第20話:絶対零度の胎動、時空を超えた共鳴
終焉の特異点
空を覆い尽くしたのは、光を放たない漆黒の太陽――『零の特異点』。
それはもはや一つの世界の問題ではなかった。これまで刹那たちが巡ってきたすべての並行世界が、巨大な重力に引かれるようにこの座標へと収束し、互いに衝突し、消滅を始めていた。
「……世界が、混ざり合っていく……」
美遊が絶望に染まった瞳で空を見上げる。
空の裂け目からは、鉄の規律の街、極彩色の森、灰の砂漠の残像が万華鏡のように入り乱れ、凄まじい次元の摩擦音が鳴り響いていた。
『無意味な抗いだったな、九条刹那』
虚無の王の声が、全宇宙の意識に直接響き渡る。
『救えば救うほど、因果の糸は太くなり、私の糧となる。君が紡いだ希望の物語こそが、世界を終わらせるための最後の鍵だったのだ』
「……僕の旅が、滅びを早めたっていうのか……」
刹那は膝を突きそうになる。救ってきたはずの人々の笑顔が、今は自分を縛る鎖のように感じられた。
境界線を越える声
その時、刹那の胸の奥で、かつて出会った「彼ら」の残響が響いた。
『――何を弱気になっている。計算外の変数が、君の持ち味だろう?』
(シグマ・07:鋼鉄の議長・零司の残響)
『そうよ! あんたが夜を連れてきてくれたから、私たちは明日を夢見られるようになったんだから!』
(シグマ・12:極彩色の魔女・リナの残響)
『九条刹那。……私たちが託した「一秒」を、そんな安っぽく扱わせないわ』
(シグマ・03:断罪の魔王・冴子の残響)
「……みんな……」
刹那の手の中で、『一秒の破片』がこれまでにないほど激しく脈動する。
美遊が静かに歩み寄り、刹那の手に自分の手を重ねた。
「刹那さん。聖典は滅びを記録するためだけにあるのではありません。……バラバラになった物語を、一つに繋ぎ合わせるためにあるんです!」
多層世界共鳴
刹那と美遊、そしてアレテイアにいるリナと零司。
四人の意志が一つに重なり、美遊の『終焉の聖典』が黄金の光を放って天空へと解き放たれた。
「――第零法則・最終奥義:『全時空共鳴』!!」
刹那が吠えると、空に浮かぶ並行世界の残像たちが、敵ではなく「力」へと変わった。
鋼鉄の論理が守護の盾となり、極彩色の魔力が推進の翼となり、灰の荒野の静寂が虚無を打ち消す剣となる。
刹那は虹色の流星となり、漆黒の太陽の中心へと突っ込んだ。
そこには、無数の「負の可能性」が凝縮された虚無の王の本体――実体を持たない、純粋な「終わりの概念」が鎮座していた。
裁定の瞬間
「あんたは『無』こそが救いだと言ったな。……だが、不完全で、間違いだらけで、それでも足掻き続けるこの『一秒』の重さを、あんたは知らない!!」
刹那は『一秒の破片』を真っ直ぐに突き立てた。
これまで出会ったすべての世界、すべての自分、すべての仲間の想いが、一点の輝きに収束する。
「――これが、僕たちの……『存在の証明』だッ!!!」
大爆発が起きた。
虚無の太陽は内側から浄化の光に焼かれ、千々に砕け散った。
統合されかけていた世界線は、刹那が放った「定義の力」によって、本来あるべき正しい位相へと押し戻されていく。
そして新たな旅へ
気がつくと、刹那たちは基点世界の新宿、都庁の屋上に立っていた。
空には穏やかな月が浮かび、次元の亀裂はどこにもない。
「……終わったの、かな?」
リナが周囲を見渡し、安堵の溜息をつく。
「いや……世界は切り離されたが、まだ王の核は消滅していない」
零司が手元の端末を見つめながら、険しい表情で言った。
「奴は、すべての並行世界のさらに外側――『因果の深淵』へと逃げ込んだ。そこは、私たちが知る物理法則さえ通用しない、神話の領域だ」
刹那は美遊を見つめた。
彼女の持つ聖典には、まだ半分以上の空白のページが残されている。
「……因果の深淵。そこに、僕たちの物語の本当の結末があるんだな」
美遊は静かに微笑み、頷いた。
「はい。……行きましょう、刹那さん。……すべての運命を、書き換えるために」
刹那は『一秒の破片』を鞘に収め、まだ見ぬ最後の戦場へと瞳を向けた。
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