第6話 特異点を処理
グリンハイムを駆り、リリーさんから聞いていた特異点の座標にたどり着くと、ちょうど魔法騎士様たちが陣をはっているところだった。
上空を旋回すると、そのうちの一人がこちらに両手をあげて振ってくる。
金髪の女性だ。
多分だが、午前中にノースちゃんを見に行った時に挨拶した魔導騎士様の気がする。
私も片手をあげ振り返すと、邪魔にならないように魔導騎士様たちの陣の後方にグリンハイムを下ろす。
「よっと」
私がグリンハイムから降りると、グリンハイムもよくわきまえていて、自主的に邪魔にならない場所まで下がっていく。
──リリーさんの調教が素晴らしいんだろうな。そんなグリンハイムを気軽に貸してくれるリリーさんは本当に気前がいいよね
僕はグリンハイムが安全なところまで下がったことを確認すると、杖を取り出し、陣をはっている魔導騎士様たちの方へと向き直る。
どうやら、こちらも始まるようだ。
これから処理しないといけない特異点というのは、いわゆる魔素の流れの淀みのようなものだった。
何かの生き物や自然物を基点に発生することもあるし、ごく稀に何もない空間に発生することもある。そしてその何もない空間に発生する場合の方が事態は深刻だったりする。
今回は幸いなことに一番よくあるパターン。
魔物を基点にしての発生だった。
抜剣した魔導騎士様たちが剣を向ける先にいたのは一体の角の生えた人型の魔物。
いわゆるオーガと呼ばれるものだった。
周囲を取り囲む人間たちを憎々しげに見回すオーガの角が、赤く脈打つように光り輝いている。
──特異点の場所が、分かりやすい風だね。
私が特異点たるオーガの角を見ながらそんなことを考えていると、金髪の魔導騎士様の掛け声で、一斉に魔導騎士様たちがオーガへと襲いかかる。
オーガもただ黙って待ってはいなかった。
迎え撃つように、包囲し迫る魔導騎士の方へと走り始める。
──いや、あれは包囲を突破しようとしているのか。結構しっかり考えているみたいだ。
しかもオーガの狙いは号令をかけた金髪の魔導騎士様のようだ。
──たぶん、オーガは、彼女が指揮をとっていることも理解している。余計なお世話じゃないと良いけど……
私はとっさに杖に込めた72の古代魔法の起動式の一つを発動する。
杖を覆うように展開した起動式が大地へと、ポタポタとこぼれていく。
目には見えないが、起動式が大地の中を伝わっていっているのだ。そして、走り出したオーガの足元の地面に起動式が到達する。
すると、ぽこっと地面が窪む。
それはちょうどオーガが前に振り出し、右足で踏もうとしていた場所だった。
急に地面が消えたオーガが前につんのめる。
そのまま、盛大に倒れこむオーガ。
それはちょうど金髪の魔導騎士様の剣が、オーガの首に届く場所だった。
金髪の魔導騎士様の剣の一閃。
──お、起動式の載った綺麗な剣閃。
私が感心して見ていると切り飛ばされたオーガの頭部に他の魔導騎士様達が殺到していく。
特異点たる角を急いで頭部から切りはなそうとしているのだろう。
それ自体は、なんら問題はない。早く切り離して処理しないと、新たな魔物が生えて来てしまうからだ。
問題は、魔導騎士様達が、金髪の魔導騎士様を除いて全員そちらへと向かってしまったこと。
──はいはい。もう一個の特異点の方が私のお仕事って感じかね。了解了解。
全体を俯瞰して眺めながら、私は杖に込めた別の起動式を発動すると、そっと自身の足に杖を当てる。
起動式が私の足腰を包み込む。
足腰を中心に、一時的に肉体の強化がされる。
そのまま私は駆け出す。
向かうのは、こちらに嬉しそうに腕を振っている金髪の魔導騎士様。そしてその背後で首を失くしたまま起き上がり始めたオーガの赤く光り、脈打つ肉体。
強化された足が地面を抉るようにして、私の体を一気に加速させる。
まだ魔導騎士様は背後に気がついていない様子だ。
ただ、急速に近づく私の姿にその顔が驚きに染まる。
──あ、背後に気づいた。でも、たぶん対応は間にあわなそう。ごめんなさい。
声をかけるよりも、起動式の準備をした方がいいかなと思いながら、私は心のなかで先に謝罪しておく。
そのまま、金髪の魔導騎士様のもとまで走りよると、杖を持っていない方の片手を魔導騎士様に回して、抱き上げるようしてその場を走り抜ける。
魔導騎士様のいたところへ振り下ろされる、首なしオーガの拳。
いや、特異点の効果で、すでに新たな首がその体には生えていた。角が、三本に増えている。
それはオーガよりも高位の魔物、オーガロードの首だった。
振り下ろされたオーガロードの拳の威力も倍増していた。
しかし、駆け抜けて、オーガロードの背後へと回り込んでいた私には、威力が多少増えてても、特に大差はなかった。
「あー、すいません。もう一つの特異点がオーガロードの心臓にあるのでお願いできますか?」
私は背後からは杖をオーガロードへと触れさせ、起動式をその体にて発動させると腕の中で顔を真っ赤にしてこちらを見ている魔導騎士様に告げる。
「わ、わかりました。これはソルトさ……んが束縛を?」
「微弱な電流で、筋肉へ伝わる電気信号に干渉しています。長くは持ちません。お早く」
「か、かしこまりましたっ」
剣を両手で構える魔導騎士様。その剣に魔導騎士様の起動式が載る。
気勢をあげるように可愛らしく声を出しながら、魔導騎士様が背後からオーガの心臓目掛けて剣を突き入れるのだった。
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