第3話 頼まれごと
魔導局内の四つの塔に設置された魔導具のチェックを終えた私は、管理課の自分の机に戻ってきていた。
幸いなことに北の塔のノースちゃん以外は調整の必要もなく、あっという間に終わってしまった。
お昼休憩にすら、まだ少しだけ時間があるほど。
私は自席の近くの窓を再び少しだけあけて、風を感じながら、お昼休憩までの隙間時間で日報を軽く作りはじめる。
日報なので、ほぼ定型文だ。鼻歌混じりで書いていると、部屋のドアがノックされる。
「どうぞー」
「ソルト、いたか。お邪魔する」
「ああ、リリーさん。こんにちはー」
訪れたのは、魔導局調査課の課長で、私の学園時代の知り合いのリリーさんだった。
ここ魔導局への転職を誘ってくれた恩人でもある。
スタイルのよい全身をタイトな準戦時用のローブがおおい、白銀の長髪を眩しげに輝やかせて、リリーさんが私の机に歩み寄ってくる。
「忙しいところすまない。ソルト、少しだけ時間、良いか?」
「ああ、まだお昼休憩まで間があるから大丈夫」
ちなみに私はお昼はいつも一人だ。
休憩時間は基本的に一人でのんびり過ごしたい派。
局内では少しだけ付き合いの長いリリーさんはそれを知っているので、こういう時にお昼ご飯に誘ってこないので、とても安心だった。
「実は頼みたい仕事がある」
私が窓際職で比較的手がすいていることを知っているリリーさんは、時折こうして簡単な仕事をお願いしてくることがあった。
とはいえっても、基本的にはリリーさんから頼まれるのはどれも簡単な仕事ばかりだ。
私が、暇し過ぎないようにわざわざ気を遣ってくれているのではと、実は思っていた。
なんにしても、魔導局に誘ってくれた恩もあるし、こちらから別件で調査課にお願いをすることもあるので、リリーさんからの簡単な頼みは基本的に引き受けていた。
持ちつ持たれつというやつだ。
「はいはい。今回はどんな用かな?」
「いつもすまないな。実は天駆けで、30分ほど行った場所に特異点が観測されてな。魔導騎士たちが遠征する」
「あらま。後片付けをしてくればいいのかな」
「そうしてくれると助かる」
「座標は?」
「北035東007だ」
「ああ、それで……」
──ノースちゃんの偏向の遠因はそれか……あとで日報の備考に加えておくか
「うん?」
「いや、ごめん。なんでもない。で、いつもみたいに天魔を借りても?」
「もちろんだ。いつも言っているように私の天魔はいつでも好きに使ってくれていい」
「そう言うわけにもいかないでしょ。まあ、今回はもちろんお借りするけど。で、魔導騎士様たちの現着は?」
「午後一」
「じゃあ先に軽く食事にしとくかな。それからむかえば、ちょうどいいぐらいに着きそうだ。それじゃまた」
「──ああ、またな」
一瞬の間があったが、すぐに別れの挨拶を告げて去っていくリリーさん。
なんだか名残惜しそうな顔をしていた気もするが、たぶん私の気のせいだろう。
リリーさんの退室を見届けると、午後からのお出掛けに備えて、私は早めのお昼休憩をとるのだった。