Scene4.
「さあ、どこからでもかかってらっしゃい!」
私は今、ナイトの書斎に立ち向かおうとしている。
ここまでの道のりは長かった。
やっぱり本を探すならまず書斎からだろう。そう思って書斎へ向かおうとした。
しかし、廊下に溢れるゴミ達が私の行く手を阻んだ。
それに書斎は屋敷の一番奥だった。
片づけつつ進むのにどの位かかっただろうか。屋敷にはあまり時計が置かれていないので分からないけど。
そしてやっと書斎の扉までやってきたのだ。
早速扉を開けようとした私の頭に、ふと悪い予感がよぎった。
「廊下の有様からしても、中が片付いているとは到底思えない。……崩れてきたりして」
もし崩れてきたら私は確実に下敷きだ。でも開けないと書斎には入れないわけで。
少し考える。三秒後、私は迷う事なく扉を勢いよく開けて素早くその後ろに隠れた。
予想通りだった。ものすごい音に伴い、大量の本が崩れてきた。
扉の陰から、私は雪崩の一部始終を見守っていた。
その時。金色に光る何かが雪崩れと共に落ちてきて、私の足元に転がった。
それを拾い上げる。金色の懐中時計だった。魔法陣を模った装飾。いかにも魔法使いが持っていそう。
あとでナイトに渡しておこう。私はそれをエプロンのポケットに入れた。
雪崩れた本を、題名を確認してから廊下の隅に積み上げる。
『美味しいケーキの焼き方』や『星占い指南書』など、目的の本とはかけ離れたものばかりだ。
積み上げていくうちに廊下に崩れた本は片づけ終わった。やっと中に入れる。
それにしても、どう散らかしたらこんな雪崩が起こせるのだろうか……?
書斎に入り、中を見渡す。高い天井の近くまである大きな本棚。今は空っぽだが、その最上段まで本が入っていたのだろう。
そして高い位置の本を取るためだろう。脚立がいくつかあった。
そして床を埋め尽くす本やその他もろもろ。よく見ると服まで埋まっている。これ、ナイトの上着じゃない?
こんな所に脱ぎ捨てたらダメじゃないのと思いつつ、上着を引っ張る。どこかで引っかかっているようだ。
さらに引っ張ると、やっと出てきた。……ただし、本体付きで。
「あれ……何か明るい……ってナナシちゃん!?」
「あらびっくり。上着を掘り出そうとしてたのに魔法使いまでついてきたわ。どういうキャンペーン?」
「キャンペーンでも何でもないよー。昨日の夜、本を読んだまま寝てたら突然雪崩れて埋まっちゃったんだよ」
ナイトが周りの本をどかし、乱雑に積み上げる。
「ありがとね、掘り出してくれて。あのまま本に埋もれて死ぬのはさすがに嫌だし……でもさ」
ナイトが私のポケットからさっきの懐中時計を引っ張り出し、文字盤を私に見せて苦笑いした。
「いくら何でもこんなに早く起こさないでもいいでしょ。時間の感覚大丈夫?」
時計の短針は五を指していた。窓の外を見ると、太陽は東の空の低い位置にいた。
「はっ……早起きは健康な生活の基本でしょっ!」
「この世界と君の世界では時差があるようだね。てなわけでこれあげるよ」
ナイトは懐中時計を投げてよこした。
「いいの?こんな高そうなモノ」
「大丈夫だよ、全然お高くないから。その時計は確か三年前に行商人から買ったんだけど、多分千レイス位だったと思う。
……あっ、レイスっていうのはこの国の通貨で、五百レイスでパンが一袋買える位」
安すぎるだろ。売れ残りだったのだろうか……。
「じゃあ、ありがたく貰っとくわ。起こしてごめんね。でもちゃんと部屋で寝なさいよ。朝ごはんできたら起こすから」
了解、とナイトは書斎からふらふらと出て行った。私は片づけを再開した。
結局、『禁止魔法』の本は書斎には見当たらなかった。恐らくナイトが何処かに埋もれさせたのだろう。
それに、時計を見るともう午前十時。そろそろ朝食を用意しないと。
本探しは第二ラウンドに持ち越しか……はぁ
To Be Continued?