第18話 三者三様、ダンジョン探索
荒野を冷たい風が切り裂き、砂を巻き上げていく。
三人の前にあるのは、ぽっかりと口を開けた『忘れられた遺跡』の入り口だった。
「……で、フェローストーンってそんなに貴重なの?」
ヴィーノが少し緊張気味に尋ねる。
「希少と言えば希少だけど、使い道がほぼないから価値は低いの。ま、だからこそ私たちが狙えるわけ」
ホリーは肩をすくめつつ、ふわりと兎耳を揺らした。
「もし高値だったら、今ごろ国レベルで奪い合ってるだろうな」
トレセルがくくっと笑う。
「じゃ、サクッと拾って帰ろ!」
ホリーは急に気が抜けたようにあくびをして、先に洞窟へ入ろうとする。
「いやでも! ダンジョン攻略はそう簡単じゃないんだって!」
トレセルが慌てて叫ぶ。
「二人とも、喧嘩はダメだよ」
ヴィーノにたしなめられ、ホリーは「へいへい」と手をひらひらさせて洞窟へ消えた。
「……あのウサギ、ちょっと衝動的すぎるぞ!野生動物か!……動物だったわ」
「ホリー、ちょっと待ってってば!」
トレセルとヴィーノが慌てて追う。
湿った石の匂い。天井から滴る水音。
洞窟は息を潜めた魔物のように、冷たく沈黙している。
「しかし湿気すごいねー。自慢のふわふわっ毛がぺったりしちゃうじゃない」
ホリーが兎耳をぱたぱた揺らす。
「湿気は火魔法に干渉する。魔力も逃げやすい。火魔法は使えないものと思ってくれ」
トレセルが魔力を巡らせながら言った。
そのとき――
バサササササッ!
「来る、上だ!!」
トレセルの叫びと同時に、天井から黒い影が雪崩のように落ちてくる。
「キィィーー!!」
コウモリ型モンスターが数百匹。
黒い塊となって三人へ迫る。
「ひっ、きもっ!」
ホリーは飛び込んだ一匹をサマーソルトで華麗に蹴り、壁に叩きつけた。動きは軽やかで、迷いがない。
「ヴィーノ、剣でいくぞ!」
「うん!」
トレセルは白銀の剣へと姿を変え、ヴィーノの手に吸い込まれる。
剣は白い軌跡を残して振るわれ、コウモリを次々と煙のように消していく。
「ウィンド・カウンター、発動!」
トレセルが詠唱すると同時に、ヴィーノの周囲に風の渦が舞い上がる。
「はああっ!」
斬撃の速度が一段増し、数秒で残りのコウモリはすべて消えた。
「ふぅ……まあ雑魚だね」
ホリーが脚を伸ばし、軽くほぐす。
「油断すんなよ。ダンジョンは奥が本番だ」
トレセルは相変わらず慎重だ。
やがて通路の先が大きく開けた。
ゴゴゴゴゴ……
揺れる床、低い振動。
そして、高い天井に頭が届きそうな巨大な岩のゴーレムが姿を現した。
「ゴーレム!? でっか!?」
ホリーが目を丸くする。
「来るぞ!」
ヴィーノが剣を構え、トレセルが魔力を集中させる。
巨岩の腕が振り下ろされる。
「にっげろおお!!」
ホリーの声と同時に、三人は散開。地響きが洞窟中に響く。
「硬いよこれ! 剣、いける?」
「通す! 魔力増幅!」
トレセルの声とともに剣が強烈に光を放つ。
「やあっ!」
ヴィーノは関節めがけて斬りつけた。
バキィン!
巨大な腕が砕け、崩れ落ちる。
「ナイス! なら、こっちは、っと!」
ホリーは身軽に跳んで洞窟の壁を蹴り、反動で崩れた巨体へ蹴りを叩き込む。
ゴーレムは体勢を崩し、前のめりに倒れた。
「今だ、決めるぞ!」
「任せて!」
三人の攻撃が重なる。
トレセルの魔力が剣を巨大な風刃へと変貌させる。
魔法を纏ったヴィーノの剣が首元に突き刺さり、ホリーの真上からのキックが胴を打ち抜き……
ゴロゴロゴロッ……!
ゴーレムは砕け散り、霧となって消えた。
「うちらって、最強チームじゃん?」
ホリーがウィンクする。
「まだ新入りだろ。調子乗んな」
「でも強いのは事実でしょ〜?」
ホリーは元気いっぱいに奥へ走り出した。
「はあ……ちょっとは疲れろよ。なんてスタミナだ」
「ホリー、待ってー!」
さらに奥へ進むと、祭壇のようなものが現れた。
中心には淡く光る石――
「……フェローストーン?」
「なんだ、すぐそこにあるじゃん!」
ホリーが迷いなく駆け寄る。
「待て! そんな簡単に……」
トレセルが慌てて止めようと近づいたが、毛玉が言い終わる前にホリーは石を持ち上げた。
ガコン。
嫌な音。床が沈み――
「えっ」
「バカヤロオオオ!!」
「ごめぇぇぇん!!」
三人の足元が抜け、遥か下へと落ちていく。
ホリーはトレセルの尻尾をつかみ、一緒に引きずり下ろした。
「うわああああ!!」
「何しやがるクソウサギ!!」
「わかってた!わかってたのにぃ!」
三人の悲鳴が、洞窟の底へ吸い込まれていった。




