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【完結】1000年後に目覚めた転生勇者が、もふもふ毛玉になって少年と旅をするお話  作者: すくらった


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最終話 魔女フェイドゥーラ


 凍りついた村に戻った途端、夜空が、裂けた。


 それは比喩ではない。

 空そのものが、内側から引き裂かれるように歪み、黒紫の亀裂が走った。


 亀裂の奥から、巨大な影が滲み出る。


 山よりも高く、街ひとつを踏み潰せるであろう質量。

 歪んだ女の上半身に、無数の魔力脈が走り、背後には禍々しい魔法陣が幾重にも展開していた。

 顔は女。だが、目は深淵そのもの。

 口は裂け、奥には底の見えない闇が渦巻いている。


「……あれが……」


 ヴィーノの喉が、かすれる。


「大魔女……フェイドゥーラ……」


「大分力を溜めやがったな。1000年前に戦ったときとは、格が違うぜあのバケモン」

 トレセルの額に汗が流れる。


 彼女が、笑った。


 それだけで、世界が悲鳴を上げる。フェイドゥーラが、動き始めた。


 最初に来たのは、『獣』だった。


 空間が震え、巨大な獣の咆哮が響く。

 ウルの力、『獣』の七災禍。その原型が、数十倍の質量で具現化する。


 山のような魔獣の影が、拳を振り下ろした。


「避けろ!!」


 トレセルの叫び。

 三人が散開する瞬間、地面が消失した。

 衝撃波だけで、数百メートルの地形が抉り取られる。


 続けて、『物質』。


 メタの力。

 空気が硬化し、重力が増す。


「……っ、動けない!」


 ホリーの身体が、見えない圧力に縫い止められる。

 次の瞬間、あの『山脈そのものが落ちてくるようなプレス』が来る。


 ヴィーノが魔力を解放し、黒影を地に突き立てる。


「耐えろッ!!」


 結界が展開され、三人を包む。

 だが、結界はすぐに悲鳴を上げ、ひび割れた。


 ヴィーノは黒影を握り、斬りかかる。


 と、次はバージェの力、『時』が発動する。


 世界の時間軸が、ずれる。


 一歩踏み出したはずの足が、元の位置に戻る。

 攻撃が、当たる前に「なかったこと」にされる。


「くっ……!」


 ホリーが歯を食いしばる。


 『魂』。


 シェールの力が、洪水のように流れ込む。胸の奥に、黒い囁き。


 諦めろ

 逆らうな

 楽になれ


 言葉とともに足元から白い腕が無数に伸び、三人を拘束する。


「……うるさいッ!!」


 ホリーが叫んで、ヴォーパルトゥースを伸ばし、伸びてくる手を切り裂く。


 『天』


 セレステの力。

 雷、暴風、炎が同時に襲いかかる。

 空も地も、逃げ場がない。


 『武』


 ロンフゥの拳。

 巨大な魔力の拳が、連続で叩き込まれる。

 一撃一撃が、当たれば即死級の威力。


 最後に、『超』。

 タマモの力。

 認識が歪む。

 距離が狂い、上下が反転し、敵の位置が定まらない。


「……はは……」


 ヴィーノが、膝をついた。


 猛攻につぐ猛攻。


「無理……だよ……」


 三人は、完全に追い詰められていた。


 フェイドゥーラが、愉しげに笑う。それだけで轟音が空に満ちる。


 オワリ、ダ


 大魔女の口のなかで、七災禍すべての力が、同時に収束する。


 次の一撃で、終わる。


 ヴィーノは覚悟した。


 その時。


「……倒す方法は、あるよ」


 ホリーが、立ち上がった。


「ホリー!?」


 ヴィーノが振り向く。


 ホリーは、ヴォーパルトゥースを胸に突き立てる。


「な、何してるんだ!」


 影が、ホリーの体からあふれ出てくる。


「影を……逆流させる」


「な……!」


「『影』のエネルギー、全部……私に」


 刃が、光を失う。

 代わりに、ホリーの身体が黒く、漆黒に染まっていく。


 影の力、その本質。

 暴走寸前のエネルギーが、ホリーの『器』に流れ込む。


「ホリー、やめろ!!」


 トレセルの叫び。


「私、できることをするよ」


 ホリーは笑った。


「私、『影』だもん」


 次の瞬間。


 ホリーは、跳んだ。


 フェイドゥーラの巨大な口。

 闇の奥へ、一直線。


「やめ……!」


「二人とも、いままでありが」


 言葉は、爆音に掻き消された。


 白と黒の光が、内側から爆ぜる。


 ギイヤアアアアア!!


 フェイドゥーラの身体が、内側から膨張し、崩壊していく。

 七災禍の力が暴走し、器が耐えきれず、裂けていく。


 悲鳴。

 怒号。

 世界を覆っていた魔力が、霧散する。


 そして。


 静寂。


「ああ……」


 トレセルが目を伏せ、ヴィーノは膝から崩れ落ちる。


フェイドゥーラも、ホリーも、天を覆う闇も、すべて消え失せた。空は青く、しばらく聞くことのなかった鳥の声が戻ってきていた。


「あ、ああ……」


 と、崩れ落ちる巨体の中から、影がひょこりと顔を出した。


 「……ホリー?」


 違う。


 小さな、普通の動物。


 それは、白いウサギだった。


 その周囲に、白く輝く毛皮のかけらが、無数に舞っている。


 ホリーの器は、砕けた。

 残ったのは、核だけ。


 ヴィーノが、震える手で毛皮を拾う。


 残りの毛皮のかけらは、風に乗って、世界へ散っていった。


「ホリーの毛皮が……全部……飛んでった」


そこまで言って、ヴィーノははっとした。


「じゃあ、世界中を回って毛皮を集めれば……」


 トレセルが、静かに言う。


「……戻せるかもしれないな」


 ヴィーノが、頷いた。


「次の旅の目的は……決まったね」


ヴィーノは毛皮をフェローストーンに当て、地図に映し出す。


 全世界に無数の点。


 トレセルとヴィーノは苦笑する。


「行くか」

「行きますか」

「友達を取り戻しに」


 二人は、歩き出した。


 村を出る前に、自分の家を覗いていく。


 父親と母親が、机に突っ伏して眠っている。死んではいないようだ。


「いいのか?」

 トレセルの声に、ヴィーノは笑って首を振る。

「いいんだ、行こう」


 白い毛皮を探す、長い旅へ。


 二人の背後で、凍りついた村は溶け始め、世界は静かに、『再生』を始めていた。


fin.





−−

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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