表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

Scene15.



 図書室は立ち入り禁止になっていた。

 やっぱり昨日の事件―――『禁止魔法之書』が破かれていた事件―――の影響だろうな。

 フィオナさんに紹介された二人の内の一人、図書委員のアリスさんに会いに行こうとしていたのに……。

「それなら今日はアリスさんは諦めてシェーラさんの方に会う事にしよう。うん、それはいい、そうしよう!」

 ナイトがものすごい勢いで提案した。

「どうしたの?図書室に行きたくない理由でも?」

「いや……ちょっとね。」

 ナイトの目が泳いでいる。何かあるのだろうか……。

 でも今は案外どうでもいい事だ。今日は図書室行かないし。

 シェーラさんはいつも資料室に入り浸ってるという情報もフィオナさんから手に入れておいた。

 図書室のひとつ上の階。廊下の端に資料室はあった。

 中は薄暗く埃っぽい。背の高い本棚や山積みの段ボール、狭い通路が異様なまでの圧迫感を醸し出していた。

「あら、珍しい。ここに誰かが来るなんて……」

 小さな窓の傍に置かれた椅子。そこにシェーラさんと思しき人が座っていた。その傍には本を持った眼鏡の男子。ただならぬ雰囲気。

「シェーラ=グレイスさんですか?」

 そう聞くと彼女はええ、と返事をして少し笑った。ナイトが「空気読もうよ……」と呟いているが無視。

「私に何か御用?」

「風紀委員のフィオナさんをご存じですよね?私、『災厄の魔女』について色々知りたい事があるんです。

 それで彼女に相談したところあなたを紹介されまして」

 それを聞くとシェーラさんはまた微笑む。そして眼鏡の男子に向かって言った。

「ルナ、確か何冊かここにも魔女関連の資料があったはずよ。持ってきてくれる?」

 ルナと呼ばれた男子はコクンと頷き、狭い通路へ消えて行った。

「彼はルナ=クインズ。幼馴染なのよ。無口だし無愛想だけど、優しい子なの」

 あ、お惚気のろけは結構です。

 しばらくしてルナ君は何冊か本を抱えて戻ってきた。

 ありがとう、とシェーラさんが言うと彼はうっすら嬉しそうにする。カップルというよりは飼い主と従順な犬って感じだな。

「『災厄の魔女』――彼女の持つ魔力はとてつもなく凄かった。今、大魔法使いと呼ばれている人達とも比べものにならないくらい。

 彼女は自分を温かく迎え入れてくれた村人たちの為にたくさんの魔法を教えて、またその魔力で人を救っていったの。

 だけどね……ちょっとやりすぎてしまったの」

「やりすぎる……?」

「そう。彼女は人の生死や時空や運命までを変えてしまう程の魔力を持っていたの。そしてそれを村人たちの為に使った。

 例えば死んだ人を生き返らせたり悲しい過去を書き換えたり不幸な人の運命を好転させたり……そんなの見てて、村人はどう思う?」

 どう思うって……普通なら『怖い』って思うだろう。

 幸せにしてくれるのかもしれないけど、でも……何かしら恐れを抱くのではないだろうか。

「そうよ。でも他の要因もあったの。主に医者や宗教関係者から反感を買ってしまったの。何故だと思う?」

 えーと、彼女は死人を生き返らせたり不幸な人を幸せにしてあげたりした……あ、分かった。

 彼女が死人を生き返らせてしまえば医者は必要なくなるし、

 彼女が不幸な人をみんな幸せにしてしまえば祈らなくていいし神様も宗教も必要ない。

「理解が早くてありがたいわ。まあそういう事で彼女はありがたがられる反面疎まれてもいたの。

 そういう気持ちってね、生まれれば初めは小さくてもだんだんと増幅していく。

 集団意識も相まって彼女は狩られそうになった。そして彼女は自分を守るため彼らを殺し、別の村へ旅立ったの。

 そしてそっちでもやっぱり同じような事が起こってね、嫌気がさした彼女は森に住み、人と会わなくなった。

 でもその時、色んな災害が重なって起こってしまったの。人々はそれを魔女のせいだと勝手に思い込み、勇者を送り込んで退治してしまった。

 彼女の予言の意味……よく分からないけれど、あなたに関係があるような気がするわ。偶然にも程があるもの」

 そう言ってシェーラさんは私を見つめた。二百年前の人と私に何の関係があるんだろう。しかも生きる世界も違うのに……。

「もう少し色々調べてみるわ。何か分かったら教えてあげる……ここに誰かが訪ねてきてくれたのが嬉しいの。

 ……そろそろお帰りなさい。もうすぐ授業よ」

 シェーラさんは微笑を浮かべた。ルナ君は黙って本を片づけていた。

「何ていうか……大人っぽい人だったわね」

 教室に帰る途中、私はナイトに言った。

「彼女さ、何か思惑がある気がするんだけど」

 ナイトは、こちらに顔を向けずに言った。

「何となく思った事に過ぎないんだけどさ、彼女が君に協力しようとしてるのは何か興味以外の別のものがある気がするんだ」

「そ……そう?考え過ぎじゃない?」

「そうだね。考え過ぎかもしれないね。でも君はここにいる限り『魔女』なんだ。

 君を忌み嫌ってるだけの連中なら放っておけばいいけれど、親切なフリして利用したり本当に殺しに来たりする奴が出て来るかもしれない。

 もう少し危機意識を持つべきだよ。もし君が狩られたら、俺が生活して行けなくなるなっちゃうしね」

 またそれですか。全くこれだから社会生活不適応者は。

 しかし、ナイトはこんなに他人を疑う人だったかしら?

 私は無表情なナイトの横顔に、違和感を覚えた。

 To Be Continued?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ