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【時空超越の裁定者】崩壊する多層世界を救済する少年と、運命を綴る巫女のクロニクル  作者: ねこあし
第3部『因果の深淵編』

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第21話:因果の深淵、始まりの虚飾

虚無の境界線

 次元航行艦『アレテイア』の船体は、これまでのどの戦いよりも激しい「軋み」を上げていた。


 窓の外に広がるのは、星のない、光さえも届かない真の暗黒。あらゆる並行世界の外側に位置する、事象の墓場――『因果の深淵(アビス)』。


「次元圧、さらに上昇! エンジンが悲鳴を上げてるわ! これ以上進むと、アレテイアが『存在』そのものを維持できなくなる!」


 リナが必死に操舵桿を握るが、船体は目に見えない波に翻弄され、霧散しそうになっていた。


「リナ、ここから先は僕がやる。……美遊、準備はいいか」


 刹那が立ち上がる。彼の纏うコートは、これまでの旅で吸収した数多の因果を反映し、深淵の闇よりも深い、星々を内包した「黒」へと変貌していた。


「はい、刹那さん。……聖典の準備は整っています。……この先にあるのは、物語の結末ではなく、『物語が生まれる前の静寂』です」


 美遊が聖典を開くと、そこから一本の虹色の道が暗黒の海へと伸びた。


 刹那と美遊は、崩壊しかけているアレテイアを後にし、その危うい光の道へと足を踏み出した。


過去を裁く者

 暗黒の奥から、無数の「声」が響いてくる。


 それは、これまで刹那が救ってきたはずの並行世界、あるいは救えずに消えていった可能性たちの、数千億もの怨嗟と祈りだった。


「……九条、刹那……」


 不意に、その声が形を成した。


 道の先に、一人の男が立っていた。


 その顔は刹那に酷似しているが、髪は白く、その全身からは「法」そのものが発するような冷徹な圧力が溢れている。


「何者だ。……虚無の王の刺客か?」


「私は刺客ではない。……私は『初代・九条』。かつてこの宇宙で初めて『一秒』を裁き、そして失敗した、君の血脈の根源だ」


 刹那の『一秒の破片』が共鳴し、鋭い高鳴りを上げた。


 初代・裁定者。九条家が代々「世界のバグ」を修正する一族として呪われてきた理由が、今、目の前の男となって現れたのだ。


「末裔よ。君は多くの世界を救ったつもりでいるが、その実、因果の歪みを別の場所へ押し流したに過ぎない。君が救った一秒の裏で、数万年の歴史が消失したことを知っているか?」


第零法則・対・起源の法

「……知っているさ。全部背負うと決めたんだ」


 刹那は迷いなく『一秒の破片』を抜いた。


「そうか。ならば、その資格を検分しよう。……君が救ってきた世界が、君を殺す刃となる」


 初代・裁定者が手を掲げると、周囲の暗黒から「鋼鉄の鎖」「極彩色の毒霧」「灰の巨剣」が次々と出現した。それは刹那が過去に出会った並行世界の「絶望の化身」たちだった。


「――『起源の法:因果回帰(リバース・ロジック)』!」


 過去の戦いの記憶が、実体を持って刹那に襲いかかる。


 自らが救ったはずの力に、自らが追い詰められるという皮肉。


「刹那さん、惑わされないで! それは虚無の王が、あなたの心にある『罪悪感』を増幅させて見せている幻想です!」


 美遊の叫びと共に、聖典から放たれた光が、押し寄せる絶望を浄化しようとする。


「……わかっている。罪があるなら、それすら僕の歴史だ。……上書きしてやるッ!」


新定義:『共生の裁定』

 刹那は自身の魔力を、これまでの「切断」ではなく、すべてを「包み込む」ような柔らかな輝きへと変化させた。


「――第零法則・深度展開:『無名なる叙事詩・追記(アペンド・エピック)』!!」


 刹那の刃が、襲いくる過去の化身たちに触れる。


 だが、彼はそれらを斬らなかった。かつての敵たちの「痛み」を自分の肉体へと転送し、その因果を聖典の空白のページへと直接書き込んでいった。


「……あ、あぁ……」


 初代・裁定者の瞳に、驚愕の色が浮かぶ。


「過去を否定せず、その重みを自身の糧にするというのか……。そんな理は、私の時代には存在しなかった……」


 刹那の全身から、虹色の雷光が迸る。


 その輝きは、もはや一つの世界線に留まるものではない。全並行世界の「祈り」を統合した、真の神話の力。


「……あんたが失敗したのは、独りで背負おうとしたからだ。……僕には、物語を綴ってくれるパートナーと、待っている仲間がいるんだよ!」


 刹那の放った一撃が、初代の「停滞の法」を粉々に粉砕した。


神の座へ

「……見事だ、九条刹那。……君なら、あるいは……」


 初代・裁定者は満足そうな笑みを浮かべ、砂のように崩れ去った。


 彼が消えた後に、一つの「鍵」が残された。


 それは、因果の深淵の最深部――虚無の王が玉座を構える『零の聖域』へと続く唯一の道標だった。


「刹那さん、行きましょう。……本当の、最後の戦いです」


「ああ。……この旅の最後の一行は、僕たちが決める」


 二人は、より深い闇の先にある、一点の「虚無」を見据えた。


 そこには、自分たちと同じ顔をした、もう一人の運命が待っていることを予感しながら。

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