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【時空超越の裁定者】崩壊する多層世界を救済する少年と、運命を綴る巫女のクロニクル  作者: ねこあし
第3部『因果の深淵編』

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23/23

第23話:裁定の極致、虚無を穿つ一秒(最終話)

二つの「秒」が交錯する時

 白紙の図書室は、もはやその形状を保てていなかった。


 九条刹那の放つ「透明な炎」と、虚無の王が放つ「漆黒の重力」が衝突するたび、周囲の浮遊する本が次々とページを撒き散らしながら消滅していく。


「……速いな。だが、その動きはすべて既知だ。何万回、何億回と繰り返したシミュレーションの範囲内だよ」


 王が『終焉の秒針』を振るう。それは物理的な斬撃ではなく、対象が「存在するための確率」を削り取る理の刃。


 刹那の視界がノイズのように乱れ、自身の右腕が、存在しないはずの「欠落した未来」へと透けていく。


「くっ……!」


「無駄だ。君の剣筋も、呼吸も、思考の癖さえも、私が過去に切り捨てた抜け殻に過ぎない」


 虚無の王は冷徹に、エントロピーの増大を加速させる数式を空間に刻み込んだ。


 この聖域において、王の言葉は絶対的な物理定数として機能する。


(王は世界の無秩序を無限へと導き、存在を霧散させようとしている)


美遊の祈り、聖典の共鳴

「刹那さん、負けないで……! 彼は『結果』しか見ていない。でも、あなたが歩んできた『過程』は、彼には決して計算できないはずです!」


 美遊が『終焉の聖典』を天に掲げる。


 彼女がこれまでの旅で書き記してきた文字が、光の粒子となって刹那の周囲を舞い踊った。


 それは、鋼鉄の街で交わした握手、極彩色の森で見上げた夜空、灰の荒野で流した涙。


 王が「ノイズ」として切り捨てたはずの、不確実で、けれど温かな記憶の記録。


「……記録、だと? そんなものは脆弱な電子信号、あるいはパルスの残響に過ぎん!」


 王が苛立ちと共に、巨大な漆黒の術式を叩きつける。


 だが、刹那を包む光の粒子は、王の「否定」を透過させた。


 記憶は、もはやデータではなかった。それはこの宇宙を繋ぎ止める、唯一の『愛着』という名の因果へと昇華されていた。


計算不能の「一秒」

「……(ゼロ)。あんたは確かに、僕の『始まり』かもしれない」


 刹那は『一秒の破片』を真っ直ぐに構えた。


 消えかかっていた彼の右腕が、美遊の光を受けて実体を取り戻していく。


「でも、あんたが捨てた『ノイズ』の中にこそ、答えがあったんだ。……完璧な答えなんて、誰も求めていない。みんな、間違えながら、迷いながら、それでも『次の一秒』を信じて生きたかったんだよ!」


 刹那の魔力が、限界を超えて収束する。


 彼は自らの因果を、一本の線ではなく、すべての可能性が重なり合う「点」へと圧縮した。


(存在の確率はゼロではない。刹那は自身の存在を、王の支配領域外へと再定義した)


「――第零法則・超越定義:『連鎖する希望(レゾナンス・ワン)』!!」


 刹那が踏み込む。


 その一歩は、王のシミュレーションには存在しなかった。


 なぜなら、それは「王が切り捨てたすべての自分たち」の想いを受け入れ、統合した一歩だったからだ。


虚無の王の崩壊

『終焉の秒針』と『一秒の破片』が、中心で激突した。


 一瞬、世界から音が消えた。


 白と黒が混ざり合い、中心から虹色の亀裂が走り出す。


「……何故だ。何故、私の刃が届かない……!」


「あんたの剣は重すぎるんだ。……独りで世界を終わらせようとする、その絶望の重さに耐えきれていない」


 刹那は、王の剣を押し返さなかった。


 逆に、自らその漆黒の刃を受け入れ、その「空虚」を自身の内側へと取り込んだ。


「……なっ、正気か!? 虚無を喰らえば、君という個も消滅するぞ!」


「消えないさ。……僕には、物語を綴り続ける巫女がいる。……美遊! 今だ!!」


 美遊が聖典の最終ページを力強くめくった。


 そこには、これまで空白だった場所に、一つの名前が刻まれていた。


『九条刹那』。


 それは王としての称号でも、演算機の型番でもない。


 一人の少年が、確かにこの宇宙に存在したという、唯一無二の署名。


夜明けの静寂

 刹那の突き出した刃が、王の胸元にある「時計の核」を貫いた。


 核が砕け散ると同時に、虚無の王を覆っていた漆黒の鎧が、柔らかな光の粒子となって剥がれ落ちていく。


「……あ……」


 王の瞳に、数億年ぶりに「色」が戻った。


 彼は、自分を貫いた少年の顔を、まじまじと見つめた。


「……そうか。……私は、……君になりたかったのか……」


 王は、満足そうな、ひどく穏やかな表情で微笑んだ。


 彼が長年抱え続けてきた「救えなかった世界」への後悔が、刹那という新たな可能性に触れて、ようやく浄化されていく。


「……次の一行は、君が書け。……さらばだ、……もう一人の、私」


 虚無の王は、朝靄に溶けるように静かに消滅した。


 後に残されたのは、真っ白だった図書室に差し込む、眩いばかりの「本物の朝日」だった。


エピローグ:そして物語は続く

 聖域が崩壊し、気がつくと刹那と美遊は、アレテイアのデッキに立っていた。


 リナと零司が駆け寄り、二人を抱きしめる。


 空を見上げれば、無数に分かれていた並行世界は、一つの大きな「可能性の海」へと還り、穏やかに凪いでいた。


「……終わったんだね」


 リナが涙を拭いながら笑う。


「ああ。……でも、新しい始まりだ」


 刹那は、腰にある『一秒の破片』に手を置いた。


 その剣は、もう折れた破片ではない。美遊の聖典と共鳴し、未来を切り拓くための「一本の輝く剣」へと姿を変えていた。


 美遊が、聖典の最後に新しい一文を書き加えた。


【物語は終わらない。……一秒先は、常に白紙なのだから。】


 二人は、まだ見ぬ明日へと向けて、アレテイアを走らせた。


 裁定者の旅は、これからも続いていく。


 この宇宙が、美しい物語を奏で続ける限り。



『【時空超越の裁定者】崩壊する多層世界を救済する少年と、運命を綴る巫女のクロニクル』


―― 第一部・第二部・第三部 完 ――

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