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Scene11.


 実にどんよりとした曇りの日の事。

「ナナちゃん、君の家事能力はハンパじゃない。それは俺が保証するよ」

 ナイトがそう言って近くの部屋を指さす。

「チリ一つない床。ピカピカの窓。本は全てサイズを揃えて著者別に本棚にしまわれてる。壁の画鋲の跡は目立たないようにキレイに埋めてある。

 いつでもお嫁に出せるこの凄さ。だけど……」

 振り返るナイトの目には涙が浮かんでいる。

「どうして俺の部屋は掃除してくれないの!」

 ナイトが示した部屋と反対側にある『ナイトの部屋』、通称『ブラックホール』。

 部屋の扉の前の種種雑多な物達(バリケード)が行く手を拒む。バリケードと中からあふれ出す瘴気に私は何度も進入を諦めた。

「自分の部屋くらい自分で掃除しなさいよ」

「それ以前に部屋に入れないんだよ。何か瘴気がすごくてさー、十秒で俺倒れちゃうの。だからバリケード作った」

 故意に作ったのかよ……

「それは私は瘴気にやられてもいいってことかしら?」

 ナイトは少し考えてから笑って答える。

「君ならこの程度の瘴気にやられたりしない……って事にしといてくんない?」

 私は何も言わずに微笑んだ。そして笑ったままナイトに金属製のバケツを投げつけた。

 一つため息をつき、『いつでもお嫁に出せる女』はバリケードを突破しにかかった。

 要するにバリケードを雪崩れさせればいいわけだ。最下層に位置するゴミ袋をいくつか引っ張り出すと、バリケードはいとも簡単に崩れた。

 雪崩れたゴミ袋は向かいの部屋に置き、本は題名を見てから積み上げる。

 今まで何度も繰り返してきた作業。あっという間にバリケードの解体に成功した。

 バリケードが抑えていた分の大量の瘴気が一気に押し寄せる。さあ、未知の世界に足を踏み入れようじゃないか。

 私は試練に立ち向かうかの如くブラックホールに突入した。

 部屋はカーテンが閉め切られていて真っ暗。ランプも無いのでドアから入る光が唯一の光源だった。

 床を埋め尽くすゴミや本。よく見るとガラスの破片なんかもある。そして何だか息苦しい。汚さは書斎以上だろう。

 時折何かがガサゴソと移動する音が聞こえてくる。正体は……できれば知りたくないかな。

 ゴミを拾い、本を積み上げ、私は奥へと突き進もうとした。しかしどれだけ片づけてもキリがない。

 七袋目のゴミ袋の口を縛った頃、ようやく床全体が見えるようになった。雑巾で拭けば床は終了だろうか。

 でもまだ家具にもゴミが天井近くまで積み上がってる。手元にあるゴミ袋は残り三袋。足りるかな……。

 ゴミ袋のおかわりを取りに行こうとすると、ナイトの机の下に何かが落ちていた。

 拾い上げるとそれは写真たてだった。この世界にも写真ってあるんだな。

 埃をかぶったそれを手で払う。舞い上がるホコリにせき込んだ。

 写真の真ん中にいるのは笑顔のナイトだった。何年か前の写真なのだろう。セピア色の彼は少し幼いように見えた。

 彼を取り囲むように並ぶ同じくらいの少年達、そしてその後ろにはナイトによく似た女性が微笑んでいた。これは彼の母親だろう。

 何だか見てはいけないものを見てしまった気がした。

 写真たてを元の場所に戻そうとした私はある事に気づいた。

 写真の背景。この辺では見かけない木がたくさん生えている。家などの建築物もどことなくつくりが違う。

 ここはナイトの故郷なのだろうか。彼はここに元々住んでいたわけではなかったのだ。

 じゃあ何故彼はわざわざこんな森に友人や母を故郷に残して住んでいるのだろうか。

 きっと学校に通うためとか、魔法使いの修行とか、そういう理由だろうか。そうである事を祈った。

 ナイトとの関係は一応ご主人様と家政婦(この言い方には実に違和感を覚えるが)。あるいは友人関係。

 でも私はこの世界の人間じゃない。つまりいずれはここを去る人間だ。その時は今の関係もなくなる。

 だから誰かとそこまで深く付き合うつもりはない。当然、ナイトの個人的なあれやこれやに口を出すつもりは毛頭ない。

 それでいいじゃないか。それが最善なんだ。私にとっても、私に関わる人たちにとっても。

 いつか私の世界に帰る時、みんなとは何の後腐れもなく笑って別れる。そして忘れていく。それでいい。

 私は写真たてを机の裏に隠す事にした。これはナイトが見つけるべきものだ。

 ところが、うまく入ってくれない。何かが詰まっているようだ。

 詰まっているものを引っ張り出す。埃だらけのそれは――

 『禁止魔法について』

 その時には、私の頭からナイトの写真たてのことは吹っ飛んでいた。

 To Be Continued?  

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