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【時空超越の裁定者】崩壊する多層世界を救済する少年と、運命を綴る巫女のクロニクル  作者: ねこあし
第1部『境界線の崩壊編』

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第2話:屈折する現実と、終焉の記録者

魔法庁の最深部にて

 九条刹那は、意識を失った巫女装束の少女・美遊を抱え、リナと共に新生魔法庁の本部へと急行した。かつては敵地であったこの場所も、今や世界の「法」と「法則」が交差する、唯一の防衛拠点となっている。


 最深部の機密会議室。そこには、監査部長となった神崎零司が、無数のホログラムモニターに囲まれて待っていた。


「連れてきたか、刹那」


 零司の視線が美遊に注がれる。傍らでは、魔法庁の顧問となった風見と、刹那の師匠である霧島冴子が、複雑な表情で解析装置を操作していた。


「彼女を装置へ。……信じられん。彼女の魔力波形は、この世界のどの記録にも該当しない。それどころか、『存在の確定』が絶えず揺らいでいる」


 風見が唸る。


 刹那は美遊を医療用カプセルに預け、零司に向き直った。


「零司、さっきの通信の続きを。並行世界の融合……何が起きている」


 零司は一つのモニターを拡大した。そこには、東京上空に発生した漆黒の亀裂――『次元の(ディメンション・)断層(フォルト)』から、ノイズのような影が染み出している様子が映し出されていた。


「現在、複数の並行世界がこの『基点世界』に向かって収束を始めている。これを我々は『屈折現象(リフラクション)』と呼称した。異なる歴史を辿った世界同士が衝突し、互いの存在を上書きし合っているんだ。このままでは、全ての可能性が共倒れになり、最後には何も残らない『白紙化』が訪れる」


美遊の目覚めと「終焉の書」

 その時、カプセルの中で美遊がゆっくりと目を開けた。 彼女は周囲を警戒するように見回したが、刹那の姿を認めると、縋るようにその袖を掴んだ。


「……よかった。裁定者のいる世界に、辿り着けた……」


「君は何者だ。なぜ僕を裁定者と呼ぶ」


 刹那の問いに、美遊は震える手で抱えていた白い本――『終焉の聖典(ラスト・スクリプト)』を差し出した。


「私は美遊。滅びゆく世界を渡り、その最期を書き留める……『終焉の記録者』です。この本は、確定した滅びを綴るもの。でも、この世界に入った瞬間、ページが……」


 美遊が本を開くと、白紙だったページに黒い文字が刻まれていく。


【警告:第一の番人、現世に降臨す。裁定の重さを問うための試練。】


「何……!?」


 リナが声を上げた瞬間、魔法庁全体を激しい振動が襲った。


虚無の尖兵

「零司部長! 第一、第二防壁を突破! 侵入者は……『影』です! 物理干渉が通用しません!」


 オペレーターの悲鳴に近い報告が響く。


 会議室の壁が、音もなく溶け落ちた。そこから現れたのは、中世の甲冑を纏った騎士のような姿をした、だが全身が煤けた影で構成された異形の存在だった。


「あれは……」


 冴子が目を見開く。


「別の並行世界で、英雄として死んだはずの魔導騎士!? なぜあんな姿に……」


『……可能性を……一つに……。選ばれぬ世界を……無に還せ……』


 影の騎士が大剣を振り上げる。その一振りは、空間そのものを腐食させるような、不気味な魔力を帯びていた。


「下がっていろ」


 刹那が前に出る。彼の瞳には、一切の迷いがない。


「零司、空間の固定を頼む。残波が外に漏れないようにな」


「ふん、命令するなと言ったはずだ。――『広域空間(アブソリュート・)絶対監獄(プリズン)』!」


 零司が空間の檻を展開し、影の騎士を隔離する。その中心で、刹那は『一秒の破片』を指先で弄んだ。


裁定の力

 影の騎士が、超高速の突進を見せる。並行世界の英雄としての技術と、虚無の力が合わさった、回避不能の一撃。


 だが、刹那は動かない。


「……一秒もいらないな」


 刹那の周囲に、蒼い粒子が霧のように広がる。それは、時間停止をさらに高次元へと昇華させた『法則の裁定領域』。


「――『時空(クロノ・オー)超越(バードライブ)存在抹消(イレース)』」


 騎士の大剣が刹那の喉元に届く寸前、世界から音が消えた。 刹那が指を鳴らす。 次の瞬間、影の騎士の体が、足元から「存在しなかったこと」として砂のように崩れ始めた。


 時間停止でも、破壊でもない。 その個体が持つ「この世界における存在の権利」を、刹那が『否定』したのだ。


「……あ、ああっ……」


 騎士の影は、悲鳴を上げることさえ許されず、次元の彼方へと消滅していった。


 静寂が戻る。刹那は肩をすくめ、背後の美遊を振り返った。


「これが僕の役割だというなら、受けて立つ。……だが美遊、君のその本には、僕の死も書かれているのか?」


 美遊は、自分を助けてくれた少年の横顔を、畏怖と希望が混ざった瞳で見つめ、小さく首を振った。


「いいえ。……あなたのページだけは、まだ真っ白です。あなたが何を選び、何を裁定するかで、全ての並行世界の運命が書き換えられるから」


「面白い。……なら、ハッピーエンドを書き込めるように努力するさ」


 刹那の言葉に、リナと零司は顔を見合わせた。 未曾有の危機に直面しているというのに、この少年の冷徹な自信は、周囲に不思議な安堵感を与えていた。


 しかし、美遊の本には、新たな文字が刻まれつつあった。


【理の番人、全三柱。一柱目の消失を確認。……『王』の覚醒まで、あと一節。】


 本当の戦いは、まだ始まったばかりだった。

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