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第10話 分かれ道

 第10話 分かれ道



 13日の朝。

 風の音しか聞こえない町を、静かに出た。

 悪の討伐が終わったら、王様にお願いして亡くなった人を埋葬してもらおうと、決めた。

 もちろん、町の人でない存在らも。

 憎たらしいほどの真っ青な空の下を、会話もはずませず歩き続ける。

 焦げた臭いが風に乗って届く。

 勇者と魔女は砂利の音を立て、ただ歩き続けた。

 町が見えなくなりだいぶ経った頃、魔女が少し緊張した声と顔で、前を見ながら言った。


「もうすぐです」


 ガチャリと腰に差した剣の音。

 勇者はそうか、と返した。

 まだ青い空が見下ろす中で、2人は着実に悪の住まう場所へと近づいていた。

 魔女の言葉どおり、もう近くまで迫っていた。

 風が止む。

 鳥の鳴く音も聞こえない。

 足音だけがやけに大きく聞こえる。

 深い緑の景色が、2人の目に入る。

 大きな森。

 まだ遠くに見えるが、そんなもの時間に換えればすぐの距離。

 勇者が唾を飲み込んだ。

 魔女が止まり、1本の大きめの木の下を指した。


「鞄。ここに置いときますか?」


「ああ、そうしよう。……水、もらってもいいかな?」


 勇者も魔女の言葉に足を止めた。


「どうぞ。血戦前です。気にせず飲んでください」


 魔女は鞄から出し、水筒を差し出した。

 勇者のものは、すでに空だったのである。

 本来ならば、あの町で補給するはずだった。

 やや引きつった魔女の微笑み。


「緊張してる?」


「……」


「守るから」


「ご自身を一番に」


「硬いよ」


「どうしろと」


「確かにそうだけど、俺たちは死に行くんじゃない――。だろ?」


「そうですね」


「あのさ、最初に名乗らなかったら、言いたくないのかな? ……って思って聞かなかったんだけどね。いいかな?」


「アネットです」


「よし、覚えた」


「勇者は?」


「忘れた。ずっと勇者勇者って使ってたから」


「……そうですか」


「行こう」


「はい」


 2人は、森へと足を踏み入れた。









 木が進むのを邪魔する。

 磨かれた銀を腕にさげ、警戒しながら一歩一歩進んでいく。

 時々鳴く鳥に、心臓の音が早くなる。

 ずいぶん進み、青が藍に変わり始める。

 さらに視界が暗くなった。

 勇者はふと、あることに気付いた。


「木が減ってる?」


 最初にくらべ、木の数が減っていた。

 目をあちらこちらに向けると、ところどころに切り株が見られた。

 なぜ――。

 その答えはすぐに判明した。


「洞窟……」


 赤茶色のものすごい大きさの洞窟があった。

 そして、その前に剣をぶら下げた人影も。

 1つの人影。

 集中して気配を探っても、近くにいるのは見えてるあの1人のみ。

 何も言葉を発さず、アイコンタクトをとり頷き合った。

 ぎりぎりまで音を殺して近づく。

 またもアイコンタクトをとった。

 息を合わせ、同時に切りかかる。

 顔を一瞬で塗りかえる見張り。

 向こうは突然の攻撃に対応できず、剣を握りなおす前に血を撒き散らした。

 息はもうない。

 勇者は見張りに顔を向けるも、魔女に肩をたたかれ顔をあげた。

 耳をすます。

 何も、音がしなかった。

 しかし2人は静かに頷き合い、固い地へと足を進めた。

 音を立てず、ひたすら進んでいく。

 でこぼこした壁に手を触れた。

 ひんやりとしていた。

 外から入り込む明かりは頼りにならず、目が慣れるのを待った。

 視覚があまり頼りにならない今、聴覚にすべてを注ぎ、奥へとさらに進んでいく。

 時々蹴ってしまう石ころに、息を深くつき心を落ち着かせる。

 剣がいつも異常に重たく感じた。


 歩き続けてどれほどが経っただろうか――。

 慣れてきた目がみたのは、分かれ道だった。

 決め手になるなにか目印になるのはないだろうかと探す。

 だが、そんなもの見当たらなかった。

 響かないように、悪に聞こえないように、声を小さく小さく小さくして魔女に聞いた。


「どうしよっか」


 魔女は一瞬眉をひそめて頭の中で悩む。

 そして勇者の方に顔を向け、魔女もまた声を小さくして言った。


「私はこっちに行きます。勇者はあっちへ」


 右を差し、自分の方へ。

 左を差し、勇者の方へと人差し指を動かす。


「それは駄目。2人一緒に行こう」


 それでは守ることができない、との言葉を勇者は飲み込んだ。

 魔女は小さく左右に首をふった。


「私は強い。信じて」


「信じるけど、それでもやっぱり1人で行かせるのは……」


「もし中で繋がっていて片方で気付かれた場合、行かなかった方の道から外へと逃げられてしまいます。もし、今度姿を眩まされたら悪を倒すことができなくなるかもしれません」


「でも……」


「後でまた」


「お、おい」


 勇者の言葉を背中で受け止め、魔女は右の道へと進んだ。

 追いかけようと右に行こうとするが、足はやめろと止めるかのように動いてくれなかった。

 今からでも間に合う。

 でも、頭の中でめぐる数々。

 ここで逃したらさらなる犠牲がでるかもしれない。

 それを考えたら、左へと進むしかなかった。


「ちくしょう」


 つぶやくように、勇者は顔をくしゃくしゃにして言った。


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