Scene5.
頑張って探ししたけど、結局本が見つからなかったその朝。
私は一階へ降り、キッチンへ向かった。朝食を作らなきゃ。作ってからナイトを起こせばいいだろう。
しかし、食料庫を覗いた私はナイトの部屋に怒鳴り込んだ。
「キッチンがやたらにキレイだなと思ったら食料何にも無いじゃない!食材どころか砂糖!砂糖もないわよ!」
ナイトは驚いてベッドから飛び上がった。吹っ飛んだモノクルを探しつつ言う。
「あー……最近買い物に出てなかったからね。食べ尽くしちゃったのかな?」
「いつから食べてないの!ゴミ箱もコーヒーのカスくらいで、食べ物を食べた形跡がなかったわ」
「あー……動かないから腹も減らなくてね。三食コーヒーの時もあったねえ」
「コーヒーは『食』に入らんだろう」
私はため息をつく。このままでは朝食は作れない。そしてこいつの食生活も何とかしなければならない。
「……買い物、行って来て」
私がそう言うとナイトは嫌そうな顔をした。
「やだ。そういうのはナナちゃんの仕事でしょー」
「行って来るにも食料店がどこにあるのか分からないし、下手に一人で村を歩くと魔女狩りされかねないわ」
それでもいいの?と聞くとナイトは諦めたような表情で言った。
「……分かった、連れてくよ。あんな村にも信頼できる店が一軒だけあるんだ」
そう来なくっちゃ。それに知り合い約一名じゃ少々さみしい。
誰かと仲良くなるチャンスかもしれない!
「ここからまっすぐ行くと『エルメール』って店がある。色んな物売ってるから、欲しい物はたいていそこで揃うよ」
森の入り口。でも、昨日私が通った道ではなかった。
「この村、広いのねー。昨日村中歩いたと思ったのに知らない場所に出るなんて」
「村という言葉が相応しくないレベルでだだっ広いんだよ。森とかあるからかな」
喋りつつしばらく歩くと、赤い屋根のかわいらしいお店が見えてきた。
「あそこだよ、『エルメール』は」
「……大丈夫かな。私『魔女』とか言われてるんだよ?叩き出されたりしない……?」
昨日の事があったから。表面上強がってても、やっぱり不安だった。
「大丈夫だよー。俺、この店の店員と知り合いだからさ」
なんだ。だったら大丈夫だ。……ナイトがその人の事を勝手に知り合いだと思い込んでない限り。
店に入ると、かわいらしい店員さんがいた。年はナイトと同じくらいだろう。
知り合いの店員さんって、あの人の事だったりして。
「いらっしゃいませー……ってナイト!?そちらの方はまさか……」
「噂の『魔女』だよ」
店員さんは驚いたような顔をしていたが、やがて表情を緩めた。
「……全然魔女っぽくないじゃない。村の人たちは必要以上にビビり過ぎなのよ」
そして私の方を見て聞いた。
「あなた、名前は?」
私が返事に困っているとナイトが代わりに答えた。
「記憶喪失なんだ。だから『ナナ』とでも呼んであげて」
「じゃあナナさん、ここの店ではあなたを魔女扱いなんてしないから。だからいつでもお買い物にいらっしゃい」
店員さんは微笑んでいた。
嬉しかった。こんな村にだっていい人はいたんだ。
「ありがとう、ソフィア。この店に連れてきて正解だったよ」
店員さん――ソフィアさんは笑いながら答える。
「私、人を噂で判断するような事はしないよ。百聞は一見にしかず。会ってみなきゃ分からないでしょ」
「いい心がけだ!よーし、今日は色々買ってくよ。大奮発だ!」
「ありがとうございまーす!」
こうして私たちは上機嫌で生活費の限り食料やその他もろもろを買いまくった。あと塩も。
「生活費には|光熱費(ランプの油代)や水道代、被服費も含まれるのよ?」
「はい……」
「食料とか消耗品ばっかりあったって、暮らしていけないのよ?」
「存じております……」
「どーすんのよこれから先!今月どころか来月の生活費まで全部使っちゃって!赤字よ赤字!」
「ナナちゃんだって浮かれて買い物してたじゃないか!」
「うぐ……でっ、でも!十袋も砂糖はいらないでしょ!」
「備えあれば憂いなしっていうじゃん!」
「備えすぎで憂いるんじゃ本末転倒でしょうが!」
「はいはいはい!覆水盆に返らず!使っちゃったもんは戻ってこない!」
ソフィアさんが止めに入る。
「ソフィア~……とりあえず砂糖九袋返品したいんだけど」
「『エルメール』では不良品以外の返品・交換は受け付けておりませーん!」
ナイトの要求は退けられてしまった。まあ自業自得って奴なんだけど。
色々と協議した結果、私が四月まで『エルメール』でバイトして生活費を何とかする事になった。
いやはや、家政婦も楽じゃない。アホなご主人様のせいで。
(そういえば、何でバイト四月までなんだろう……?)
To Be Continued?