Scene8.
「……魔女が図々しくこの学園に乗り込んできたわ……」
「……自分の立場分かってんのか?……」
「……空気汚れるよね、とっとと狩られちゃえばいいのに。……」
結構ひどい事言ってくれてるじゃないの。
キレそうな私をナイトがなだめる。
「気にしない方がいいよー。あいつらは意気地なしだから。自分らで君を倒せないの知ってるから陰口叩いてんの。
自分で狩りに来るシグマの方がよっぽど勇者だよ。アホだけど」
「そうね。あいつは武器装備で倒しに来てるものね。脳内ロープレの痛い人だけど勇気はあるものね。アホだけど」
「アホアホ連呼すんな魔女!」
噂をすれば影。
「何よ、また私を倒しに来たの?受けて立つわよ」
「いや、今そんな暇はない。ナイト、宿題見せてくれないか?」
うわあ、何か……うん。既視感を覚えるわ
「いいけど……提出の範囲って『災厄の魔女』が出てくる時代だよな?魔女狩りしてるお前なら楽勝じゃないの?」
「いや……俺は単に魔女倒して勇者になりたいだけだからな。歴史なんざどうでもいい」
おいこら。魔女狩りなめんな。
「そうだ。ナナちゃんもこの辺の歴史は知っといたほうがいいよ。教えてあげる」
そう言ってナイトは今から二百年前――魔女がいた頃の歴史を語ってくれた。
「二百年前――文明は今より少々劣るけど、みんな結構平和に暮らしていたんだって。そこに、『災厄の魔女』が降臨した。
彼女は最初少女に化けて、ある村を訪れた。そこの村人は少女を温かく迎え入れたが、少女はある日突然、村人達を惨殺した。
しばらくすると彼女は別の少女に化け、別の村を訪れた。その村も彼女を受け入れたが、少女はまたも村人達を殺した。
魔女は何度も様々な村を襲った。いつしかこの国には『突然村を訪れる少女は魔女。村に住まわせてはいけない』という風習が芽生えた。
……それが今君が魔女と呼ばれる所以だよ。正直はた迷惑な話だよね。
話を戻すね。その後魔女は魔法をかけ、伝染病を流行らせたり冷害を起こしたり飢饉を起こしたりした。人々は苦しんだ。
それで一人の少年が意を決し、魔女を倒しに行った。彼は魔女を何とか倒し、英雄となった。
シグマの残念な思考はこの少年への憧れによるものだよ」
「残念とは失敬な!俺は『魔女』を倒して彼よりもっとすごい英雄になるんだ!それの何がおかしい!」
はいはい、夢が大きくていいですねー。でも夢じゃ食ってけないのよ。
「残念なシグマの思考は置いといて。とにかく魔女は倒された。その魔女が最後に残した言葉。
『私は、私を裏切った人々を許さない。私の手でこの世界を終わらせてやる。そのために私は蘇る。二百年後、流れ星と共に……』
そして魔女は倒れた。それで国に平和が戻ったんだ。でも悲しい風習と、魔女の予言は言い伝えられて今でも残っている。
これでいいかな。『歴史』っていうより『伝説』に近いけど、文献も結構あるから事実のようだね」
「ねえ……ちょっと聞いていいかしら……?」
すごく嫌な予感がする。そしてそういう予感って、すごくよく当たる。
「まさか私の来た日、流れ星とか流れてないよね……?」
「そのまさかだよ。君の来た日の午前一時、流星群が観測された」
間が悪かったんだな。かわいそうな私。
何にせよ私が魔女と呼ばれる理由が分かった。そしてそれはどう考えても私が原因じゃない。
だから何を言われても堂々としていようと思う。私は魔女じゃないもの。
でも一つ気になる。私の前にここへ来て、倒された『魔女』の事。
彼女がなぜ村人を殺したのか。そして彼女が残した『裏切った』という言葉。
何でだろう……私には『裏切り』という言葉が、何故か他のどんなひどい言葉より悲しいのだ。
私の失くした過去に、何か関係があるかもしれない。
「ねえナイト、私もっと知りたい。『災厄の魔女』について」
私がそういうと、ナイトは困った顔をした。
「この国の教科書には、今俺が話した所くらいしか書かれていないんだ。だからこれ以上は……」
……だめか。あまり重要視されてない単元なのだろうか。
「……クラスメイトに聞いても石ぶつけられるだけだろうし、もう少しナナちゃんには人脈が必要かな。
そうだ、今度全クラス合同授業があるらしいよ。何の話なのか知らないけど人が多く集まるわけで。
君と一度話してみたかった人とか多分いるよ?まあ博打だけどもしかしたら友達が増えるかも」
人が多いと孤立しやすい。だけど分母が増えるんだから一人や二人、私に興味のある分子がいてもいいんじゃない?
「俺を置いていかないでくれないか!」
あ。シグマの存在自体すっきり忘れてた。
「分からないところも聞いたし!もう自由の身だ!てなわけで……」
シグマが懐(制服の内ポケット)から短剣を出した。
「魔女!今日こそお前を倒してやる!」
「フェイントにも程がある!」
To Be Continued?