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【完結】1000年後に目覚めた転生勇者が、もふもふ毛玉になって少年と旅をするお話  作者: すくらった


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第28話 静かなる敵

 フェイドゥーラ学園の正門をくぐった瞬間、光が弾けた。

 白い輝きが視界の輪郭を溶かし、三人の体を包み込む。


 目を開けると、そこは天空図書館の閲覧室だった。物語世界に出発したときと同じように、静寂に満ちている。


 学園のざわめきが記憶の底に沈み、耳の奥で淡く薄れていく。


 ヴィーノは胸に残った屋上の空気を思い出しかけて、すぐに首を振った。過去の光景に心を委ねるには、まだ早すぎると思った。


 と、高い天井から低く響く声が落ちてくる。


「安寧の地を知り、それでも魔に立ち向かう者たちよ。ここに道しるべを授けよう」


 空気が微かに震え、閲覧机の上に光が集まる。舞う砂粒のように光がきらめき、ゆっくりとひとつの形に収束していく。やがてそれは薄い羊皮紙の地図となり、静かに横たわった。


「これが、地図」

 ホリーはそっと紙の端に指を触れた。羊皮紙の感触は、微かにざらつき、触れた瞬間、陽だまりに触れたように温かく感じた。


 トレセルは深く息をつき、前足で地図を器用に巻き取った。

「今日はひとまず宿で休もう。詳しく調べるのは明日だ」


「そうね……なんだか体の奥がまだフワフワしてる」

 ホリーは耳を軽く倒し、学園の幻のような空気が残るのか、ほんのり笑った。


「さて、どうやって地上に……」

 言いかけたトレセルの声を、天井から落ちる光が遮った。

 白い柱が静かに床へ降り、中心に細い『降下の印』が揺れている。まるで図書館自身が「ここから」と示しているようだった。


 三人は短く頷き合い、光へ歩み入る。


視界が反転し、次の瞬間、三人はニブラリの大通りに立っていた。夕の風が頬を撫で、現実の温度がゆっくりと染みていく。街路の石畳はまだ昼の熱を残し、風は金属の看板に触れて低く唸った。


「じゃあ、宿に向かおうか」

トレセルが歩き出す。ホリーも軽やかな足取りで続く。


ヴィーノは少し遅れて二人を追い、意を決したように口を開いた。


「あ、あのさ……ホリー」


「ん?どうしたの、ボクちゃん?」

 耳が風を受けてわずかに揺れる。夕光が彼女の横顔を柔らかく照らしていた。


「……いや、なんでもない」

 言い淀むヴィーノに、ホリーはくすくすと笑う。

「変なの」


 その微笑に、ヴィーノは視線を下げた。屋上で揺れた心は、まだ形を持たないまま胸に残っている。


 あれは、ただの物語の世界の出来事なのか。


 それとも。



 ヴィーノがなんとなくポケットをまさぐると、フェイドゥーラ学園で手に入れた、1枚の栞が入っていた。彼はそれをそっと指先に触れさせる。

 歩きながら考え、考えても答えの出ない問題を、ヴィーノはそっと胸の奥へ沈めていった。


 翌朝。三人は昨夜手に入れた羊皮紙の地図を広げていた。

メタの外殻とフェローストーンに触れさせると、地図は淡く赤い光点を瞬かせる。


「この光が、『影』や『七災禍』の存在する位置」

 ヴィーノがつばを飲み込む。


「ここから一番近いのは……この点か」

トレセルが指し示すのは、街外れの廃工場の記された地域。


「うーん、なんか嫌な感じするねぇ。絶対何かいるやつじゃん」

 ホリーが顔をしかめる。


「そういう地図だからな。遠くに行くほど強敵の可能性が高い。まずは近場から潰すべきだろう」

トレセルは冷静に述べる。


「でも、なんでこんな近くにいるのに襲撃してこないんだろう?」

ヴィーノの眉がわずかに下がる。


「直接手を下さず、誰かにやらせるタイプもいるんだよ」

 何か心当たりがあるのか、ホリーは地図を見つめながら呟いた。


 翌朝。工場への道中は静かだった。鳥の鳴き声、木漏れ日が揺れる小道、風に揺れる葉。戦いの匂いは一切ない。だが廃工場の赤色は、確かに点灯している。


「本当に何かいるのかな……」

 ヴィーノは少し肩の力を抜いた。


「だからこそ警戒すべきなんだ」


 トレセルは周囲を慎重に見渡す。

「影は本来、周囲を歪ませる。気配がないのは逆に隠れている証拠だ」


「隠れる……か」

 ホリーは地図を広げ、光点を覗き込む。

「でも、ちゃんと光ってるね。確かにいるみたい」


 やがて三人は開けた場所に出た。古びた工場がぽつんと建っている。


 天に向かって伸びる煙突、崩れた鉄骨、板で打ち付けられた窓、半ば沈む錆びた扉。どう見ても廃墟そのものの姿だが、どこか空気が静まり返りすぎている気もする。


「……煙、出てないね」

「工場なのに動いている感じがしない」

「ただの廃墟にしか見えない……」


三人は顔を見合わせた。だが地図の光点は、確かにこの建物を指している。


「入ろう」

トレセルが言った。ヴィーノとホリーも静かに頷いた。

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