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二つのキーホルダー

 オレは隣りにいる真夏をちらっと見た。

 レンガの建物の中に制服姿というミスマッチに見える組み合わせだったが、そんな違和感を感じさせない様子だった。

 バックの噴水が似合うせいもあるかもしれない。

 このヨーロッパ風の建物が建ち並ぶ道のちょうど中心に置かれた噴水にはベンチがあり、休憩する人や待ち合わせの人々が集まっていた。

 同じ学校の生徒の姿もちらほらと見受けられる。

「先におみやげ買いに行かない?」

 そう口を開いたのは菜月だった。

 へ? 何だって? 

 た、確かに学年主任のじじいが言ってたけどさぁ……。


「帰りは絶対に混むので、お土産は先に買っておくのがよいでしょう」


 ってな感じで偉そうに。しかも得意気に。

 あんたに何が分かるってんだ。下見しただけだろう?

 おもいっきり遊んだあとに余韻に浸りつつ買うお土産がどんなに良いものなのが知ってんのかよ。

 「今日楽しかったね」っていいながら買うお土産がどんなにいい思い出になることか。オレはそれを小学校の時の修学旅行で学んだぜ。

 お揃いにしよっ。っつって友達と同じもん買って学校に持ってってたんだよ。そしたら思い出すだろうが。

 先にお土産買うとかアホだね。半分は損してるよ。

 だから最後にしようぜ?

 おもいっきり「え~!」という気持ちを全身に込めた態度をとる。このときのオレはさぞかしガキっぽく見えたであろう。

「先生も言ってたし先に行こっ?」

 オレの心の叫びは通じなかったらしく、菜月がさらに押す。

 だから、何故先生の言うことを鵜呑みにする。

 確かにすいてるとは思うよ? その点は認める。でもさあ、楽しみってもんがあるだろ。遊び終わってから買うからこそのお土産だろ。

「私はいいよ?」

 え~っ。かわいい顔で賛成しちゃったよ。好きな人に向かって失礼だけど、あんたアホでしょ?

学年トップといっても大したことないな。

 楽しみかたの知識はオレのが断然上だ。まあ勉強は中の上といったところだけどな?

「そうだな」

 トシ、おまえまでもかっ!

 おまえとは親友だと思ってたのに……。くそっ。


 ということで多数派意見に従い、先にお土産を買うことになった。

 ちなみにあのバカップル二人は「どっちでもいいよ」と、特に小林は準以外興味ないといった風で、ずっとイチャイチャしていた。

 まさに「ラブラブチュッチュ」という言葉が一番しっくりくる様子だった。


 そして一軒の店の前に来たときも二人は「ラブラブチュッチュ」していた。正確にいうとチュッチュはしていない。

 これは二人のラブラブ度合を表すもので、実際の行動とは異なる場合があります。ご了承下さい。

 それにしても熱いお二人さんだぜ。こっちが恥ずかしくなってくるぐらいだもんな。

 付き合い始めてもうすぐ一年ぐらいじゃないか? そう考えると長いよな。準だけに純愛ってやつだな。

 …………っう、うん。

 まあ、つまりだな。準は不良だからってチャラチャラと女の子をとっ換えひっ換えするようなやつじゃないって事だ。


 さてみんなの意見に従い、渋々とついて来たわけで。

 オレはみんなと数あるうちの一軒の店の前に立っているわけだが。この店もレンガでできていて、やはりファンタジーの世界を思わせる。かわいいコビトでも出てきてもおかしくない雰囲気だ。

 数あるうちの一つに何故この店をみんな(主に菜月だろう)が選んだ理由はなんとなく分かるような気がした。

 まず一つ目、見渡す限りではこの店が一番大きいため。

 二つ目、店の見た目が目立つしかわいい。

 どのようにかわいいのかというと、看板が丸太のような形に形どられた物で、その上には「ディティニーワールド」のキャラクターである、リスをデフォルメしたような姿の「ハイド」と「チョコ」がちょこんと乗っている。「ハイド」はさながらカーボーイのような帽子をかぶっていることからオスと思われ、「チョコ」はピンクのリボンを頭に乗せていることからメスだと思われる。

 そして、そのかわいらしい看板には「DitenyWorld SHOP」とやはり可愛らしい字体で書かれていた。それはケーキに文字を書くときのように書かれており、かじったら甘そうだ。チョコの味とかすんじゃねーかな。

 まあ話は多少逸れたが、おそらくこの二つの理由から選んだのだろう。

 どんな物事でも見た目は大事だからな。

 準は文句なくかっこいいし、紗希だって化粧で誤魔化している部分も多少はあるだろうがまあまあ可愛い。だから付き合ったのだろう。もちろんそれだけでは決して無いんだろう。

 それはオレもよく分かるよ。なんで水野真夏のことが好きなのか自分でもよく分からんからな。

 オレはかわいらしい看板をちらっと見やってから、みんなに続いて店の中へ入っていった。

 店内の広さはコンビニの約二倍くらいで、棚には沢山の「ディティニーワールド」のキャラクターのグッズやら、お土産用のお菓子などが並んでいた。

 意外に人いるじゃん。

 まあ、帰りはこの倍以上になって店内を移動するのもままならないんだろう。それとくらべたら悠々移動できるスペースは空いているし、混んでいるとゆうことにはならんのだろう。

 オレは足を進めた。

 かわいいキャラクターのぬいぐるみやらキーホルダーが基本的に目立っていて、店内はかわいらしい雰囲気で、童心を思い出させるような暖かい気持ちにさせてくれる。

 なんかよう分からんがワクワクしてくんな。ちっちゃいころ誕生日の前日ってこんなような気持ちだった気がするよ。

 オレはワクワクすると同時に懐かしい気持ちに浸っていた。それは誕生日の前日、またはクリスマスにサンタを待つような子どもの気持ちに似ていた。

 みんなは思い思いに店内をまわっているようだった。

 じゃあ、オレも自由にさせてもらうとするか。

 オレも店内を歩き始めた。

 オレは迷わずある場所を目指した。オレは来る前から買うものは決めていた。少し当初とは予定が狂ったがかまわない。むしろ好都合かもしれない。

 オレが向かった先は、キーホルダー類が沢山並んでいるゾーンだった。かわいらしいキャラクター達がオレを出迎える。

 みんなこっちを向いて、「僕を一緒に連れてって」と懇願しているようだった。

 くそぅ。このかわいさは犯罪だな。そんな目で見つめられたら買わずにはいられんだろ。ある意味での脅迫だろ、コレ。

 だが、オレは二つしか買わんぞ二つしか。お前らの脅しになんか乗ってたまるかってんだ。

 オレは綺麗に並べられたキーホルダー群を見たり手に取ったりしながら吟味した。

 クマのようなやつや、ネコやらが目についたので動物系ばかりかと思いきや、おばけやドラゴンなどもあって、やはりファンタジーの世界だなと思った。

 こいつらは相変わらず「買って、買って」と訴えてきやがるな。それこそ捨てられた仔犬か仔猫みたいにな。くそっ、そんな目で見んじゃねぇよぉ。

 でもなんで二つかって?

 それは、水野にあげるためだ。

 本当は告白が成功してから買って渡そうと思ってたんだけど、予定が狂っちまったからな。こうして今買ってるわけ。

 でも先に買ったからには絶対に告らなきゃって思うよ。そこで先ほどの「むしろ好都合かもしれない」につながってくるわけ。

 まあ成功しなかった場合(そんなこと考えたくないけど……)、同じもん二つ持って帰ることになるんだけどさ。その時は妹にでもあげるよ。

 オレは吟味した結果、この店という名のダンボール箱から助け出してやる捨て犬を選び出した。

 まあ簡単にいうとニワトリをデフォルメしたようなやつだ。片方はトサカが青で、もう一方はトサカがピンクのやつ。こっちを水野にあげよっ。

 何よりの選出理由は目が飛び出してておもしろかったからだ。

 選ばれなかった捨て犬達はこちらを怨めしそうに見上げていた。「なんで私じゃないの?(うるうる)」とでも言ってそうだった。

 くそっ。そんな目でオレを見るな! 

 そう心の中で叫んで目を逸らす。

 もう一度見る。

「くそぉお!」

 これでいいだろ、これで! もう許してくれー。

 オレの右手にはネコが黒いハットをかぶったようなキーホルダーが握られていた。

 結局キーホルダー達に負けてしまったオレはあきらめてこの場をさろうと回れ右した。

 なっ、なななっ……!

 おいおい、まじかよ。オレは言葉も発することができなかったね。直立不動で口をあんぐり開ける様はさぞかし間抜けに見えただろうよ。

 あろうことかそこには水野が立っていたんだよ。

 口をあんぐり開けるオレを不思議そうに覗きこんでいる水野。確かにかわいいんだよ。かわいいんだけどさ。

 この状況でオレは何を喋ればいいの? 告れってか? 無理だよ、無理無理。こんなとっさに、心の準備が出来てないオレにそれを望むのは酷なことだぜ。

 そんな様子でテンパっているオレだったが、幸いなことに向こうから口を開いてくれた。

「どうしたの? そんなに買って。しかも二つは同じものだよね」

 くすっと笑う水野。

 かわいい……。思わずドキッとしちゃったよ。

 って、そんな場合じゃねーんだよ。状況悪化だよ。

 まさか「あなたのために買ったんです。付き合ってくださいっ!」とは言えねーしよ。さっきも言ったが、オレみたいなチキン野郎に心の準備なしで告れっていうのは無理なんだよ。恥ずかしさで死んじゃうよ。

 となると必然的に嘘をつくという結果にたどり着くわけで。

「妹にお土産でさ」

 こんな嘘しか思いつかなかったさ。オレの頭はどうやら残念の塊でできているらしい。

 実際、あなたに振られたら妹のものになってしまうかもしれないんだけどな。そうならないように最前はつくすけど。

 途端、水野は目を細めて先ほどよりも笑顔になり一言。

「優しいんだね」

 オレは一瞬胸が締めつけられたような感覚に陥った。しかし、それは苦しいものではなく、むしろ心地よさのようなものを感じた。

 そしてその後にくる、鼓動の高鳴り。

 オレの胸はキュンキュンドキドキだった。

 なんつー笑顔だ。しかもそれで「優しいんだね」だぞっ。モテない男なら勘違いしちまってもおかしくねえよ。

 まあ、生憎オレはネガティブ心配性野郎だから勘違いなんかはしないし、したくてもできない。ネガティブな心が邪魔してきやがる。

 でもなあ……。オレはこの一言をまた聞きたいと思ったし、この笑顔を毎日、毎日見たいと思ったんだよ。

 そして、オレが水野をこんな笑顔にさせてやりたい。そうも思った。

 この思いを伝えたいとも思った。つーか伝えてやる。今日、この「夢の世界」で。



 そのあとオレは家族に持っていってやるためのお土産を選んでいた。

 オレが今日持ってきた財布には一万円と小銭がちょっと。学校の決まりで一万円と決っているのだが、それ以上持ってきているやつは多い。むしろそちらの方が多い。オレみたいなのは少数派だ。

 てか、一万円ぽっちじゃ足りねーだろ!

 オレの親は決まり事とかには特にうるさくてな。一万円つったら一万円って譲らない人なのよ。

 あんたらにも買っていくんだからその分ぐらいは出せよっつー話っすわ。

 まあそんな事が言えるわけがなく……。だってそんな事言おうもんなら「じゃあ出さなくてもいいんだからね」ってなりかねんし。

 一応こっちは貰ってる立場だし、少なくとも感謝はしてる。

 つーことで、この財布の中身を一日どうやってやりくりするかだな。

 さっきのキーホルダーで千円と五百円強使っちまったから、残りは九千円弱といったところか。

 くそー、この野良ネコめ。余計な金使わせやがって。

 オレは買いもの籠の中に入っている、小洒落たハットをかぶったネコのキーホルダーを一瞥する。「けけけっ、ありがとな」とでも言ってそうだ。

 まあ使っちまったもんはしょーがねー。諦めて次のこと考えよ。

 オレは思案の結果、菓子でも買っていくことにした。

 一人一人に何か選んで買っていくのはめんどくさいし、金がかかる。菓子なら一箱買えば全員分になるし、個別に買うよりは安く済むからな。

 それで、オレは菓子が売っている一角にいるのだ。

 キャラクターが描かれた箱や缶。さらにはキャラクターの形をしたクッキーやチョコなどまであった。

 これなんか可愛くていいんじゃないかな。

 オレは透明な箱に入っているお菓子のサンプルを見て思う。包装はハロウィーン調で、それに入っているクッキーは可愛らしいおばけの形をしている。

 なんだか食べてしまうのも申し訳ないぐらい細かくつくられている。

 っていうか、さっきから気になってはいたんだが、オレの横にいる子。どう思うよ。

 いや水野が横にいるからって困っているわけではないんだよ? むしろ嬉しいし、良い意味でドキドキしてる。

 笑顔で楽しそうに買いものしてるようだしオレとしてはめちゃくちゃいいんだよ、この位置関係。

 その笑顔はすっごくかわいいし、それを真横から、しかもこんな近くから見れるんだから。正直、油断するとずっと見とれてしまいそうなほどドキッとしてる。

 ……だがなあ、オレのそんな心配はすぐにふっ飛んじまったよ。

 彼女の買いもの籠を見てみろ!

 まず、高々と積み上げられたお菓子の箱タワー。数にして十箱弱くらいはある。そしてその周りを装飾するキーホルダー群。これはオレの位置からは全体を把握することはできないが、タワーに隠れている分も考えると十四、五個といったところだろう。その他にクリアファイルやシャーペンなどの細かいものもある。

 どっからそんな金が出てくんのよ! とても一万円では足りん額だぞ。

 ……そういや、水野の家って金持ちなんだっけ。勉強ができるってイメージが強いから時々忘れる。彼女が金持ちですよオーラを出してないっていうのもある。

 でも今回ばかりはばんばん出てるけどな。

「水野、なんでこんなに沢山買ってるの?」

 オレは少し緊張しながらも疑問に思っていたことをついに口に出した。

 水野は突然のオレの言葉に少し驚いたようにこちらを向く。さっきから隣りにいたとはいえ言葉は交わしてなかったからな。

 ていうか顔近っ!

 真横にいるってのは分かってたけどこんなに接近していたとは。人の頭一個分くらいしか間がないよ。

 ともあれ、少し当惑した顔も凄くかわいい。

 水野はどんな表情をしててもかわいいな。そう思うオレは恋の病にかかっているのかもしれない。否定するつもりはないし、それはそれでいい。

 オレが質問してから三秒ほど間があいてから水野が口を開いた。

「ま、まあいろいろだよ? 親戚の分とか部活の後輩の分とか」

 水野は目を細めて笑顔になる。

 ふむ、なるほど。それでこんなに買っていたのか。やっばり水野は優しい。

 にしても、この量は多くないか? 「後輩一人一人に一箱ずつ買っていくわけじゃ……」とオレはいつのまにか声を漏らしていた。

「えっ……そうだけど」

 ですよねっ。当たり前ですよね。あなたがそう言うならそれが正しいですよ。

 やっばり優しいよね。まあそれもこれもお金があるからこそ成せる技で…………、いやオレ、金あってもそんな事ようせんわ。

 それも後輩の分は親の金じゃなく自分の小遣いで買ったというから驚きだ。オレだったらそんな真似できねーな。水野はそれだけ後輩や家族を大切にしているということなんだろうな。

 人を大切にする、女の子らしい、笑顔もかわいい、こんな子が付き合ってないなんておかしいだろ。

 トシ達と、かわいい子の話になったときも水野の名前は一度たりとも上がらなかった。みんな見る目ないんじゃないの、とさえ思った。

 でもその理由はなんとなく分かる。

 「金持ちで頭がいい」そのイメージがしみついてるもんだから、きっと。とくに「頭がいい」っていうのはあまり良いイメージを持つことはないんじゃないか。

 ガリ勉。真面目。インキャラ。みんなの持つイメージはそんなところだろう。だから、まず恋愛対象に入り難い。

 でも彼女は違う。うまく説明できないけど、そう思うんだ。

 性格、顔、声、仕草、雰囲気、全部、全部、全部。彼女の全部が好きだ。どこが好きかなんて分からない。「金持ちで頭がいい」そんなイメージも全部引っくるめた水野のことが好きなんだ。

 わずか数センチの距離なのに彼女に思いは届かない。そこには目に見えない長い長い道があるようだった。

 果してオレはその道の果てを見ることはできるのだろうか。そんな不安が頭を巡る。

 オレは目の前の彼女を見た。

 間違いなくオレに向けられているその笑顔。胸がキュンとなってドキドキして顔が火照る。

 ずっと見てても苦にならない。

 トシの顔なら十秒ほど見ただけで殴り飛ばしたくなるのにな。同じ人間の顔なのにどうしてこうも違うんだろうか。

 そんな事を思っていると、目の前の彼女がふいに話しかけてきた。

「どうしたの?」

 オレは目が合っていたことに気づき、慌てて目を逸らした。

 オレってたぶんずっと水野の顔見てたよな。絶対怪しまれた。

 オレは今にも焦げてしまいそうな自分の顔を見られないように努める。

 ヤバいって、超恥ずかしいって! 今なら恥ずかしさで死ねる気がするって。

 今、オレが「あー、顔赤くなってる(笑)!」なんて言われたら間違いなく自殺できる自信がたっぷりあるよ? まあ水野はそんなこと言わないだろうけど。

「あー、カズ顔赤くなってる!」

 なんでオレの予想通りのセリフ!? 絶対死ぬ。これは自殺もんだぜ。ヤバいってもう顔大変なことなってるよきっと。だってさあ赤道直下で顔面だけに日光浴びてるような感じだぜ?

 顔から火が出るってこのことだな。この言葉考えた人誰だよ、オレ今すっごく共感してるよ。あんたもこんな気持ちだったんだな。最高の比喩表現だぜ。

 ヤバい、熱さで思考までおかしくなってきやがった。

 もう死がオレを迎えに来たようだ。じゃあなみんな。

「な~に顔赤くしちゃってんの?」

 ばんばんと肩を平手で叩かれる。

 そしてオレは生き返る事ができた。

 それにしてもいてぇな。水野は絶対こんなことしないと思うんだけど。

 オレは犬が顔についた水を飛ばす勢いでかぶりを振った。そして、そっと目を開ける。

 そこにいたのは猛暑日の太陽のように笑顔の菜月だった。バカにしたようにはっはっはと笑い声を上げている。

 そしてとどめの一言を放った。

「どうせエッチなこと考えてたんでしょ?」

 な、何を言ってんだコイツは! オレが好きな人の目の前で裸を想像してたとでもいうのか? あっ、それは言ってないか。オ、オレはかわいいと思っただけでそんな想像なんかしてないよ!?

 ってかなんでオレの好きな人の前で、オレのイメージがマイナスになるようなこというの。確かに菜月はオレが水野のこと好きってこと知らないけどさ。

 それにしても酷くない? 仮にオレが水野のこと好きじゃなくても言っちゃ駄目だろ。女の子は普通そういうの言われたら引いちゃうんだよ。

 案の定、菜月の後ろに明らかに引いている水野がいた。

 オレの恋ってここで終わりなの? まだ長い長い道を歩きだしてもないよ。

 早く、早く訂正しなければ。

「ち、違うよ水野? コイツが冗談で言ってるだけだからな?」

 オレは今なお笑顔で笑う忌々しい女を指さして、顔をヒクつかせて言った。

 奈月は関係ねーしとばかりにそっぽを向いた。

 くそ、このアマっ。オレがどんな思いでいるのか分かってんのか? いや、その顔は確実に分かってねぇな。分かってほしくもない。

 くそイラつかせてくれるぜ。

 そんなオレの様子を察したかのように水野が口を開いた。

「うん。分かってるよ……」

 ははは。と笑ったが、その顔は半信半疑のように見えた。

 駄目だ。まだ疑われてやがるな、オレ。そんなに信用できないのかなオレって。悲しくなってくるぜ。ぐすん。

「カズ、これどう?」

「ん?」

 オレが落ち込んだままで顔を上げると、猫の耳が生えた黒いハットをかぶった菜月がこっちを向いていた。

 くそぅ、なんでお前にこんなこと言わなきゃ…………。

「かわいいよ……」

 なんねぇんだよ。

 そんなオレの気持ちをよそにとびきりの笑顔でご機嫌な様子の菜月であった。



今回も読んでくださった皆さん。

本当にありがとうございます!!


次話も頑張ります。

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