表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【時空超越の裁定者】崩壊する多層世界を救済する少年と、運命を綴る巫女のクロニクル  作者: ねこあし
第2部『並行世界の邂逅編』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/23

第11話:魔法なき残照と、鋼鉄の街

次元航行艦『アレテイア』

「全システム、正常。次元座標、固定。……行けるわよ、刹那」


 リナの凛とした声が、艦橋ブリッジに響く。


 決戦から数ヶ月。新生魔法庁が総力を挙げて建造した次元航行艦『アレテイア』は、今まさに現実の海を離れ、次元の狭間へとその船体を滑り込ませようとしていた。


 九条刹那は、中央の指揮官席で静かに目を閉じていた。


 彼の手元には、美遊がその命と引き換えに遺した『終焉の聖典(ラスト・スクリプト)』が置かれている。かつては絶望を綴ったその本は、今やバラバラになった世界を繋ぐための道標――「次元図譜」へと書き換えられていた。


「……第1目標、並行世界シグマ・ゼロセブン。美遊の記録によれば、そこは『魔法庁が存在しなかった歴史』を持つ世界だ」


 刹那の言葉に、ホログラムとして浮かび上がった神崎零司が頷く。彼は基点世界の魔法庁本部に残り、通信と空間演算によるバックアップを担当していた。


『魔法庁がない……。つまり、魔術という技術が体系化されず、野に放たれたか、あるいは別の形で発展した世界ということか。因果の乱れを検知した。そこに「虚無の王」の欠片が潜んでいる可能性は高い』


「わかっている。……リナ、跳躍ジャンプを開始しろ」


「了解! ――次元共鳴エンジン、最大出力! ターゲット、世界線シグマ・ゼロセブン!」


 船体が激しく振動し、窓の外の景色が虹色のノイズへと溶けていく。


 刹那の『一秒の破片』が、次元の摩擦に呼応して蒼い火花を散らす。


 彼がこれから向かうのは、単なる別世界ではない。


 もし、自分が復讐に走らず、もし、魔法庁という組織が生まれなかったら、という「あり得たかもしれない」もう一つの可能性の墓場だった。


色のない新宿

 次元跳躍の衝撃が収まり、アレテイアが通常空間へと離脱したとき、眼前に広がっていたのは見慣れた、だが決定的に異なる「新宿」の光景だった。


「……何、ここ。これが本当に、私の知っている東京?」 リナが絶句する。


 そこには、空を突くような魔導建築アーク・タワーは一本もなかった。


 代わりに立ち並ぶのは、無機質な鉄とコンクリートで固められた巨大な工場群。空は魔力の輝きを失い、重苦しい鉛色の雲に覆われている。街を走るのは浮遊する魔導車ではなく、排気ガスを吐き出す旧態依然とした機械の車だった。


エーテル(魔力)の濃度が極端に低いな。……いや、ほとんどゼロだ」


 刹那が艦橋から外に降り立ち、アスファルトを踏みしめる。


 この世界には、魔法という奇跡が存在しない。


 あるいは、何らかの理由で失われてしまったのだ。


 街行く人々は皆、死んだような瞳をして、耳に取り付けられた機械端末から流れる情報に支配されるように歩いている。


「ねえ、刹那。あそこ……見て」

 リナが指差した先。かつて都庁があった場所には、巨大な「監視塔」がそびえ立っていた。そこには魔法庁の紋章ではなく、冷徹な三角形のロゴ――『鋼鉄の規律(アイアン・ロジック)』という企業のマークが刻まれている。


「魔法の代わりに、科学と情報が人間を支配しているというわけか」


 刹那が周囲の『時間法則』を読み取ろうとした、その時だった。


 背後の路地裏から、数人の黒ずくめの男たちが現れた。彼らは魔導杖ではなく、機械式の自動小銃を構えている。


「動くな。未登録の『特異点』を検知した。貴様ら、どの自治区の人間だ?」


「……自治区? 何のことだ」


 刹那が冷たく問い返す。


「とぼけるな。その服……布の質感が異常だ。それに、その『時計の破片』……。この世界では、そんな『玩具』は禁止されているはずだ。大人しく投降しろ」


 男たちが銃の安全装置を外す音が響く。


 刹那は溜息をつき、一歩前へ出た。


「悪いが、あいにく僕は『規律』という言葉が嫌いでね。……一秒だけ待ってやる。消えろ」


「生意気なガキだ! 撃て!」


 激しい銃声が静寂を切り裂く。


 だが、放たれた弾丸は、刹那の数センチ手前で、まるで目に見えない壁に当たったかのように「停止」した。


「……何ッ!?」


「リナ、こいつらは殺さなくていい。少し眠らせておけ」


「了解。……えいっ!」


 リナが軽く杖を振る。この世界では魔法の行使に大きな抵抗があるはずだが、アレテイアから供給される「基点世界のエーテル」によって、彼女の魔術は通常通り発動した。


 男たちの周囲の重力が一瞬で数倍に膨れ上がり、彼らは悲鳴を上げる間もなく地面に平伏し、意識を失った。


裏切りの影

「ふむ、魔法か。……懐かしいものを見せてもらったよ」


 路地の奥、深い影の中から、拍手と共に一人の男が歩み寄ってきた。


 白衣を纏い、眼鏡の奥で知的な瞳を光らせているその姿を見て、刹那とリナは同時に息を呑んだ。


「……風見?」


 そこにいたのは、基点世界では魔法庁の顧問魔導師として刹那たちを支えている風見だった。


 だが、この世界の彼は、魔法を憎む科学者としての鋭利なオーラを纏っている。


「いや、この世界では『カザミ・エドワード』と呼ばれている。……君たちは、あの『次元の断層』を越えてきた旅人だね?」


「……僕たちを知っているのか」


「知っているとも。私が開発した『確率計算機』が、ずっと予言していた。いつか、自分たちの世界を救えなかった愚かな救世主が、この『鋼鉄の檻』に迷い込んでくるとね」


 風見の言葉には、基点世界の彼が持っていた穏やかさは微塵もなかった。


 彼は、手にしたタブレット端末を操作し、街の大型モニターに一つの映像を映し出した。


 そこには、虚無の王の欠片に侵食され、半分が白紙化しつつあるこの世界の「最果て」が映っていた。


「虚無の王は、この世界の『絶望』を糧に成長している。……九条刹那。君がここに来たのは、彼を倒すためか? それとも、この死に体の世界にトドメを刺すためか?」


「……両方だ。王を倒し、この歪んだ歴史を正す」


「正す、か。傲慢だね」 風見が冷笑する。


「だがいいだろう。君たちの力が必要なのは確かだ。……来たまえ。この世界の『レジスタンス』が君たちを待っている。そのリーダーは、君もよく知っている人物だよ」


再会の交錯

 風見に連れられ、地下の隠れ家へと辿り着いた刹那たち。


 重厚な鋼鉄の扉が開いた先、モニターの明かりに照らされた司令室に、その人物はいた。


 革のジャケットを羽織り、長い髪を後ろで束ねた、精悍な女性。


 彼女は、自身の右腕である「義手」を調整しながら、振り返った。


「……遅かったじゃない、刹那」


「……冴子、さん」


 霧島冴子。


 だが、この世界の彼女は、最強の魔導師ではない。


 魔法を失い、魔法庁という後ろ盾もない中で、科学の独裁に立ち向かう「レジスタンスの英雄」だった。


 彼女の背後の壁には、この世界の相関図が貼られている。


 そして、その最上段、『鋼鉄の規律』の支配者として君臨する男の名前を見て、刹那の瞳が鋭く細められた。


「……まさか、こいつが」


【最高評議会議長:神崎零司】


「そうよ。この世界で魔法を禁じ、人間を機械の部品に変えたのは……あなたの親友、神崎零司。……あいつが、この世界の『王』よ」


 冴子の言葉が、地下室に重く響く。


 基点世界では共に背中を預け合う仲。だが、この世界では、彼は人類の自由を奪った最悪の独裁者だった。


 刹那は、通信越しに基点世界の零司の気配を感じながら、目の前の現実を見据えた。


 並行世界の旅、その最初の試練は、最も信頼する「相棒」との断罪の戦いになることを、彼は確信した。


 手元の『終焉の聖典』が、不気味な黒い光を放ち、新たな文字を刻み始める。


【最初の一節。……鋼鉄の王座に座る『影』を裁定せよ。】


「……面白い。零司。……あんたを殴るのは、これで何度目になるかな」


 刹那は静かに、だが熱く、自身の魔力を研ぎ澄ませた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ