第7話sideミゼッタ=リーン2
「ミゼッタ=リーンさん。報告をお願いします」
「は、局長殿。現れた特異点は初期通報の通り、オーガをその基点としておりました。ただ──」
「ただ?」
「はっ。複数特異点保有個体でした」
「──ほお」
さすがの局長も驚きを隠しきれない様子に、どこかほっとするミゼッタだった。
ソルト様の大活躍により、一切の被害もなく、特異点の処理を終えることが出来たミゼッタたちは、事後処理を他の局員に任せて魔導局へと帰投していた。
そして真っ先に訪れたのはここ、局長室だった。
目の前の執務机に、ちょこんと収まっているのは、魔導局局長。エルフ族の血を引くとのもっぱらの噂通り、その見た目は純人のミゼッタからは、幼女にしか見えなかった。
とはいえ、魔導騎士の諸先輩方が入局した時分から局長の見た目は一切変わっていないらしいので、そのエルフ云々の噂は本当なのだろう。
その、見た目とは裏腹に長い年月を生きてきたに違いない局長ですら、複数特異点保有個体の出現には驚くらしい。
「──報告は以上となります」
「よくぞ皆さん、無事で事態をおさめてくださいました」
「ありがとうございます。ただ、そのほとんどはソルト様の功績です」
「ええ。しかし、ソルトさんのお手を煩わせてしまいましたか」
「はい。誠に汗顔の至りです。それにつきましては、どのような御処分でも申しつけください」
「──処分は、当然いたしません。まさにこういった事態のために、ソルトさんには無理を言っているのですから。それに、かのリリー女史の方針とも相反します」
手を組み合わせ、足をぶらぶらとしながらも幼女の顔で思慮深く告げる局長。
『深淵に最も近き者』を部下として抱える重責を一人で背負った者の顔だった。
「はっ! かしこまりました」
「──複数特異点の同時発生……これは何らかの予兆の可能性があります。此度の持ち帰ってきた特異点の宿った品は私の方でも拝見させていただきました。ミゼッタさんの、オーガロードの心臓を一撃で抜いた腕前は称賛に値します」
「恐れ入ります。それもソルト様の束縛の古代魔法があればこそでした。あれは恐ろしくもなんとも有用に見えました……」
思わず至近距離でみたソルト様のお姿を思い出して、仕事中だというのに、ミゼッタはうっとりとしかけてしまう。
ミゼッタの目からは、ソルト様は杖で軽くオーガロードの体に触れているだけだった。それなのに、オーガロードはなすすべもなく膝をつき、こうべを垂れていたのだ。
まるで絶対的な存在に膝を屈し、服従するかのように。
「それでも、です。今の魔導騎士の中で同じことをはたして何人ができるか……」
憂い顔を見せる局長。しかしすぐにその憂い顔を消す。
「ミゼッタさんには、更なる活躍を期待しております。その中でミゼッタさんがソルトさんと関わる機会も、自然と増えることでしょう」
「っ! お、恐れ入ります」
ミゼッタはそう返事をすると、局長室から退出するのだった。
その足取りは浮き立つように軽いものへと変わっていた。