ひとつ深呼吸。


「大丈夫。倒れない。大丈夫。扱える。大丈夫」


 勇者はどこを見ているのか。

 ぶつぶつの言葉を並べた。

 ごくりと唾を飲み込む。

 そしてまた、走り出した。

 叩くような足音は、リズムよく響いた。



 あれから、いくつもうねる道を走り続けた。

 見えないところで待ち伏せする悪。

 気配を読み察知し、光を出す勇者に勝てるはずもなく。

 一方的に殺されていった。

 いくつもの屍を越えた。

 何度もそれを繰り返すうちに、使い方のコツを掴んだのか。

 光はさらに強く明るく美しく輝いた。

 まるで生きているかのように光の塊がまきつき、息の根を止めていく。

 走ったせいか、光を使ったせいか、大粒の汗が額に。

 時々ふらつく勇者の足。

 それでも地面を強く蹴り、前へ前へと走っていた。

 立派な洞窟は進むにつれ、さらに丁寧に、そして広くなっていた。

 待ち伏せする悪も数が増えていく。

 光をすごいスピードで飛ばし、いくつもの人影にまとわりつき、殺す。

 何人いようが関係はもうなくなっていた。

 上塗りされない銀。

 呆れるほど圧倒的に、事は進んでいく。

 うめき声すら上げられないほどの速さで殺されていく悪。

 道を塞でしまう人間の塊を、またぎ、踏みつけ、進んだ。

 進み、そしてたどり着いた。

 今まで通ってきた暗さとは対照的に、ここは明るく、開放感溢れる広さを持っていた。

 なんだこれは、と目の前の光景に驚く。

 それほど、不思議な光景が広がっていた。

 はるか高くに存在する天井。

 目が眩むほどの空間に足を踏み入れてしまった勇者。

 まるであやつられているかのように、ふらふらと頼りなさそうな足取りでまっすぐ進んだ。

 この空間の真ん中へと。

 何歩進んだのだろう。

 しかし、まだ中心は遠い。

 それでも、苛立つほどの小さな歩幅で足を動かす。

 何百歩歩いたのだろうか。もしかしたら何千歩かもしれない。

 ようやく中心へとたどり着いた勇者。

 無音しかないこの空間。

 勇者はぐるりと当たりを見渡す。

 この場所に、勇者は目を奪われていた。

 眺め続ける中、軽い足音がひとつ遠くから聞こえた。

 瞬間、我に返る。

 勇者が目を開き、どこだと探る。

 声が聞こえた。


「よく来た」


 低い声。

 声の持ち主は、なんとも堂々とこの空間に足を踏み入れた。

 自分の存在を隠すことなどせず、勇者が入ってきた道とは別の道から。

 その影は、剣を持っていた。

 今まで殺してきた悪の持っていた剣よりも豪華だった。

 決して下品なものではなく、美しく品性のあるものだった。

 髭をはやした長身の男。

 当たり前なのだが、彼も悪の1人。

 だが、今まで殺してきた死体となった悪とは、大分違った。

 なんとも堂々としている。

 勇者は、すぐに光を出すことはなかった。

 いや、出せなかった。

 男のまとう雰囲気と奇妙な態度のせいで。

 それが大きな過ちと理解するのは、もう少し先の未来――。

毎日更新途絶え申し訳ありませんでした。

次の更新、できあがりしだいあげます。

できるだけ早く投稿しますので、

最後まで見ていただけるとうれしいです。

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