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【完結】1000年後に目覚めた転生勇者が、もふもふ毛玉になって少年と旅をするお話  作者: すくらった


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第25話 あなたたちの物語

「じゃあ、私たちはここまで。頑張ってね!」


 白亜に輝く建物の前で、ナコが笑顔で手を振る。

 トレセルたちは深く頭を下げた。


「ありがとう、助かったよ。またいつか」

「うん、困ったら呼んでね!」


 ナコはフライングドッグたちと共に、風へ溶けるように去っていった。


「さて……」


 三人は振り返る。


 天空図書館。


 天を貫くそれは、世界の中心にどっしりと建てられた『神殿』のようだった。

 白光を放つ柱は雲を突き抜け、内部へ続く階段は地に影を落とさない。見る角度によって輪郭が揺らぎ、まとわりつくような静寂が外気さえ変質させていた。


 三人は、浮遊する階段を慎重に登り、扉のない入口をくぐる。


 空気が変わった。


 天井はどこまでも高く、雲の薄膜の向こうに夜空のような宇宙が流れている。淡い金色の光が書棚の上を川のように移動し、かすかなさざ波を起こしていた。


 巨大な書架は天まで伸び、古い羊皮紙、透き通ったガラスの本、表紙もない本……ありとあらゆる時代と場所の本が収蔵されている。


 そして、音が一切しない。

 呼吸さえ、図書館に吸い込まれるようだった。


「……すごい。こんな場所が本当にあったなんて」

 ヴィーノが自然と囁く。


「ああ……俺も初めて来たが、想像以上だ」

 トレセルも声を潜める。


「しずか……すぎる……」

 ホリーさえ慎重に、そろりと歩いた。


 三人は奥へ進み、壁際の展示台の前で足を止める。


『あなたの物語』と書かれたパネルが壁に貼られている。

 そこには、華やかな装丁の本が並んでいた。どれも『主』が来るのを静かに待つように。


 そしてただ一冊。

 特に異質なそれが、展示台の中央に置かれていた。


 黒革装丁。

 金文字で刻まれたタイトル。


《フェイドゥーラ学園物語》


 それは、近づくほどに空気がわずかに歪み、ページの隙間がゆっくり脈動しているように見えた。


「……なんだこれ。悪い意味で存在感が強すぎるだろ」

 

 トレセルが眉をひそめ、

「ホリー、絶対触るなよ。あの本の周囲だけ魔素が凝縮されてる。ほんとにやばそうだからな」

 と、先回りして釘を刺した。


「触らないってば……見てるだけー……」


 ホリーは、気がつけば、もう展示台のすぐ前にいた。


「わっ、いつの間に!?」

「しー……音がしないからバレないんだよね、ここ……」

「だから慎重に動けって……ホリー!」


「だいじょ……あっ」


 ホリーが指で距離を示そうとした瞬間、その指先が表紙をかすった。


 バンッ!!


 本が内側から破裂するように開き、白い光が吹き荒れる。


「きゃあああ!! ちょ、なにこれ!?」

「ホリー!!」

「だから触るなって言ったんだよぉ!!」


 ホリーの片腕が本に吸い込まれた。

 トレセルは咄嗟にホリーのもう片方の腕を尻尾でつかみ、ヴィーノもトレセルを抱えて引き寄せる。


 だが、床が震え、本の周囲だけ重力が反転したかのように空間が歪む。


 ページの間から吹き出した光が竜巻のように渦を巻き、三人を飲み込もうとする。


「これやばいって! めっちゃ引っ張られてる!!」

「離すなよヴィーノ!!」

「離さない!! けどこれ無理~~ッ!!」


 光が跳ね上がり、三人の体が浮く。


「うわっ!」

「きゃあっ!!」


 ホリー、トレセル、ヴィーノの順に、白い奔流へ吸い込まれ

、視界が白に塗り潰され、音が世界から抜け落ちた。


 そして三人の姿は、天空図書館から消滅した。

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