第16話 新たなる仲間(?)
メタの力でパワーアップしたマグネラを撃破した二人が次にやってきたのは、魔法都市ニブラリ。古代魔術の残滓が街中に点在する不思議な場所だった。宙に浮かぶ石の灯りが青白く輝き、透明なパイプの中を流れる魔力の流れは、昼間の光を受けてきらめいている。街角には古びた魔導端末が無造作に置かれ、魔力回路が淡く脈動していた。
ヴィーノは珍しそうに何度も立ち止まり、魔力が流れるパイプに触れようとする。そのたびにトレセルは尻尾でヴィーノの背中を軽く叩き、歩くことを促した。
「すごいなぁ……全部まだ動いてるんだね」
「さすがは魔法都市だな。1000年以上前に作られた仕組みが、改修されながら今も現役で動いてるとは。この街は1000年前には……」
その時ふっ、と毛玉の横を人が通り過ぎた。トレセルの毛並みが一瞬逆立つ。耳がぴくりと動き、鼻先で空気を嗅ぎ取る。ヴィーノは何があったのか分からず、目をパチクリさせる。
「おい、今の女を追うぞ」
突然の抑えた声に、ヴィーノは驚く。雑踏の中、フードを深くかぶったコートの人影が、素早く路地裏へと消えていく。
「えっ、えっ、なんで追うの? しかもどうして女だって分かるの?」
「勘だ」
「勘って。待ってよトレセル」
トレセルはヴィーノの肩から、尻尾で勢いをつけて跳ぶと、ビルの隙間に入っていく。ヴィーノは慌ててその後を追った。
なんだかこんな事が前にもあったようなと思いながら。
路地は人気がなく、大通りからのかすかな魔力の光が薄く漂うのみ。ヴィーノは息を整え、肩の力を抜こうとしたその瞬間。
「お前、ホリーだろ」
あまりにもあっさりとした口調に、ヴィーノは思わず目を丸くした。
「え、えぇ!? ホリーって……あの兎の!? いやいや、そんなわけないよ、トレセル!」
フードをかぶった女は、トレセルの呼びかけにビクッと体を震わせると、フードを目深にかぶり、ゆっくりと振り返った。声を作り、わざとらしく言う。
「ひ、人違いではありませんか? 私は古代技術研究者のソフィア・カインドハート……」
その瞬間、トレセルは尻尾を前方に伸ばすと、先端から氷の鋭いリングを生み出した。パキッという乾いた音とともに、空気が凍りつく。
「ひゃっ!? ちょっと待って!? な、なに投げ……」
氷の刃が一直線に飛ぶ。女は慌てて足を上げ、すねで弾き返した。氷の小型円月輪が欠けて砕け散る。ロングコートが裂けると、見覚えのあるピンクの具足が光を受けて反射した。
「あ……」
「ほらな」
女は肩を落とし、コートを脱ぎ捨てて胸を張って言った。フードに隠されていた兎の耳がぴょこんと立つ。
「バレちゃ仕方ないわね。そう、私はホリー!『兎』のホリーよ!」
ヴィーノは目をまん丸にして声を上げた。
「本当にホリーなの!?」
「それにしても危ないわね! 本当に人違いだったらどうするつもりだったのよ!」
「それはねぇさ」
トレセルは冷ややかに言い放つ。
「なんでよ?」
「人違いなら、俺の声が聞こえるはずねぇからな」
「あっ……」
ホリーは口を開けて固まる。
本気で驚いたらしい。
「……アホかおめぇは」
トレセルはため息をひとつつき、あきれたとでも言うように尻尾をだらんと下げた。
ホリーは不服そうに頬をふくらませ、腕を組む。
「だって、バレてないと思ったんだもんっ。アタシだって逃げてる身なのよ。『獣』のウルに逆らったせいで、影たちの世界にいられなくなっちゃった。んで放浪してたら、ここが安全っぽかったから隠れてたの」
「ああ、あの時のアレ……」
ホリーはにやりと笑った。
「そう、一発食らわせたアレよ。そしたら他の影から総スカンよ。だからってアタシ、このままくすぶってられないでしょ? どうせならフェイドゥーラに……一発かましてやりたいの」
明るい声だが、目は真剣だ。
「そんでもって、なんかあいつらの弱みはないかって情報を集めてたらね……なんと七災禍ってさ、フェイドゥーラの魔力を七つに割った存在らしいのよ。全部倒したらフェイドゥーラを封印できるんだって」
ヴィーノは息を呑んだ。
「全部倒す……つまり『獣』のウルも『剛』のメタも、ってこと?」
「ええ。だからアタシ、あのオベリスクの残骸を探してたわけ」
そこまで言うと、トレセルが低く問いかける。
「お前が敵の工作員じゃないって保証はどこにある?」
「う……確かに保証なんてできないけど……ほんとだもん」
ホリーは視線を泳がせ、短く詰まる。
その瞬間、ヴィーノは肩をすくめて言った。
「まぁ、いいんじゃない?」
二人が一斉に振り返る。
「え、いいの!?」
「いいのかよ!?」
「だって、悪い感じしないし。今もホリー、僕たちを襲わなかったし……それに、フェイドゥーラを止めたいなら、目的は同じだよ」
ホリーは瞬きをしてから、ふわっと笑った。
「……あんた、変わってるわね」
「だろ」
とトレセルは苦笑しつつなぜか少し嬉しそうに尻尾を揺らした。
「はぁ……しゃあねぇ。こいつがいいって言うなら、見張りくらいには使ってやるよ」
「じゃあもう仲間だ!」
「うん! よろしく、少年くんにトレセルちゃん!」
「ちゃん付けはやめい」
ヴィーノは嬉しそうに笑い、トレセルは小さく舌打ちした。しかし、その尻尾は不思議とリズムを刻むように揺れていた。




