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【完結】1000年後に目覚めた転生勇者が、もふもふ毛玉になって少年と旅をするお話  作者: すくらった


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第5話 もうひとつの形態(フォーム)

コボルト討伐の報告を終え、庁舎を出たヴィーノとトレセルが石畳の通りを歩いていると、突然、甘い声がかかった。


「ねぇねぇ、そこの可愛いボク。ちょっといいかな」


振り向くと、そこには白いウサギを抱いた、ナイスバディのお姉さんが立っていた。

鮮やかな赤のワンピースに、つややかな金髪。

通りの男たちが思わず振り返るほどの美貌だ。


「私、吊り橋で戦ってたキミの活躍、見ちゃった。強いのねぇ。そんなあなたたちと、おねーさん、したいことがあるのぉ」

女は色気たっぷりの吐息を吐く。


ヴィーノは目をぱちくりさせた。

「でも……」

ヴィーノは躊躇する。

「知らない人についていくのは……」

「ついてけ!」

トレセルが即答した。

「い、いや、でも!」

「いいから!こういうのも成長のチャンスだ!」

「何の成長だよ!」


押し問答の末、ヴィーノは押し切られる形で女の後をついていった。辿り着いたのは、人気のない路地裏。湿った石の匂いが漂っている。


「さてと……」

女はウサギを撫でながら微笑んだ。

「一つ、聞かせてください」

ヴィーノが言った。

「なぁに?ボク」

「僕に話しかけてる時、『あなたたち』って言いましたよね。……見えてるんですか、トレセルが」


ウサギの耳がぴくりと動いた。

トレセルが驚いて毛を逆立てる。

「えっ、マジ?そんな事言ってた?」


「あらいけない。あたしったら口が滑っちゃった」

「何者なんですか、あなた」

「フェイドゥーラ様の刺客、って言ったら、そこの毛玉には伝わるかしら」


「フェイドゥーラだと!」

トレセルの声が鋭く響く。

「私の名前は『兎』のホリー。正確に言うとね、あの時敗れたフェイドゥーラ様の配下の魔物。大魔女の沈黙とともに眠りについたもの。

けど、フェイドゥーラ様の復活の日は近い。私たちはあの方の復活に先駆けて目覚めたのよ。

今度こそ、あの方が世界を滅ぼせるように……邪魔者は排除するわ」

「もしかして、僕が赤ん坊の頃に両親に腕輪を渡したのも」

「そう、それもフェイドゥーラ様の『影』。そこの毛玉の転生を阻止するためのね」


「千年後までご苦労さんなこって」

トレセルが毒づく。

「お褒めに預かり光栄」

女は妖しく笑った。

「それでね、目覚めとともに、私たちはあの方の魔力の残滓により『ヒトの器』を賜ったの。眠ったままでもこんな事が出来る。フェイドゥーラ様って、偉大だと思わない?」


ウサギの体が光り、女の胸に飛び込む。

その瞬間、肌が淡く光に包まれ、毛皮がなめらかに身体を覆った。人と獣の境を越えた、美しきバニーガール。

だがその足には桃色に光る具足が装着され、刃のようなつま先が光っていた。


「トレセル!」

ヴィーノが腕輪を外し、トレセルが飛び込む。瞳が深紅に染まり、髪が白く変化する。


「いくぜ!」

「うふふ。おしゃべりはここまで」


ホリーは脚を一閃する。

空気が裂け、石畳にヒビが走る。蹴りの軌道が速すぎて、目には見えない。

「ぐっ!」

トレセルは剣で衝撃波を受け止める。


しかし。


ガキィン!


甲高い音とともに、刃が真っ二つに折れた。

「げげっ……!」

トレセルは後ずさる。


「お遊びには、もう飽きたわ」

 ホリーが唇を吊り上げる。

「おやすみ、ボク」


蹴りが放たれる。そのスピードは、魔力を練り、魔法を放つ隙すら与えない。トレセルは必死に身をひねったが、衝撃で地面に叩きつけられた。


(トレセル!)

頭の中にヴィーノの声が響く。

「……よく聞けヴィーノ。俺たちには、もう一つの形態フォームがある」

(もう一つのフォーム……?)

「だがそれを使うには、お前に『覚悟』が必要だ」

(覚悟……)

「お前に、相手を攻撃する覚悟はあるか。傷つけてしまうことを恐れない、そんな勇気はあるか」


ヴィーノの胸が高鳴る。

雨の匂いを含んだ風が、頬をかすめた。

ホリーが足を構える。ウサギ耳がゆらりと揺れた。


(……戦うよ)

「ヴィーノ」

(トレセルを守るためなら、僕は、戦う!)


トレセルは目を見開き、それから笑った。

「言うようになったな、ヴィーノ!」


毛玉がヴィーノの体から出て、白い光に包まれる。

やがて、その光が一筋の形を取った。


白銀の剣。


刃は氷のように透明で、血管のような赤い文様がかすかに脈打っている。


(俺も補助はできるが、体の主導権はお前だ。来るぞ、構えろヴィーノ!)

「うんっ!」


ヴィーノは立ち上がり、剣を握った。

次の瞬間、ホリーの蹴りが襲いかかる。火花が散り、石が砕ける。


少年は怯まなかった。

(ためらうな!)

「はぁっ!」


剣閃が走る。

ホリーの具足が裂け、女が膝をつく。

そして、白刃が彼女の喉元で止まった。


「もう、勝負はついた。行きなよ」


ヴィーノの声は、静かで真っ直ぐだった。


ホリーは一瞬だけ驚き、それから微笑んだ。

「私を生かしたこと、後悔するわよ、ボク」

「後悔なんて、しない」

「ふん」


白い耳がふわりと揺れ、ホリーは夜の街に消えた。

ヴィーノは剣を下ろし、息を整える。

トレセルが剣から毛玉の姿に戻る。


「ねぇトレセル。僕、ちゃんとできた?」

「ああ。上出来だ、ヴィーノ。……剣士としても、弟子としてもな」

トレセルはため息をついた。

「しかしあの大魔女が復活しつつあるとなると、結構、いやかなり厄介だな……あの時もやっとの思いで倒したのに」

「じゃあ僕と一緒にやろう、トレセル」

ヴィーノが微笑む。

「一人でやっと倒したなら、二人でやればなんてことないよ」

「ヴィーノ……」

トレセルは、瞳に強い意志を込めた少年を見つめる。

「そうだな、一緒にやってくれるか、ヴィーノ」

「もちろん!」


雲間から光が差し込み、二人を照らす。ヴィーノは腕輪をはめると、大通りへ戻っていった。

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