第31話 三番目の「七災禍」
三人の背筋が凍る。攻撃は事前に計算され、触れることすら許されない。
「このぉ!」
ホリーが飛ぶ。
「無駄だよ。この工場に入った時から、君たち三人の電気的な癖はすべて記録した。どの方向へ動き、どの瞬間に魔法や武器を振るうか計算できる。君たちが僕に触れることは、絶対にありえない」
再びG-frameが動く。トレセルが魔法弾を撃とうとした瞬間、既にその位置へ迎撃砲が旋回しており、詠唱の隙を穿つように弾丸が迫る。
「撃つより速く狙われるって……反則でしょ!」
「ホリー、下がれ!」
ホリーは弾幕の合間を飛び、攻撃の軌道を逸らす。だが機体は彼女の反応速度すら上回り、二手三手先を読むように軌道を変え、ホリーの着地点へ先回りする形で脚部の蹴撃が繰り出される。ホリーは壁に叩きつけられ、息を飲むほどの衝撃が胸を走った。
「ホリー!」
「っ……大丈夫。でも、これ……真正面から絶対にムリ……!」
すべての攻撃が読まれている。魔法も蹴りも、そもそも触れる段階にすら至らない。
だが、トレセルはガンスミスの言葉に引っかかりを感じた。
(“生体電気”を感知している……?)
トレセルは床に手をついた。コンクリートのわずかな粉塵。微細な金属片。そこへ、自分の魔力を通す。
「ホリー……もう一回だけ時間を稼いでくれ」
「了解!」
ホリーは飛び回り、G-frameの注意を引く。反応速度は変わらず異常だが、避け続ける戦い方に切り替えたホリーは、決定的な一打を防ぐ。
その間に、トレセルは雷の魔力を床へ流し込んだ。床から壁、天井、フロア全体がじわりと帯電し始める。
「部屋中が……光ってる?」
「これは……!」
ガンスミスも気づく。
「へえ、見事だよ。ノイズを増やして僕の感知を乱すつもりか。悪くない発想だ。でも……」
言い終わる前に、G-frameがトレセルの位置を探るように首部センサーを旋回させる。だが、魔力を込めた電気は、想定以上に照準機能を著しく下げていた。このままでは照準が合わない。ガンスミスに焦りが浮かぶ。
「……そこだ!」
ゼロ距離なら。そんな考えがガンスミスにあった。脚部が火花を散らしながら突進した。そのアームが、ついにトレセルの身体を掴む。
「捕らえた!」
「そうか、残念だったな」
トレセルの言葉とともに、閃光が部屋を包み込む。
トレセルの体から迸った莫大な電流が、まるで解き放たれた雷のようにG-frameへ一気に流れ込んだ。
『ぎゃあああああっ?』
自分の体内に溜めていた純粋な電荷の暴発……静電気。
『あ、ああ……』
「生体電気が感知できても、性質が異なる静電気は……と思ったが、ビンゴだったな」
『壁面の電気は……デコイ……』
スパークがG-frame内部の配線を焼き切り、外装のあちこちから白煙が上がる。
ガンスミスの声が震えた。
『馬鹿な……僕の、計算が……』
機体が膝をつき、胸部の装甲が割れ、中から黒い球体のような「核」が転げ落ちる。金属的で、冷たく、脈動もしない。
「……これ、心臓じゃない」
「思考ユニット……か」
ガンスミスの声がどこか遠くから聞こえた。
「そうさ。僕は……形を捨てた。より効率的に、武器を作り、売り、広めるために」
ユニットの光が、弱く瞬いた。
「それが……フェイドゥーラ様のため……」
そして沈黙した。
三人は肩で息をする。勝った──と思った瞬間、爆発とともに、奥の巨大シャッターに大穴が開く。
「!?」
現れたのは、全てを怯ませるほどの眼光、鍛え上げた鋼のような肉体をもつ男。白いあごひげは、胸まで垂れている。
「七災禍、武器系頂点……『武』のロンフゥ」
ホリーの声が震える。
「ふ、肉体そのものが武器ってわけか、気取ってんな」
ロンフゥはその言葉を無視し、ガンスミスのユニットを拾い上げた。
「何のつもりだ。部下の仇でも取りに来たか」
「……こやつは自分の手ではほとんど戦わぬ卑怯者であったが、最後に自らの体で見事な戦いを見せた。それを悼んで、弔ってやろうと思うてな」
「そういうわけにいくかよ。せっかく現れた幹部サマを、ここで逃がしてたまるか」
「……お前たちは、我と戦う『階層』にはない」
「何を偉そうに!」
トレセルが吠え、構えた瞬間、ロンフゥの腕が揺れ、トレセルとホリーは同時に壁へ叩きつけられ、意識を手放す。
「くは……っ」
「未熟」
ロンフゥが一言だけ放つ。
その気配はすぐに消え、後には静寂だけが残った。




